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芯界  作者: カレーアイス
第二章 騎士入学編
14/72

お墓参り(威力150)

 シュヴァリィ視点。

 説得するつもりが、逆に説得されてしまった。

 あまりに強いカウンターに、何も言い返せなかった。


(殺したのは戦争、ね)


 押し付けられ、もう常温になったコーヒーをグビッと飲み干し、自動洗浄機にグラスを突っ込んで、店を出る。

 予定通り……だけれど、彼女(彼)との対話を経て、さらに行きたくなった場所へ足を向けた。


 途中で花と、彼女が好きだった豆腐を購入し、発展した王都から、寂れた方へ、寂れた方へと歩いて行く。

 王都を囲む城壁すら越え、辿り着いた場所は……墓地だった。


「お久しぶりです、父様」


 ヴァリア・ユートロンと書かれた墓石に、花と豆腐を置いた。

 今年で、丁度十年目か。

 胸に手を置き、一頭のドラゴンを出した。


「ご覧ください、アナタが下さった、ドラゴンもここまで成長しました」

「ヴウヴ」


 首元を撫で、いつも騎乗しているドラゴンを労わってやる。


 ユートロンは、先祖にドラゴンを持つという伝説がある。

 なので、私はこのドラゴンは父から受け継いだものだと考えている。

 その証拠に、ユートロンのドラゴンは他と違って、尾が二本あるという特徴があった。

 私のドラゴンで、尾が二本なのはコイツだけだ。


「軍隊型なので、単体の力はありませんけれど、頼りになります。前回は、ラギナ君に無様にやられてましたが」

「ヴッ!?」

「冗談です。戻りなさい」


 ドラゴンを芯界に戻し……本題入った。


「今日は話があるのです。……つい先ほど、私は今までやって来たことを、全て否定されてしまいました。どうしようもなく、正論で」


 所々論理の綻びはあったが、ラギナの言っていることは概ね正しい。

 反論を考えようにも、感情論しかなく……私らしくない。

 そもそも、今までどうして「戦争すれば全て解決する」などと考えていたのだろうか。


「これからどうしましょう」

「簡単です、全部投げ出せばいいんですよ!」


 いきなり声が聞こえてきて、振り向くと……花束を抱えた、一人の女性。


「誰?」

「騎士団関係者ですよ。これから旅立つので、お世話になった人に挨拶しに来ました。そういうあなたは?」

「この人の娘です」

「ヴァリアさんですか……」


 いきなりその人が頭を下げた。


「すみません! ヴァリアさんが殺されたのは、私の無力のせいです! ごめんなさい!」

「アナタ……現場にいたの?」

「いえ、別の場所で戦ってました!」

「それならアナタには関係ないでしょう」

「私が早く敵を制圧して、帰還していれば、暗殺を防げたかもしれません!」

「……そんなことでいいなら、私は全人類に謝罪されないといけません」


 からかっているのかと思ったけれど、態度からして真面目に言っているらしい。

 クソ真面目なのか、純粋過ぎるのか。


 彼女は花を父の墓に手向(たむ)けてから、私に向き直った。


「それで……さっきの独り言、聞いちゃったんですけど、お節介かけていいですか!?」

「……一応、父に聞いたという体なのですが」

「じゃあヴァリアさんの同僚だった、私が代わりに答えます!」

「もういいわ。どうぞ」


 対価を請求するつもりでもなさそうだし、聞くだけ得だろう。

 銀の彼女は、私の返答を聞いて、嬉しそうにポーズを取ってから、語り出した。


「アナタはずっと、間違った道を歩いて来て、もう後戻りできない。そうですね!」

「その通りよ」

「そういう時は、まず反省します。全力で反省します。少なくても、自分が納得するまで反省します」

「なるほど……?」

「それから、新しい自分に生まれ変わったつもりで、今、正しいと思うことを為しましょう」

「……」

「正義は常に変化する。情報が増えたら、直ぐに自分の正義を修正しなさい」

「……アナタ、もしかして――」

「おっと、もう飛行機が飛ぶ時間だ! じゃあね!」


 腕時計を見た彼女は、芯界からジェットパックを取り出して、飛んで行ってしまった。

 色々と可笑(おか)しい人だったが、言っていることは参考になりそうだ。

 父の前で、教えられたことを実行する。

 

「まずは、反省」


 父が殺されたからって、戦争の相手を恨むのは少々お門違い。

 せめて、私みたいな戦争を止められる立場にいる人は、恨みの方向を間違えてはいけない。

 ()が死ねば、身体()は朽ち果てるしかないのだから。

 綺麗ごとの理想論かもしれないけれど、それの実現に動くのが王であり、私だ。


 これから、私の派閥の貴族たちには迷惑がかかる。

 第二王女派閥は、(まつ)り上げるのが私なので、完全に戦争過激派の集まりだ。

 その私が、思想を急に真逆にするのだから、派閥は解体だろう。

 今まで自分を慕ってくれた者達を裏切るのは、心苦しいが……知らない。

 無視する。


「あとは、正しいと思ったことをする。来て」

「ヴヴ」


 芯界から、騎乗用の二つ尾ドラゴンを取り出した。


「……アナタ、少し大きくなった?」

「ヴァウ!」


 嬉しそうに頷き、ドラゴンはシュヴァリィを乗せて大空へ飛び立った。



◎◎◎



「お帰りなさいませ」

「ただいま」


 寮に帰ると、先に帰っていたディーシュに迎え入れられた。

 尽くしてくれる彼女には悪いが……裏切らせてもらう。


「ディーシュ、私戦争やめるわ」

「分かりました」

「……やけにあっさりしてるわね」

「実は、ラギナとの会話を盗聴しておりましたので。あなたならそう判断すると思っておりました」


 ディーシュは、会話しながら……荷物の整理をしていた。

 裏切者と、寝食を共にするつもりは無いということだろう。

 ……顔を合わせず、会話を続ける。


「これから、私たちの主従関係は消えるワケだけど……友達関係は続けていいかしら」

「それは無理です」

「……そうね、図々しい願いだったわ」

「だって、あなたは――」


グサッ


「もうすぐ死ぬんですから」


 冷たい感覚がして、視線を落すと……私の胸を、ナイフが貫いていた。


 一回転!

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