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芯界  作者: カレーアイス
第二章 騎士入学編
12/72

遊戯

 あくる日、目覚ましの音で俺は目を覚ました。

 いつもは、軍での経験もあり、良い感じの時間に自動で起きれるのだが、昨日は新しい環境で上手く寝付けなかったせいで、上手く起きれなかった。


「ふぁああ」


 霞む目を擦りながら、隣のベッドを見てみると、イースはもういなかった。

 結構早く起きたつもりだったのだが、イースの方が早い様だ。

 身体を伸ばしてから……良い匂いがするリビングに起きていく。


「おはよう」

「おはよう、ラギナ。丁度ご飯できたところだよ」


 リビングに行くと、イースがエプロンを着用して、朝ごはんを作ってくれていた。

 トーストと目玉焼きという、ごく一般的なものだが「朝起きると朝ごはんがある」というのは、労力以上に嬉しいものがある。


「ありがとう。頂くよ」


 自分の席に座り、イースが作ってくれたトーストを食べる。


「おいしい」

「それは良かった。昨日は迷惑かけちゃったからね……」

「あー……」


 昨日の事件を思い出し、気まずい空気が流れる。


「風呂は分けるようにしよう。うん」

「……そうだね」


 言葉が少なくなったまま、朝ごはんを終えた。


「じゃあ俺、九時から講義あるから」

「いってらっしゃい」


 ……新妻みたいだと思ったが、口には出さなかった。



◎◎◎



 初めての講義。

 イースはコースが違うので、教室の端に一人で座る。


(ずっと一人は寂しいから、コース内でも友達が欲しいな)


