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<9月28日 火花>

 マーガレットは『海』を行く。

 誰もいない空間に、一人だけ漂う、というクラゲの姿はマーガレットにとって憧れともいえる。『機械』の体の浮力では海に入る事はかなわず、水に浸かる事はできても泳ぐ事もかなわない。

 愛しい相手とのアバンチュールなんて言う事を、夢見る乙女の様に思い描く事もあるが、それが絶対的に行えない、人魚姫と同じ飛沫の蜃気楼である事は知っていた。

 海を行く、とはその言葉の通り。彼女を乗せたボートが一つ、ゆっくりと海風を受けて動いているだけだ。風速10メートルほどの風は、きっちりと帆を張らせるには丁度いい。

 一緒に船に乗るチャーリーは今や夢の中だろう。

 あと一時間もすれば港に戻り、仕事の準備をしなければならない。

 一番近いネットワーク基地局から約3キロほどの地点で、通信網から外れた空間に見える何もない海上であっても、彼女は今もなおネットワークの監視を行う。

――あぁ……

 と言葉をこぼす。砂時計の様にゆっくりと、微々たる量ではあるが、確実に彼女の言葉は”そこ”に満ちていく。

 相手は気づくだろうか。気づかなくてもいい。しかし、とマーガレットは思う。

――彼女の幸せになれればいいのですけれど。

 彼女にとっての幸せとは何か、結局なんであるかはわからない。マーガレットは友人であっても彼女自身ではない事を知っている。

 だからこそ、”その幸せが何であるかわからないのに”幸せを望み、幸福である事を正であると考えている。

 《人間》には大きく三つの感情がある。

 一つは、陰。マイナスに相当する部分であり、基本点から大きく落ち込む負の感情だ。憎み、妬み、恨み、後悔し、恥につぶされ、心をずたずたにされる感情の奔流だ。

 二つは、陽。プラスに相当する部分であり、基本点から大きく高揚する正の感情だ。喜び、満足し、勇気をもって立ち向かい、愛しさや、感謝を感じる幸せの感情の津波だ。

 三つは、無。停滞のnull値は、機械の体にはデフォルト値になる。すなわち無心であり、無関心であり、効率的な状況。感情の正負の基軸となる、人間の中央値。

 プルチックの感情の輪では、基本感情、強い感情、アクセントとなる弱い感情、応用感情を相互に補完しあう事になるため、『null』は無い。

 少しでいい。

 ステラの『心』が満たせられれば。



「というわけで、生きているらしい」

「そんなどうでもいい報告は、拙者やそこの鵜飼に謝罪してから言うがいい。馬鹿野郎」

 そうだね、と首だけを動かして押領司は包帯の巻かれた同級生と、腕をギブスで固めた同級生を見た。

「――というか、どうして赤嶺や、鵜飼が怪我しているんだい?」

 とぼけた押領司の言い方に、カチンときたのは鵜飼だけではなく、大概にしろと言わんばかりに赤嶺は不機嫌を口の端から矢の様に溜息と共に押領司に向けて吐き出した。

「……いろいろ、あったんですぅ」

 鵜飼は涙目になりながら恨めしい声を上げる。

 痛々しい腕のギブスは、固定用だろう。骨折であれば分かるその怪我は、野球部員が負ったら、青春が全部散るほどの重大事件である。

 なるほど、と押領司は涙目になる鵜飼に、

「金属バットでもあたった?」

「違わい! この人でなし! こっちに話を振るだけ振っといてとぼけるのはいい加減にせぇよ!」

 キーと歯をむき出して身を乗り出すが、もう一歩は出なかった。

 変わりに赤嶺が、落ち着いた口調で辛辣な言葉を並べる事でバランスを取る。

「色々ありすぎて手に負えない。さっさと状況を確認して対処しろ。このすっとこどっこい」

「ひでぇ言いがかりだと思いません⁉ さっきまで意識なかった人間に!」

 赤嶺は頭に巻かれた包帯を気にしながら、うるせぇと軽く押領司の左手を右足で蹴っ飛ばす。

「あでっ!」

 憮然とした赤嶺は、仕方なさそうに重い溜息をついた。

 状況整理ができていないだろうと、肩から力を抜き、押領司に向かって一歩丸い椅子をずらして近づいた。

「いいか、寝ぼけているお主に状況を説明してやる。――心して聞け。でなければさっさと寝ろ。しらばっくれてるだけならまだしも、記憶喪失にでもなってたら頭に電極突っ込んでかき回してやるから覚悟しとけ。

 ふん、……聞く、という事でいいな。あぁ、拒否した途端にベッドごと窓から投げ捨ててやるから安心しろ。永眠できるぞ」

 ひきっと、顔をひきつらせて押領司は押し黙る。内心言いたい事はたくさんあるが、いつになく口数の多い赤嶺の事だ。わざわざ嘘や、誇大妄想を並べるために急いでいる訳ではないのは理解できた。

