犬も猫も猿もカマキリも
しつこく勧誘してくるシュヴァリィを撒いて、イースと一緒に部屋に帰った。
本当は学院内を探索しておきたかったのだが、シュヴァリィと鉢合わせると面倒なのでしかたない。
「ごめんなイース、巻き込んで」
「あはは。大丈夫、面白い物を見せてもらったから」
「なら良かった」
適当な雑談をしながら、自分の荷物が入った段ボールを開けていく。
「イースの芯界ってどんな感じなんだ?」
「……あんまりいい物じゃないよ。ちょっと物騒だから、見せられないかな」
「ああうん、無理しなくていいから」
芯界は自分を示した世界なので、見せたくない人は当然いる。
何せ、芯界が形成されるのは五歳や六歳の幼少期だ。黒歴史のようなものを抱えてる人もいる。
存在基底の変化によって、芯界が変化することもある。
騎士団では、新入生の芯界が戦闘用に調整されるのはよくあることだった。
しかし、元の影も形も無くなるようなことはほとんどない。
(物騒って……小さい頃の夢は仮面ラ〇ダーだったとか?)
勝手に想像を膨らませていたが、イースが嫌がるだろうと考えてやめた。
「それより、ラギナは料理ってできるの?」
「ああ。騎士団で雑用をしてたからな。大量に作るのは得意だぞ」
「そっか、よかった。全部アメとか言われたら、どうしようかと思った」
「言うか!」
ツッコむと、イースはイタズラっぽく笑った。
思ったより愉快な性格なのかもしれない。
「ボクも料理はそこそこできるから、交代で料理とかしてみない?」
「学食あるけど……」
「寮からちょっと距離があるし……何より、面白そうじゃない?」
「確かに。じゃあやるか」
幸い、部屋には冷蔵庫が設置されていて、中にはある程度の材料があった。
キッチンも整っており、一通りの道具から食洗機まで設置されていた。
「今日は先に荷ほどきが終わった俺がやるよ」
「ごめんね、本が多くて。後片付けと風呂掃除はするから」
「よろしく」
イースと別れてから、改めて冷蔵庫の中を除いた。
この材料なら、カレーでいっか。
大量に作りやすいので、俺の得意料理はカレーだ。
エプロンを着用し、アメを口にし気合を入れる。
「よし、やろう」
「ごめん、ちょっと作り過ぎた」
「あはは。長持ちするカレーでよかったね」
後から調べてみると、五人分の材料で作っていた。
百人単位の軍人の料理を作ってたから、感覚が完全に狂っていた。
「美味しいね」
「そんなでもないけどな。まあ、ありがとう」
当然キッチンの芯界などもあるので、そこで作られた料理と比べると……やっぱり悲しいから比べないでおこう。
しかし、俺にも自信がある料理はある。
「デザートはアメ細工だ」
「わぁ、やっぱりあった」
「じゃん、今日相手にしたドラゴン!」
「おおー!」
手のりサイズのドラゴンアメ細工を出すと、イースは目を光らせて驚いてくれた。
「凄いね……どうやって食べたらいいか分からないや」
「アメ細工唯一の欠点だな。まあ、食べやすいようにしてもらえば」
「……ごめんね、ドラゴンさん」
パキっと羽を折り、口に入れた。
美味しくはありそうだが、罪悪感もあってか、表情は微妙。
(……今度から食べやすい形にしよう)
ちょっと悲しい気持ちになった。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま。美味しかった……というか、楽しかったよ。片付けは任せてね」
「ああ、俺は先に風呂に入っとくな」
「はーい」
その時、イースは笑っていた。
タンスから、さっき仕舞った風呂道具を取り出して、風呂場に持って行く。
今回は着替えからシャンプーなども持って行く必要があるため、結構な荷物になった。
「っと、化粧落としとかないと」
前世では化粧したことが無かったが、今世になって周りの人がみんなしていたので、感化されてするようになった。
とは言っても軽く塗る程度だったので、パッと落とし、服を脱いで風呂に入る。
「おー、結構広い」
その気になれば、四人くらい入れるような、広い浴場が広がっていた。
タオルとシャンプーを片手に、一番近くのシャワーの前に置かれている台に座る。
シュヴァリィのお陰で、少し綺麗になった髪に感激しながら、洗っていると――脱衣場から音がしてきた。
見ると、少女の影。
「待て待て待て!」
瞬時に持っていたタオルを腰に巻き、付いているモノを隠す。
それとほぼ同時に、申し訳程度にタオルを巻いたイースが入って来た。
「何で入って来たの!? ねえ何で入って来たの!?」
「裸の付き合いって言うじゃない」
「言うけどさあ!」
なるべく彼女の身体を直視しないようにしながら、さっさと上がるために高速で身体を洗っていく。
しかし、長い髪が仇となり、全く間に合わず、
ホヨン
「おー、がっしりしてる。でも、胸は全然ないね」
「……」
「あ、気にしてた? ごめんね」
背中に憑りつかれ……柔らかい感触。
「そ、そういうイースは……結構あるな」
「いいでしょ」
服を着ている時はハッキリしていなかったが、脱いでみると思ったより女性的な身体をしていた。
(「大きい」と言うほどではないが、綺麗にまとまった黄金比のような……)
いつの間にか凝視していたことに気付き、急いで視線を逸らした。
「じゃ、じゃあ俺はもう出るから」
「ダーメ、まだ背中洗ってないでしょ。洗ってあげるから」
「いいよ! 俺身体柔らかいから! 全部届くから!」
「遠慮しない。大丈夫、後で僕も洗ってもらうから」
「何も、大丈夫じゃ、ねえんだよ!」
柔らかい感覚。
背中に、イースの手が直接触れている!
「触ってみると、なおさらいい体してるね。筋肉質というか」
「……」
「アレ、火傷の跡残ってるよ」
「……」
何も返答できない。
身体を襲う感覚に脳がフリーズする。
「……タオルの下に何かあるの」
「無い無い! 何にもないよ! はいもう交代!」
いつの間にか立っていたモノを力でねじ伏せ、一瞬でイースの背後に回り込む。
しかし――その衝撃で、タオルが落ちた。
さらに、タイミングよくイースが振り返り……。
「……何それ」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「どうしたの!? ごめんね!?」
……女の子の身体は柔らかいなぁ。
目をつぶってイースの背中を洗いながら、説明する。
「まあ、隠すつもりは無かったんだよ。どちらかというと、汚いモノを見せたくないというかさぁ」
「ああ、うん」
「ちょっとした特異体質だよ。……ちょっとじゃないけど」
「……?」
「詳しく説明するには、人間が二種類に別れていた時代の話が必要になるけど」
「そ、そんなに壮大な話なんだ……」
「簡単に言うと……たまに後ろ足の間に棒がある犬っているだろ?」
「いるの?」
「……いるんだ。猫にも猿にもカマキリにも、付いているヤツがいる。俺もそれなんだ」
「へ、へえ。今度調べてみるよ」
「調べなくていい! 俺もう上がるから!」
「……おしっこはどうしてるの?」
「棒の先から出るの!」
「見たい!」
「絶対やだ!」
これの説明の為に、オスの犬でも飼おうかな……。
ロングヘア―といい、化粧といい、かなり女性文化に影響されてる男
ただスカートは履かない