 いや、よく考えると、同じコースでも友達がいた。


「ここ、いいかしら?」

「どうぞ。誰も来る予定ないし」


 俺の隣に、シュヴァリィが優雅に座った。

 その隣に、シュヴァリィに付いてきたディーシュも座る。

 相変わらず俺を目の敵にしているようで、露骨に睨まれたが、笑顔で返した。


「ん」


 シュヴァリィが、俺に向かって手を差し出した。


「え?」

「アメ、よこしなさい」

「ああ、どうぞ。ディーシュもいる?」

「要りません。というか、呼び捨てにしないで下さい」

「これは失礼」


 ディーシュさんは公爵のクレイヴ家だったか。

 うちの家と確執があるとかではないのだが、貴族意識が強いと聞いたことがある……気がする。


 貴族の情報を思い出していると、アメを咥えたシュヴァリィが顔を覗き込んできた。


「それで、騎士の件は考えてくれた?」


 王族の専属騎士。

 ドゥリター王国には、各王族に一人、専属の騎士を付けられる決まりがある。

 まあ、一度捕まるとほぼ逃げられない、この世界の戦闘システムだと、よくあることだ。

 要は、最後の盾。最終防衛ライン。

 そして、その任命権は王族本人に委ねられている。


 シュヴァリィは何故か俺を過大評価しているようだが、自分の実力は分かっている。

 師匠のような、本当の強者のことも。

 俺はただ、同年代よりちょっと戦闘経験が多いだけ。特別才能があるとか……ではない。


「他をあたってくれ。うちの家は第二王女派閥じゃないだろ」

「アナタが派閥に入れば、アークエス家も付いてきてお得ってことでしょ?」

「……せめて実家の返答を待たせてくれ」


 まあ、連絡してないけど。

 シュヴァリィはそれを見透かしたように俺の目を見てから、フっと笑って、教室の前の方を向いた。

 それにつられて、俺も教壇の方を見ると……ちょうど先生が上がったところだった。


 第一印象は、変な人。

 顔の半分を、おたふくのお面で隠しており、その下の表情は一切変化しない。

 代わりに、お面が表情豊かに変化する。


 おたふくが口を開いた。


『どうも、軍事研究家のヒルトレイヴ・ミリットです。よろしくお願いします。今日は始めてなので、レクリエーションといきましょう』


 取り出したのは、白黒が交互に配置された方眼が描かれた盤。

 そして、様々な形の、白黒の駒。


『チェス。遊戯だと一蹴するものではありませんよ。その人の考え方が出ますから。二人一組になってください』


 チラっとシュヴァリィを見ると、「逃がさない」という笑顔だった。

 それを察してか、ディーシュさんが立って別の席に移動する。

 まあ、他に相手もいないし……望むところだ。


「やろうか。シュヴァリィ」

「受けて立つわ」

「ちなみに、ご経験は?」

「王城では必須科目よ。そういうアナタは?」

「将棋しかやったことない」

「しょうぎ?」

「まあ、駒の動きも覚束ない初心者だ」

「幾つか落としてあげましょうか?」

「いや、最初は普通にやろう」


 配られた駒を、対面のシュヴァリィの見よう見まねで並べていく。

 

「先手は譲ってあげるわ」

「では」


 適当なポーンを一つ前へ。

 シュヴァリィは少し動揺を見せてから、ポーンを一つ動かす。


 これは……俺の初心者過ぎる手に戸惑ってるな。

 このまま、予想外の手を打ち続ければ、ワンチャン――



「チェックメイト」

「参りました」


 まあ、無いですよね。

 訳が分からないうちに、あれよあれよと盤面は進んで行き、気付いたら負けていた。


「……?」

「流石に相手にならないわね。ポーンとキングだけでも勝てそうよ」

「ごめん?」

『じゃあ、私とやりますか?』


 いつの間にか、背後にヒルトレイヴ先生が立っていた。

 俺の背後を取るとは。中々やるな、この先生。


「やりましょうか」

『やった! ほらどいて!』

「えぇ……」


 俺が座っていた席に先生が座り、駒を並べ直す。

 もう俺のことは意に介さず、達人の読み合いを始めていた。

 ヒルトレイヴ先生のひょっとこの面が、赤い天狗に変化している。


『先手は譲ってあげますよ』

「では。参ります」


カッ、カッ、カッ、カッ


 定石でもあるのか、双方間を置かずに駒を動かしていく。


カッ


『ほう』


 先に手を止めたのは、ヒルトレイヴ先生。

 だが、これはシュヴァリィが上手(うわて)、という意味ではなく、定石と違う手を打った、という意味だ。

 ……それくらいは将棋をしてれば分かる。


『なるほど。では』


カッ


「……」


カッ


 一つ一つ、考えて手を打って行く。

 よく分からないが、凄い戦いが起こっていることは分かる。



『やりますね。ですが……捨て駒が多くありませんか?』


カッ


 ヒルトレイヴ先生が、駒を一つ取った。


「犠牲無くして勝利はありません」


カッ


 シュヴァリィが、駒を取った駒を取り返す。


カッカッカッ


 読みが加速し、二人の駒を動かすスピードが段々早くなる。

 動かしながら、天狗の面の口が動いた。


『攻撃一辺倒ですね』

「攻撃は最大の防御だという格言もありますので」

『でも、そんなことをしていると……』


カッ


「足元を救われますよ」


 面の天狗が、ひょっとこに戻る。

 盤面を見ると……シュヴァリィのキングが、敵の駒に囲まれていた。


『チェックメイト』

「参りました」


パチパチ パチパチパチパチ!


 凄まじい勝負の結末に、思わず拍手をすると、辺りから拍手の大合唱が聞こえてきた。

 いつの間にか、教室のみんながこの戦いに見入ってたのだ。


「凄かったね」

「シュヴァリィ様が盤面を支配していたと思いきや、先生が一瞬でその隙に切り込んで、崩してしまいましたわ」

「美しいチェスでした」


 ……最初から見ていたのに、周りより理解できてない。


『っと、遊び過ぎてしまいましたね。今日はここまで。これからも、時々チェスはする予定なので、負けた人は練習しておいて下さい』

「はい……」


 便宜上「チェス」と表記してますが、厳密には現実のチェスとは違う……かも?

 なので、ルールにガバがあっても、それは異世界の差異です。


 今日は二話とも長かったので、明日は一話更新になるかもしれません。

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