「全部で問題は三つだ。

 まず、『委員長が消えた』。これがお主が、寝ている間に起きた一つ目の問題。昨日の――正確には今日の夜中一時頃に発生。

 場所は、お主も良く知っている所で、――察しの通り静岡中央銀行の南側の立体駐車場の、8階になる。これについては拙者も釈明をしたいが……、釈明など後にして言うと、その時に拙者も委員長とその場にいた」

 押領司は、赤嶺の言葉に渋い顔をするが、特段咎めない。

「次に、その前日に警察官時代に押領司の世話を焼いていた――『木津元刑事が死亡した』。拙者も細かい事は分からないが、彼の同僚――と言っていた男から話を聞いた。

 詳細はお主宛てのメールに記載しているというから、後で確認しろ」

「……」

 予想外の出来事だったが、溜息はまだつかない。

「最後に、『ステラ・フラートンが拉致された』。元々お主と同じ様に意識を失っている状況ではあったが、……。これについては、鵜飼に落ち度があるが――それでも彼の傷を見ればわかる様に、強引にやられた事は違いない」

 押領司は内心、予想がついていた事を再確認して落胆した。

「……ま、懸念通りだった、という事だなぁ。少しは大人しくしてくれていればよかったというのになぁ。

そんで、三件の相手は分かっているみたいだね?」

「……分かっているというよりは、実際に見ているからなぁ。少なくと鵜飼と、拙者の相手は同じだろう。――想像している通り、お主に忠告されていた相手の、《老人》であると考えられる。

 特徴的に身長の高さ、動き方、しゃべり方、拙者と鵜飼の傷は同じ種類で、裂傷だ。

 長さ50センチ程度の湾曲した鎌の様な形状をしたナイフ、あるいは、鋭利な刃物、と思うが……細かくは分からん。

 言いつけどおり、一発でやられたふりして寝てなければ――死んでいただろう。

 木津元刑事の情報は正直ないが、――」

「……。まぁ同じだよね。きっとね」

 だろうな、と赤嶺が頷く。

 頭を抱えたくなったが、腕が痛くて押領司は頭だけ項垂れた。

 恨みはいくつもある。

 しかし、同時に腹立たしい気持ちもある。

 対象はネット上で一方的に”友情”を掲げる相手、マーク・ヒルだろう。

「だからさぁ……。あの『ブリキ人形』には言い聞かせたっていうのにさぁ。……悪いなぁ、赤嶺、鵜飼。俺の想定が甘かったなぁ……。はぁ」

「気を落とすもんじゃないよ。そりゃ痛かったけど、生きてるしねぇ」

「ま、そうだな」

 鵜飼の言葉に難しい顔で赤嶺も頷く。

 実際それだけでも救いではあった。

 押領司の周りで再び《老人》による直接的ないし、間接的な被害者が出れば、次は、『我慢』ができなくなるだろう、と心のどこかでは思っていた。

 安堵感はある、が同時に、『茂庭』と『ステラ』の二つが取られている事が恐怖感を増やしていた。

「押領司はさ、――一人でどうにかできないのに、一人でどうにかしちまうんもんなぁ。今までもさ。だから、誰もが『できんじゃないかなぁ』って期待しちゃう。

 期待ってさ、すげーうれしい反面、すげーつらいんだよな」

 どうした、と押領司は困惑した表情で鵜飼を見た。まじめなことを言うこいつを初めて見た、という心境は、過去の記憶によって裏打ちされた『確実』という事実と共に、気持ち悪い気持ちを胸に抱かせる。

 しかし、

「押領司に向けられてた期待って、期待じゃなくて、押し付けなんだよなぁ」

 え、と押領司は目を瞬かせる。

「だってそうだろう? できる可能性がある事を予測し、そうなる様に『期待』するんだ。できないかもしれない物を期待する何て事は本来、『期待』じゃなくて気持ちの押し付けだよ。

 そりゃぁ、そこに微かな線引きしかないと思うよ。予測の上で相手の能力を見て言葉をかけているんだからさ。

 でも、それって期待しすぎている、重荷になる期待だっていう事も事実なわけじゃない」

「まぁ、お主のいう事も分かるな」

 だろう、と鵜飼は屈託のない笑顔を赤嶺に見せる。

「期待をする事を妨げる方法はさ、拒絶すればいいんだけど、やっぱ友好的な関係を築く上では無下にできなんだよ。だから、期待をする側は本来『マナー』として、期待をしすぎちゃいけない。

