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芯界  作者: カレーアイス
第二章 騎士入学編
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カオスと火山

 ナイフが、私の胸を貫いていた。

 案外痛みは少ない。

 ジワリジワリと、痛みが増していく。


「……どういうつもり?」

「そういう指令ですので」

「ッ!」


 刺さったナイフを動かさないよう、最大限の注意をしながら、後ろ蹴りでディーシュを突き飛ばした。

 壁に激突した彼女と対峙し、背に刺さったナイフを慎重に抜く。


「確実に気絶する部分を刺したハズですが……さすが、ドラゴンの因子を引くと言われるだけはありますね」

「映画の悪役よろしく、自分の悪行を解説する気はない?」

「……私はもとよりこういう役だった、というだけの話です」


 立ち上がって、ゆっくりと迫るディーシュに対し、血が垂れ出る胸を抑えながら、ジリジリと下がる。


「聡明なあなたなら、いつかこうなるのではないかと、派閥の古株は懸念していたのですよ。そこで、いざという時に、引導を渡すために派遣されたのが、私です」

「一応、この後のご予定を聞いても?」

「アナタは東側の刺客に殺されたことにして、新たな戦争の火種にでもなってもらいましょう」

「……どこかで聞いたような死因ね」

「ああ、そういえばアナタの父親も同じ手で殺されてましたね」

「自白ありがとう、Firester(ファイアスター) Dragavolc(ドラガボルク)!」

Chabrisorb(カブリスオーブ)


 周囲が火山に変化。

 巣からドラゴンが飛び出し、私の周りに集う。

 しかし……いつもより数が少ない。

 出血と激痛で、意識が霞むせいで、存在基底がすり減っている。


「困りますね。死亡タイミングは、精密に操作しなければなりませんのに……私が殺すことになってしまいます」

「私に勝てると思ってるの?」

「思ってますよ」


 ディーシュの芯界は、災害の後の町のような、荒廃した瓦礫の山を作り出す。

 その瓦礫を操って攻撃するのが、いつもの戦法だ。

 しかし……今日は様子が違う。

 空には暗雲が立ち込め、暴風が吹き荒れる。


「……本当の性能を隠してたのね」

「暗殺対象に自分の能力を明かすバカがいますか」

「道理ね。両翼(ウィング)、ファイア」


 存在基底が低下しているせいで、押し合いには勝てないので、速攻で終わらせるしかない。

 陣形の両翼のドラゴンが、ディーシュに向かって火を吹いた。

 重なり合って、中々の威力になる、が――


吸収(アブス)

「ッ――」


 ディーシュは手に竜巻のような風を纏い……炎が、風に取り込まれる。

 巨大な、瓦礫と炎が混じり合う風の手が、災禍の世界に誕生した。


「これが私の真の能力。取り込んで、武器にする」

「……私に相性が良さそうな能力ね」

「刺客は確実に殺れる者に任命するでしょう?」

「チッ。(アーム)(ヘッド)!」

「ヴヴ!」


 炎のブレスは効果が薄いと見て、幾つかの部隊を突撃させる。

 しかし、手の風によって大気が乱されているようで、上手く飛べていない。

 そこに、巻き上げられた瓦礫が飛び交い、完璧な防空網を敷いている。

 散開させたドラゴン達は、全て撃ち落とされてしまった。


 いつもなら、一旦防御に回って、火山を噴火させに行く所だが……あの風は溶岩も取り込むだろう。

 十八番が使えないのは辛い。


「チッ、(フット)も行きなさい」

「ヴァウ!」


ダッダッダ!


 足が強いドラゴンを地上に付け、走らせる。

 これなら、風に影響を受けず、瓦礫もほぼ関係なく、接近することができる。


「さすがに的確な手を打ってきますね。ですが――」


 ほとんどのドラゴンは風の手に圧し潰され、最接近できたドラゴンは容易く蹴り飛ばされた。


(……かなり身体能力が上がってる。風の手といい、自己強化系ね。ドラゴンは風に取り込まれてないし、生命体……いや、一定以上の質量は取り込めないって感じかしら?)


 不味い、本格的に打てる手が無くなってきた。

 とりあえず、やられた分を復活させてから……


「……?」


 死んだドラゴンが、復活しない。

 いつもなら、そろそろ最初に死んだ分のドラゴンが、巣穴から飛び出してきても、いい頃なのに。

 そこまで出力が低下しているのか、それとも――


「存在基底が変質して、ドラゴンが復活できなくなったようですね」

「ッ――」


 ドラゴンが復活するのは、私の『戦争で国民を犠牲にしてもいい』という深層心理からだった。

 復活は『死んでも代わりがいる』という要素か。


(我ながら物騒なものね)


ズキッ


 胸の穴が痛み、芯界が解除されそうになる。

 出血量といい、現在の芯界割合といい、もう時間が無い。

 次が、ラストアタックか。


「全軍で突撃するわ。来なさい」

『ヴウ!』


 全てのドラゴンを地上に降ろし、四足歩行にさせる。


「密集突撃陣形!」

「バカですか? そんなの風の手で一蹴ですよ」

「突撃ッ!」


ドドドドドド!


 残った、四十匹ほどのドラゴンで、ディーシュの元へ一直線に突っ込んでいく。

 瓦礫と火を羽で防ぎ、手足をしっかりと瓦礫の山に突っ込んで、風に飛ばされないようにしながら、最速で彼女の元へ突っ走る。


「ッ! 猪口才(ちょこざい)な!」


 さらに瓦礫を巻き上げ、攻撃の手を強めるが、前列のドラゴンを犠牲にして進み続ける。

 残り三十、二十五、二十。


「チッ、瓦礫瓦礫(ガガガガ)!」


 事前に巻き上げていた瓦礫が降り注ぎ、急速にドラゴンの数が減っていく。


「十、四、一!」


 最後に残った二つ尾のドラゴンが、その尾を使って瓦礫を叩き落し、ディーシュに迫る。

 あと、一歩。


「ヴァア!」

「惜しかったですね。解放(リリース)


 圧縮された炎が、二本尾のドラゴンを焼き払う。

 ドラゴンの高い炎耐性でも、圧縮された炎は耐えきれず……爪一つ分だけ届かず、倒れ込んだ。


「あーあ、殺しちゃいました。どうやって処理しましょう」


 二本尾ドラゴンに近づいて、翼に隠れた私の死体を見ようとし――今。


「ッ!」


キンッ


 ナイフで切り込んだ、が――パワーが足りない。

 決死の攻撃は、左腕に大きく切れ込みを入れた。

 しかし、それだけ。


「チッ」

「暴風に紛れて一団を抜け出し、刺されたナイフで、一撃を入れた、と。さすが、」


 二、三。

 さらにナイフを振るい、突くが、簡単に避けられ、踵落としを食らった。

 そのまま、地面に倒れ伏し、頭をディーシュが踏みつける。


「グッ!」

「よくも私の腕を……決めました。アナタはここで殺すことにします。死体さえ出さなければ、向こうの国に誘拐されたことにできるでしょう」

「……」

「じゃあ、死ね!」


 暴風の手を、振り下ろそうとした、その時。


ガッ!


 急に、頭を踏んでいた足が離れた。

 顔を上げると、ディーシュが瓦礫の山に突っ伏してる。

 そして、それを為したのは――


「大丈夫か!?」

「……遅いわ」


 肩に小さなドラゴンを乗せた、ラギナだった。


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