男がいない世界
光が薄くなり、太陽が遠ざかる。
苦しい。息ができない。
冷たい海に包まれ、沈み、堕ちていく。
泳ごうにも、体が上手く動かず、届かない光に手を伸ばして……俺は意識を手放した。
(……どうして、こう、なったんだっけ)
◎◎◎
「生まれました! 元気な赤ちゃんですよ!」
「そう、ですか。よかった……」
「本当、一度生体反応が消えた時は、どうしようかと――
声が聞こえた。
目を開けると、知らない場所、知らない天井。
伸ばした俺の手は、とても小さかった。
「あ、う?」
上手く発声できない。
困惑していると、ナース服を着た人に軽々と持ち上げられ、上体だけを起こした女性に近づけられる。
「ほら、お母さんですよー」
「あ……ま、ま?」
「フフッ」
憔悴した女性は、俺を抱えて嬉しそうに笑った。
少し顔を傾けると、鏡があり、そこには一人の赤ん坊の姿が映っていた。
俺が手を動かすと、そいつも手を動かす。
間違いない、あの赤ん坊は俺だ。
これは……異世界転生というヤツか?
(いや、まだ異世界かは分からない。ここが日本のどこかの可能性だって……)
その時、俺を包んでいたタオルが剥がれた。
小さな赤ん坊の裸体が露わになり、その足の間には、小さいながらも性別を示すモノがある。
女性に転生、とか面倒なことにならなくてよかったと、地味に安心したとき、
「アレ、この子股間に何かついてますよ」
助産師さんと思われる人が声を上げた。
俺を取り上げてジロジロと見る。
(何かも何も、ただのチン――)
「生まれたかー」
バッとベットを囲んでいたカーテンが開き、猫背の気だるげな女性が入って来た。
年齢的に、母の友達だろうか。
そう、思っていた。
「今度は私が父か」
「そうですね」
新たに入って来た人は、感慨深げに俺を抱き上げたが……その風貌は、長身だがスカートを履いていて、髪は腰くらいまであり、さらには声も高く女性的で、男には見えない。
……この人付いてるの?
俺が混乱している間にも、話は進んで行く。
「お待ちください、アークエス様。この子股間に何か付いております。もしかしたら何かの病気かもしれません」
「何? うわマジだ」
この人も俺のモノに驚愕している。
もう何が何だか分からない、が――良くないことになっていることは分かる。
「どうしましょう、切除した方がよろしいでしょうか?」
「あぅ!? だー!」
「うわっ、急に暴れ出したぞ!?」
父と言われた人物は、俺を抑え込みながら、再度ジッと観察して……答えを口にした。
「もしかして、数百年前に絶滅したとかいう、人間の雄なんじゃないか?」