 この結果、本人が潰れるかもしれない、って予測も必要だし、同時に、『自分が相手を正しく評価できていなかった』という事を戒めて生きていなければおかしいんだよね」

 しっかり、と鵜飼の言葉を押領司は噛み締める。

 ゆっくりと、心の中で噛み砕き、口に感想を乗せる。

「……鵜飼、……まともな事言う事ができたんだな」

「……。押領司、いくらなんでもひどくない⁉」

 赤嶺は、茶化す押領司にすっと手を伸ばす。

「お主は今、自分の事を回り以上に『過大評価』しておらんか? そう、簡単に鵜飼の言葉に茶々を入れるものでは無かろうよ」

 赤嶺のいう事は理解できた。痛い程に。

「……。……そりゃね」

 押領司は傷ついた自分の腕を見る。神経はとっくにいかれたと思った。腕から首筋に向かうリヒテンベルグ模様は、痛々しい程、白い筋を残し、全身をむしばむ病巣の様に、押領司の体に爪痕を残している。

 多量の電流が通った事がわかり、再生医療を受けなければ簡単に腕は動かない。

 点滴の袋を見る。少しだけパッケージに書かれいてる文字に見覚えがある。

 妹も受けていた治療の内容だからだったが、グルコースによる外部刺激剤を利用した、ナノマシンの集積により、脳から次第にアミノ酸鎖を結合させる再生治療の一つだ。

 特定の場所に投与する場合には、グルコースを特定部位に浸透しやすい様に改良したカテーテルを利用しており、妹の場合は治療3日間は心臓傍――正確には左房筋に触れる様に刺激溶剤を注入できるようになっていた。

 ナノマシン医療を受けたことは分かる。激しい痛みは、今まさに機械的に神経を接続している作業だからだろう。

 こんな体になるのには自分の不注意だけ、ではありはしない。

「――クレアも、ある意味《老人》と同等なのかなぁ」

 ぽつりとこぼす。

 彼女の事を押領司は悲劇のヒロインと思っていた節はある。だからこそ、押領司には強制的な出来事に巻き込ませる事はないと、直感めいた感触はあった。

 彼女の忠告すら、『意図的』でしかなく、行為には『無意味の塊』であったことは分かる。

――おそらく、《老人》に俺の処理を頼まれてもいたのだろうけど……。ま、それは出来やしないよね。『同族』にはさ

 事実が発生した後に、押領司は目を覚まし、無力感を再認識させられるだけだ。これでは、《老人》にとって、木津を無くしたとしても、追跡をする『手』は残してしまっている。

 クレアがそうと限らないが、ストックホルム症候群を代表する様に、クレアがジョージにそういった感情を向ける、という事はゼロでは無いだろう。

 何年も頭を支配され、洗脳状況にあるにもかかわらず、恐怖心も持たず、『対抗』し続ける意思があるのであれば、ガンジーよりも狂人の類に近いとさえ感じる。

――あるいは……そこに至っていたのであれば海千山千か?

「ここまでの出来事は、お主には、予想通りだったか?」

「いいや、違うかもしれないね」

 押領司は赤嶺に口をへの字にして首を振った。

 鵜飼も気づいているのだろう。押領司の問題は、一人で対処できる閾値を完全に超えていることを。しかし、気づいていたとしても、声をかける事”しか”できなかったことが歯がゆいのだろう。

