お墓参り(威力150)
シュヴァリィ視点。
説得するつもりが、逆に説得されてしまった。
あまりに強いカウンターに、何も言い返せなかった。
(殺したのは戦争、ね)
押し付けられ、もう常温になったコーヒーをグビッと飲み干し、自動洗浄機にグラスを突っ込んで、店を出る。
予定通り……だけれど、彼女(彼)との対話を経て、さらに行きたくなった場所へ足を向けた。
途中で花と、彼女が好きだった豆腐を購入し、発展した王都から、寂れた方へ、寂れた方へと歩いて行く。
王都を囲む城壁すら越え、辿り着いた場所は……墓地だった。
「お久しぶりです、父様」
ヴァリア・ユートロンと書かれた墓石に、花と豆腐を置いた。
今年で、丁度十年目か。
胸に手を置き、一頭のドラゴンを出した。
「ご覧ください、アナタが下さった、ドラゴンもここまで成長しました」
「ヴウヴ」
首元を撫で、いつも騎乗しているドラゴンを労わってやる。
ユートロンは、先祖にドラゴンを持つという伝説がある。
なので、私はこのドラゴンは父から受け継いだものだと考えている。
その証拠に、ユートロンのドラゴンは他と違って、尾が二本あるという特徴があった。
私のドラゴンで、尾が二本なのはコイツだけだ。
「軍隊型なので、単体の力はありませんけれど、頼りになります。前回は、ラギナ君に無様にやられてましたが」
「ヴッ!?」
「冗談です。戻りなさい」
ドラゴンを芯界に戻し……本題入った。
「今日は話があるのです。……つい先ほど、私は今までやって来たことを、全て否定されてしまいました。どうしようもなく、正論で」
所々論理の綻びはあったが、ラギナの言っていることは概ね正しい。
反論を考えようにも、感情論しかなく……私らしくない。
そもそも、今までどうして「戦争すれば全て解決する」などと考えていたのだろうか。
「これからどうしましょう」
「簡単です、全部投げ出せばいいんですよ!」
いきなり声が聞こえてきて、振り向くと……花束を抱えた、一人の女性。
「誰?」
「騎士団関係者ですよ。これから旅立つので、お世話になった人に挨拶しに来ました。そういうあなたは?」
「この人の娘です」
「ヴァリアさんですか……」
いきなりその人が頭を下げた。
「すみません! ヴァリアさんが殺されたのは、私の無力のせいです! ごめんなさい!」
「アナタ……現場にいたの?」
「いえ、別の場所で戦ってました!」
「それならアナタには関係ないでしょう」
「私が早く敵を制圧して、帰還していれば、暗殺を防げたかもしれません!」
「……そんなことでいいなら、私は全人類に謝罪されないといけません」
からかっているのかと思ったけれど、態度からして真面目に言っているらしい。
クソ真面目なのか、純粋過ぎるのか。
彼女は花を父の墓に手向けてから、私に向き直った。
「それで……さっきの独り言、聞いちゃったんですけど、お節介かけていいですか!?」
「……一応、父に聞いたという体なのですが」
「じゃあヴァリアさんの同僚だった、私が代わりに答えます!」
「もういいわ。どうぞ」
対価を請求するつもりでもなさそうだし、聞くだけ得だろう。
銀の彼女は、私の返答を聞いて、嬉しそうにポーズを取ってから、語り出した。
「アナタはずっと、間違った道を歩いて来て、もう後戻りできない。そうですね!」
「その通りよ」
「そういう時は、まず反省します。全力で反省します。少なくても、自分が納得するまで反省します」
「なるほど……?」
「それから、新しい自分に生まれ変わったつもりで、今、正しいと思うことを為しましょう」
「……」
「正義は常に変化する。情報が増えたら、直ぐに自分の正義を修正しなさい」
「……アナタ、もしかして――」
「おっと、もう飛行機が飛ぶ時間だ! じゃあね!」
腕時計を見た彼女は、芯界からジェットパックを取り出して、飛んで行ってしまった。
色々と可笑しい人だったが、言っていることは参考になりそうだ。
父の前で、教えられたことを実行する。
「まずは、反省」
父が殺されたからって、戦争の相手を恨むのは少々お門違い。
せめて、私みたいな戦争を止められる立場にいる人は、恨みの方向を間違えてはいけない。
頭が死ねば、身体は朽ち果てるしかないのだから。
綺麗ごとの理想論かもしれないけれど、それの実現に動くのが王であり、私だ。
これから、私の派閥の貴族たちには迷惑がかかる。
第二王女派閥は、祀り上げるのが私なので、完全に戦争過激派の集まりだ。
その私が、思想を急に真逆にするのだから、派閥は解体だろう。
今まで自分を慕ってくれた者達を裏切るのは、心苦しいが……知らない。
無視する。
「あとは、正しいと思ったことをする。来て」
「ヴヴ」
芯界から、騎乗用の二つ尾ドラゴンを取り出した。
「……アナタ、少し大きくなった?」
「ヴァウ!」
嬉しそうに頷き、ドラゴンはシュヴァリィを乗せて大空へ飛び立った。
◎◎◎
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
寮に帰ると、先に帰っていたディーシュに迎え入れられた。
尽くしてくれる彼女には悪いが……裏切らせてもらう。
「ディーシュ、私戦争やめるわ」
「分かりました」
「……やけにあっさりしてるわね」
「実は、ラギナとの会話を盗聴しておりましたので。あなたならそう判断すると思っておりました」
ディーシュは、会話しながら……荷物の整理をしていた。
裏切者と、寝食を共にするつもりは無いということだろう。
……顔を合わせず、会話を続ける。
「これから、私たちの主従関係は消えるワケだけど……友達関係は続けていいかしら」
「それは無理です」
「……そうね、図々しい願いだったわ」
「だって、あなたは――」
グサッ
「もうすぐ死ぬんですから」
冷たい感覚がして、視線を落すと……私の胸を、ナイフが貫いていた。
一回転!