「頼れ、とは言えぬ。拙者もこいつも、お主も、誰も相手を完全に信用などできぬかならぁ。であったとしても、信用しなくてもいいとは思わないか?」

「投げるだけじゃない、ってことだろう? 分かっているよ」

 いいや、と鵜飼が首を横に振るう。

 押領司は否定の先が鵜飼だったことが意外だった。

「スポーツの時も同じさ。信頼だけでも、信用だけでも、違うんだよ。確かに、それは一歩目だとは思うし、とっかかりかもしれないけどね。

 でも、全体感というか、――」

「一体感といった方がいいだろうな。音楽にもあり得る事でな。一つになるという事だ。任せるのでもなく、『そうである』と感じる時がある」

「あぁ、確かに、阿吽の呼吸みたいなやつだけどなくはないね」

 だろう、と横柄に赤嶺は頷く。

「それは何でできているんだい?」

 押領司は尋ねる。

「信用だけかい?」

「違う、信用だけでは足りない物だろう。相手を用いるのは上の状態が示す通りだ。初めての起用などは信用に当たるだろうが、それだけとは言えない」

 では、と押領司は目を伏せて問う。

「信頼を追加するのかい?」

「確かに、」鵜飼は頷く。「仲間を信頼して”預ける”事は重要だろうね。でも、それで全部なのかなぁ。それだけならば、――もっと簡単に一つになれる気がするけれど」

「何が足りないんだい?」

「――言葉じゃない、ってことだろう?」

 赤嶺はにやりと笑った。



 鵜飼は頷く。気難しい同級生の赤嶺・達夫が、自分と同じ気持ちを理解していたことを知って。

 押領司・則之が友達、という単一の存在だけであればここまで鵜飼も、赤嶺も肩入れしない事は理解していた。

 押領司に、特殊技能があるとか、頭が良いというだけではない『何か』がこいつのはある、と鵜飼は思っている。

 友達、と端的に言えるだけの間柄でもない気がするし、それで片づけられないと思っていた。

 信頼されている、というのもあるだろうが、仮にそうでなかったとしても――温度が合った気がしたのは事実だ。

 心の温度については鵜飼では言語化できない、もどかしいところであったが、それでも直観に似た何か同調性が存在した。

 赤嶺はそういったことは気にはしないだろうが、気の合った、という言葉とは少し違うような、共感性があったからこそ、彼とつるんでいるのは想像できた。

 押領司も、鵜飼も、赤嶺も。誰も同じ生い立ちをし、同じ経験をして生きていない。

 鵜飼は、野球に青春を捧げ、時折女子に色目を使うと、全部爆死する程度の人生でしかない。

 押領司の様に、中学時代に妹が失踪し、『死』を近くに感じたこともない。

 赤嶺の様に、家庭環境がすさんでいる幼少期を過ごしたわけでもない。

 それであったも、こいつらならば、と何となく思うところがあった。

 だから、

「で、どうする?」

 鵜飼は聞く。答えは最初か分かっているにもかかわらず、確認するためにあえて、疑問にする。

「決まっているだろう? お主も、こやつも、腸が煮えくりかえっているのは十分理解している。それを、大人に任せて、はいそうですか、なんて引き下がれるところじゃないだろう?」

「――自分の事棚上げするのやめてもらっていいですか?」

 押領司が苦笑する。

「周知の事実をわざわざいう事に意味があるとも思えないからな。鵜飼の様に、自信がない時は口に出せば事実になる、と言わんばかりの行動は、熱血とか、脳筋っぽくって嫌いではないものの、少し頭が悪そうに思えるな」

「……頭はわりーよ? ……でも、やられてやり返さないのもやでね。でも手も足も出なかったのは赤嶺だった同じじゃないか」

 む、と赤嶺は額の包帯の方にちらりと視線を向ける。当然見える事はないが、思うところはあったのだろう。

「ただ単純につかっかるにしろ、相手は雲隠れの天才だろう。そう簡単にみつからんぞ。警察ですら手を焼いている相手に、たたかが小僧三人で対応できると本気で思うのか?」

 なぁ、と赤嶺は押領司に視線を向ける。しかし、押領司は気にした様子もない。

 当の押領司の顔面に張り付いているのは、『不敵』だ。

「――この三年間さ、今日に至るまで、”全世界”が俺をそうだと思えてきただろうね。

 『探す』だけだって。大した力の無い『ガキ』だって。

……、やっと本気を出せるんじゃないかって、――少しわくわくしている所もあるんだけど……」

 押領司はぐるりと首を回す。

 鵜飼は少しだけ、押領司の発言が不気味に感じた。自分と同じ人間であるにもかかわらず、『命』をかける事をわくわくしている、というのはねじが飛んでいる気がしたからだ。

 ニヤリと押領司は口角を上げる。

「かつて、マーク・ヒルは、ネットワークに隠れる天才だった訳だけれど、それを見つけ出してしまったからその発見者を『逃がさない』ために全世界に“こいつ”だって知らしめる必要があったんだよね。

 ……なんでかって、チャーリー・ルイスもそうなんだけどさ、ネットワークの構成上、到達しえないところに到達してしまった事が『悪用』されることを避けるための措置として英国では当たり前だったからだけれどね」

 押領司は笑う。

「というのは建前で、本音は『子供』なんかに秘匿技術が破られて悔しいっていう大人げない理由で担ぎ出したんだろうけどさ」

「まるでチャーリー・ブラウンだな、チャーリー・ルイスは」

 赤嶺の皮肉に、押領司はゲラゲラと笑いながら、苦しそうに、息を整えた。

「――、――、……ひひ、まぁ、結果として、『チェイサー』と言われる事になったけど、おかげで誰からも認知される相手になってしまった訳。

 そうすると、俺の得意技は『見られ』続ける事になる訳だ。大した技術じゃぁないけれど、見られているというのはやりづらいし、ネットワーク上ではかなり……動きにくい。

 チャーリーの動きを俺が監視していた通り、各国の情報機関が俺の端末に集中をしてくるわけだ。そうするとそこに『俺がいるぞ』と言っていないにも関わらず知られてしまう。

 データの流量は簡単に計測できてしまうし、どこを監視しているかなんて監視側も筒抜けだというのを分かったうえで平然と行うからね」

「だから、雲隠れをしたかったと?」

 そうだよ、と赤嶺に押領司は頷く。

「妹の死亡については、犯人が居ないことを俺は知っている。これは、――観測状況からの結論なんだけどさ」

 鵜飼は違和感を覚えて、押領司の言葉を手で遮った。

「ちょ、ちょまって。妹さんは殺されていない? 当時の状況とかもオレよくわからないんだけど、教えて」

「――、まぁいいか。どうせすぐには動けないし」

 と押領司は壁にかかった時計をちらりと見た後にうなずいた。

 赤嶺と鵜飼は目を合わせて鉄パイプ製の丸椅子を一歩前にずらす。

「赤嶺はその場にいたから『拉致された、だろう』、と警察に証言している一人な訳だけれども、鵜飼はそのころまったくの関係が無いから、どういった事件だったかもわからないかもね。

 ――そうだなぁ、俺の妹は幼少期に心臓の弁に異常があったんだよね、そのおかげでナノマシンでの再生治療が行われていたんだ。結果として定期的な通院が必要なわけだったけれど、それでも普通といってもいい成長ができた。

 むしろ普通よりも成長が促進されたかもねぇ。完璧に同調し、完璧に、『動作』する心臓というのは、内臓の強靭化に寄与し、運動神経に直結するから非常に有用だったんだろうさ。

 ただ、ナノマシンはタンパク質性であると同時に、誘導性と電気伝導性が言い訳なんだよね。かつ、それが一定の作用を及ぼす『ロボット』とは違うんだけど、特定の動きが付与されることになるため、その差用事に熱と微弱な電流が発生してしまう。

 妹の体は一定のサイクルで荷電の状態になっていた訳で、それを放電させるために通院が欠かせないんだよね」

 一息、押領司は自分の腕を見て、その先の点滴のチューブをたどり、プラスチック製のパックを見る。

「ナノマシンは体内でネットワーク構成をする。これは――腎結石の様に一定の老廃物を対外代謝できない代わりの措置で、筋肉や神経の側枝として形成される副作用でね。側枝自体には痛みはないものの、神経側枝となった場合、通常の反応速度では考えられないほどの向上があるわけなんだ。

 で、――当時の状況と、妹の帯電状況から一つの推測があった。

――事象改変にエネルギー保存の法則は『どう』作用するか。というのがヒント」

 押領司が二人を見る。

「二人は”世界”がどうであると思っている?」

「随分とまぁ漠然とした質問だね……」

「拙者も鵜飼に同意で、もう少し狭義の設定が必要だと思うが……。仮に言いうのであれば、空間が存在しているだけ、というとらえ方をする。そこに満ちる物の濃度が変化しているのが現行の――人だとか機械だとか生き物だとか、そういったものと同様に、音だとか匂いだとかが充足しているだけだと。同じものの密度が違うだけで、『全部同じ』だと思っているが?」

「……それ、相当おかしい考え方だとおもうけど……。オレは、普通に有機の奴が居て、そこに無機の奴がいる。で、生命の定義とは別に構成されたモノに『命』という電気信号が派生している、と考えるかなぁ」

 なるほど、と押領司が頷く。

「二人の考え方は違うにしても、一つだけ共通点があるんだけど、わかる?」

「――うーん、地球の定義がないとか?」

「あぁ、空間が無限か有限かは設定しておらぬな」

「そこはあまり関係ないけど……。着眼点はいいよね。でもそれは無限でも有限でも二人とも同じ事を言っても当てはまるは、当てはまるよね。――二人とも、時間の概念がないよね」

 確かに、と鵜飼は頷く。

「時間は軸として存在するのか、それとも物体の劣化状況を時間としてとらえているだけで、人間独特のモノサシなのかが不明だよね。

 《機械種》は、《人間》と違いパーツを変えれば永遠に生きられるのに、《人間》はパーツを取り換えても永遠には生きられないし、『美』を維持することも難しい」

 だけれどさ、と押領司は自分の頭をコンコンと右手で叩く。

「時間という概念がなかったとしても、”同一時間内に『時間軸を超えた行動』が可能”とすることは可能なのか?」

「……」

「あり得ぬな。時間を止める、と揶揄される異能は存在しない。

 仮に、時間が停止する中で、一人だけ動く、という事が起こった場合に発生するエントロピーは指数関数的に物体が動く時間に応じて増大してしまう。どの程度の時間が停止しているのかわからぬが、一人が『一定の』時間の中で動いた場合、その《人間》が『次』の時間の時にその一定の時間分のエントロピーを保有していなければおかしい。

 つまり、ひどい話がビックバンが発生するほどだろう」

 まじめに話す赤嶺に対して、押領司はケロリとした表情を浮かべた。

「それは、あくまで周辺の時間の中で、対象者が同一時間内に、『同一時間軸』として動いた場合だよね。

 俺が言っているのは、世界の時間軸から逸脱して、そこに新たな時間軸が派生している場合で、対象だけが時間が進んでいた場合は、エントロピーとして単一固体に蓄積され続けないだろう、という仮定での話。

 これが可能だとすれば、――」

 まて、と赤嶺が手で止める。

 ちらりと、鵜飼を見て、理解ができていないのではないか、という視線だ。

「――いや、まぁ、オレはよくわからないんだけど」

 素直に言うと、いいよ、と押領司は何度も頷いた。

「例で示そう。世界の感じる1秒があったとして、1秒の間に、人間が1秒の規定値以上の動きをするとする。この場合で二つを比較しよう。

 1秒に最大2回腕立て伏せが可能であるとして、それを1秒の時間に凝縮して10回や100回やったとすると、その分エネルギーは増えるだろう? 必死に腕立てをする様子を単純に想像すればいいね。

 だけれども、1秒間2回の腕立て伏せの回数を、世界の1秒の間に、自分だけ50秒の時間が進んでいたら? 周りの時間が遅く、1秒が2倍に、1秒が50倍に、1秒が100倍になれば、それだけその人は動けるだろう?

 周りからはせかせかと動いているのに、二つにはエネルギー的に違いが存在する」

「昆虫の時間分解能みたいなもんか?」

「……え? なんでそんなん簡単り理解できるの? ……逆に引くんだけど」

 押領司からの冷たい視線が痛く、鵜飼は眉を寄せた。

「――でもそうすると、《人間》でも複眼であれば、可能、という事にはなるのではないか? 否あり得ぬ話ではあるが」

 押領司の言葉を待たず、赤嶺は続ける。

「そもそも《人間》が複眼を手に入れたところで、脳の構造上、50khz程度の分解能しか有さぬ以上、同一に見えるだけで終わるのではないか? ましてやたかがナノマシンの影響で……」

 鵜飼も頷く。

 しかし、押領司はもう一度トントンと自身の頭を叩いた。

「構造上できないから、『機械』で補完できる。『機械』で補完できれば、人間は拡張させられる。……これが、《Mouse》の一部――正確には、ジョージ・マケナリーが最終的に行きついた《機械種》と《人間》の融合理論の理想形だよ。

 《機械種》と《人間》の融合を進める事は、《Mouse》にとっていい宣伝ではあったんだけれどね。……偏見をなくすための手段であったけれども、同時に、多量の副産物を生成してしまったことを後悔しているのは事実さ。そのおかげで、『ジョージ・マケナリー』を切り捨てて、《機械種》だけの存在を頑なに誇示しようと考える訳さ。

 ――事実として、《人間》に『機械』を埋め込んだ結果として、一部にナノマシンとの融合を果たしてしまった存在が居る事が厄介な訳さ」

 押領司は肩を落として、手元を見た。

「《Mouse》はもう《人間》と《機械種》の融合はやってくれるな、と言っている。しかし、『機械』を使役し、《人間》を次のステップに上げると息巻く《老人》を処分できない。そのうえ、《老人》は勝手に自分の同族を造ろうとしている。

 これがここ20年以上繰り返されているクソすぎる問題なんだよね」

 押領司がその事実をどのように受け止めようとも、怒りは口調から分かった。

 鵜飼の前で大きく、押領司は溜息をつく。

「妹は長期間のナノマシン技術の利用により、神経が通常の《人間》とは違うほどに成長していた上に、帯電体質だったみたいだね。生体電流の蓄積を放電しにくい状態、という予測ができるけれど、蓄電池と違い蓄積は本来できないと思うんだよね。

 本来、電場として存在はしていても、体表面に覆われている脂肪分によって伝導率は下がるわけだから、――太ってたのかなぁ……い、いや、それはおいておこう。一般的にも体脂肪は存在しているとしてもドアノブなどを触れば電位差が生じて正常に戻ってしまう。

 とすると、妹の『意思』で滞留させる、あるいは体内に電気循環ができる状況が存在していた、と考えるのが自然だったわけ。電位差が生じなくても内部にサーキットが存在していれば、そちらを優先させるだろう?

 そのため、意識的な放電に際して、内部に蓄積されていたエントロピーが放出されるわけだからエネルギー量が増大する。

 このエネルギーを含めて、『《老人》が世界を改編するために、全世界のネットワークを利用し、莫大なエネルギーを保有した彼女を消した時』に、余剰エネルギーは……彼女を殺した」

 押領司は目を伏せた。

「いくら人間が視界がよくなり分解能を獲得したとしても、いくら機械で補完しようが、いくら肉体を進化させる様にナノマシン技術を利用しようが、……数字的に表現はできも、数式的には構築できない事が証明されたわけさ。

 でも、エネルギーを保有している事は変わらない。それが濃縮されて、『自分の中で』燃焼させるエネルギーとして存在するほどにね。

 ――人は、同一時間内に、一人だけ時間を平常のまま活動することができない。

 この結果は、平行した世界を観測することと同じだ。観測した時点で、世界は『どちらか』のエネルギーにより『どちらか』が破滅する」

 頭を下げて、押領司は掌を瞼に押し当てた。

「……。お主の妹は、拙者に、……世界に、『見られた』から《老人》による改編による余剰エネルギーで消滅した?」

「……ま、端的にはそうだろうね」

「それ立証できんの?」

 鵜飼は咄嗟に口を開く。

「仮に、赤嶺が見てなかったら問題なかった、という訳でもないじゃない。――だったらこれはあくまでも仮定。結局結論はなし――でいいんじゃないの?」

 それはなぁ、と赤嶺は難しい顔をする。

「腑に落ちない、という事をどこか模索するのは、次に進むのに必要だろう?」

 だったとしても、と押領司に鵜飼は視線を向ける。

「ネットワーク上で探しても見つかりませんでした、だから、妹は『勝手に』死んだんです。

 ――それで、納得するのかよ?」

「納得する……しかできないよ。

 何年も足跡を探したのに。

 足跡探した先にはなくて。

 ステラの死亡因子がもしかしたら『《人間》の誰かの意志』かもしれないとおおもったけれど……。違ったわけだし。

 結局。

 《人間》を《機械種》にはできないし。

 《機械種》を《人間》に置き換えることもできないわけじゃない。

――だから、俺は、《人間》が嫌いだよ。死んだ奴を生き返らせる方法がないからさ。

 だから、俺は、《機械種》が嫌いだよ。生きている奴を殺す方法がないから……」

 押領司は言葉をつづけようとした。しかし、

「――馬鹿だろ?」

 鵜飼が口にして、はっとした表情で押領司は視線を向けてきた、

赤嶺を含めて二人の刺してくる視線が鵜飼に向かった。

それでも、鵜飼は一切気にしない。

「オレは、馬鹿だけどさ、押領司の馬鹿と性質が違うから、オレに言われたからって、文句言うなよ?

オレは知らない、から馬鹿なわけで、知識を手にするために勉強しろ、とはよく言われるから根本は分かっている。

 でもさ、押領司の馬鹿は、あくまで俯瞰してみる事しかしてないんじゃない? 鳥瞰と同じでさ、上から見るっていうのは、全部を見ようとするよね。それって、オレら《人間》ができる進化の結果なのか?

 技術的にできる事なのか?

 思考がついていく事なのか?

 心がついていく事なのか?

 さっき、押領司が言っていたとおり、『複眼になって機能を『機械』で補完しても、《人間》で再現性はない』――って事だろ?」

「なにが――言いたい」

 押領司は、ひどく動揺した表情だ。

 青ざめた顔だ。

「あぁ、なるほどな。拙者もお主の言葉で合点がいった。押領司は随分としたたかではあるが、上から全部ころがそうと躍起になっておるな。

 そのうえ、過去の出来事を『自分の失態』だと思っておるだろう?」

「だろうね。押領司は全部背負い込んでいる、というよりは、全部を知らないといけないと思っているのに、『自分の限界』は二の次なんだよ。

 最初にさ、人間とか機械とか区別をするのは結構だけどさ、その違いって一つしかないじゃない」

 押領司は眉を顰める。

「自分がどうしたいか、だろう? 『機械』には、『統一した』意思によって、あるいは『統一されたプログラム』によって、一定の『成長』を義務付けているわけだよね。

 だからさ、止まってもいいし、後ろにさがってもいいだ。

 常に、前に行けるのなら人間じゃないさ――それは、人間の理想形――機械になっている、ってオレは思うけどね」

 目を瞬かせて、押領司は口をぽかんと開けた。

「理屈はいらぬ。今、お主は何がしたい?」

 赤嶺の問いに、押領司は――。



 白い部屋。

 カーテンで区切られた狭い世界は、ひらりと人が動けば境界を微かに動かす、不確かな空間だ。

 押領司・則之は、鵜飼・博に視線を向けて、続いて赤嶺・達夫の顔を見た。

 意地ではない、と自分では思っていても、悪びれる事での言い訳も、知った事での諦め方も、どれもが”納得”の行く結論ではなく、胸の中にしこりを残したままにしていた。

 二人の言葉は分かる。

 しかし、一歩を踏み出す時の自分の立ち位置はどうすればいいのか、と悩んだ。

「――そういう時はな、押領司」

 赤嶺は馬鹿にした様な視線で鵜飼の表情を一瞬の見たあと、

「鵜飼の通り、チームワークだろう? 依存するんじゃぁない。――助け合うんだ」

――そんなことしてこなかったのに?

 心の声は表情に出ない。が、瞳の中に陰りを作る。

 苦しい時に、声を出せなかった。

 苦しい時に、自分で模索するしかなかった。

 苦しい時に、一歩を踏み出す事が怖かった。

――だから全部、自分の手の届く範囲で……

「一人じゃ届かないところもあるさ」

 鵜飼は頷く。

「一人じゃなきゃ嫌なら、オレらになんか言うもんか。でもまだ、言葉で聞いてない。

押領司は――、どうしたい?」

――最初から決まっている。

 口にしてしまえば、今までの自分が否定されそうで、気が引けた。

 何に対して負い目を感じているのかはぱっと分からなかった。

 でも、きっと、――

「それは意地じゃない。拘りでもない。拙者は――、一人でいる事が悪いとは言わぬ。

 が、お主の『問題』はそこじゃぁない」

――知っている訳でもないのに。

 押領司は二人から視線を外す。

 責められている気がするのが、少しだけ胸の中をモヤモヤとさせる。

 ぎゅっと握り込んだ茶色のブランケットは、皺を作って押領司の掌に集まる。

 できる溝は川の様に、縦横無尽にベッドの上に丘陵を作り上げる。

――頼む、のか?

「いまさら? この腕だって12針も縫ってんだぜ?」

 からからと、鵜飼は笑う。

――頼める、のか?

「本当に、いまさらだなぁ。――拙者の頭は8針だが、あと少しずれてたら死んでたわけだが……」

「むしろ頭の中引っ張り出してもらった方がすっきりするんじゃないの? 拙者口調はさすがに……、中二病越えて怖いもん」

――でも、どうして?

 押領司は悩んでいる。

 二人は、何やらじゃれあっているが、押領司の気持ちの整理はつかない。

 何のために。

 頭に浮かぶ《心》の不確定な感情を確定させようと考えをめぐらす。

「――なぁ、」

「なぁ、」

 鵜飼、そして赤嶺は聞く。

「委員長の好意はうれしかった?」

「ステラ・フラートンという《機械種》は、お主の『世界』に解答をもたらしたか?」

――そんなの分からない。

「委員長は、力になりたがってた。でも今、押領司が邪魔をしないための人質になってるじゃない」

「ステラという《機械種》も同じだ。お主の相手は、――それを使うつもりなのだろう? 生贄に」

 唇をかみしめる。

 そんな理由なのだろうか、と。

――妹のため、だった気がするのに――

 その感情は遠い昔の気がした。

――助けない、のかな?

「何を?」

 鵜飼はとぼける。

――確かに、何を守りたいのさ。

「どうして?」

 至極当然と赤嶺は問う。

――……理由が、あるのかなぁ

「押領司の手には、二人を助ける力があるのか?」

「押領司の心には、二人を助ける意思があるのかい?」

 確か最初は、妹を探し、妹が電子の海にいるのであれば助け出したいと思った。どうやるか、は分からなかったが、見つければ次第に解決できる気がした。

 しかし、見つかる訳がない。妹は、『別』の要因で死亡した、と結論付けたほうが論理的に整合性が取れて、親の仇が居なくなったような『安堵感』をいつしか覚えていいた。

 茂庭・麗子が毎日ちょっかいをかけてくるのが最初は疎ましかった。自分がするべきことが、『別』にある気がして、自分の気持ちにすら気づいていない。

 好意がある事は何となく分かっていた。でも、それを茂庭に確認して、今の状態がぎくしゃくするのが怖かった。初めて、きちんと押領司の中で気持ちを持てたのだから。

 ステラ・フラートンの処遇については面倒事だと思っていた。自分の技術なんて世界最先端の技術者たちを擁する企業や、理論追求型の大学や、ネットワーク上に居る数多のギークには比肩するものではないと思っていた。

 『別』の人を見つければいいのに、とチャーリーに恨み節を吐いたところで、マークやそれこそ外務省が勝手に話しを進めて、気づいたら家にいる始末だった。

――『別』を探して、自分は逃げたかったのかもなぁ

 押領司は思い至る。

 『ステラ』を助けるとか、『茂庭』を助けるとか、『妹』を助けるとか――ひいては、『クレア』を助けるとか。

――そういった大義名分はいらないんだ

 すっと、気持ちが楽になる。

――俺は『どうしたいか』か……


「――俺は、」

 あぁ、と赤嶺が頷く。

 うん、と鵜飼は頷く。

「――助けたいんじゃない。――」

 視線を上げて二人を見た。

 確固たる意志で。

「俺は、大人の都合で作った世界を――壊したい。

 力がない、と見下されてる、事が不愉快で仕方ない。

 なんもできない『搾取』の対象と考えている”奴ら”に一発かましたい。

 委員長も、ステラさんも、そんなの――二の次でいい。……助ける算段はするけど、俺が考えるのは――、」

 あぁ、と赤嶺が頷く。

 うん、と鵜飼は頷く。

「助ける方は――そうだなぁ、”大人”に任せて、”子供”の俺たちは、”『仮想』パーティー”といこうか」

 『何か』を思い、久しぶりに押領司は、"子犬"の様な顔に"猛犬"の様な意地の悪い笑みを浮かべた。

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