表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

7 頑張った人間が報われますように

私はずっと考えていた。

どうして魔法少女となり、頑張った人間に絶望しかないのか…


頑張った人間には報われて欲しいじゃないか…


虚な目をしたドレッドは大蛇を消滅させ私を睨み付けていた。


 屍と呼ばれる魔女になりかけの魔法少女…

 今は意識は無く、本能で敵を排除する存在…


 屍として多くの人間を殺し終わった後、いつの間にか自我が戻る。

 屍として人を殺した記憶と自我が戻り全てに絶望する。



「頑張った人間に…救済を…」 

 私は呟く。


 屍は私に向かって歩み寄る。本能のまま…生命力を感じてだろうか?

 私の…シードを奪う為に…


屍は自らのディザイアシードに呪いをつのらせて魔女と化す。


「感度…100倍…」


私はそう呟いて、ドレッドと呼ばれていた魔法少女を抱きしめる。


赤い髪に、細い体、スベスベの肌だった彼女は先程まで暴れていたせいでボロボロだった。


「ああぁぁぁぁぁあ…」

 彼女は私の腕を振りほどこうと暴れる。ひんやりと氷の様に冷たい肌…


 彼女がもう人間ではなくなっているという証…


「大丈夫だよ?アナタはまだ生きてる…


存在してるの。」


「ぁぁぁぁぁ…」

ドレッドは私の拘束を解こうと、必死に暴れる。

 この状態では私自身も感度が100倍になっている。正直ものすごく痛い。


 痛みこそが生きている証なのだと実感する。


 屍は本来ならば痛みは感じない。感覚が無くなっているのだ…

 例え腕がもげても、自身の活動を終えるまで…つまり相手を殺すまで暴れる。


 私の魔法は別だ。『感覚』という概念を与える。


「大丈夫!アナタは大丈夫!

 生きてるから…戻って来て?」


「ぁぁぁぁ……ロ…シテ」


生きている事は苦しみを感じる事でもある。

何も感じない状態から、再び意識を取り戻すのは苦しいのだろう。


「大丈夫…私がついてる。言ったでしょ?無理しないで?」

 私は彼女を抱き締め続ける。彼女が生きているという暖かさを感じさせるために…


 かつて私を救ってくれた人がやってくれたように…

 全てを失ったという絶望から、救うために…


「絶望なんてしないで?まだ…あなたは生きている。やり直せるから…」


「あ………た…ス…け…」

ドレッドのディザイアシードは黒さが薄れて少しずつ明るくなって行く。


「私の目を見て?」

そうして彼女は私の目を見た。


「で…で…」

一時的に右目の力で彼女の動きを止めた。


「願って!魔法少女の『契約を取り消したい』って…」


「ケイ…ヤク?…ケシ…タイ」


「そう…契約解除の代償を…

ディザイアシードの呪いを私に…私の目を見て。」


するとドレッドのディザイアシードは私のディザイアシードに黒いモヤモヤを吸い取られて浄化されていく。


浄化と言うよりは、右目の力でディザイアシードの呪いを奪ったのだ…


彼女に人としての意識を取り戻させるために…

契約を自身の意志で無かったことにする為に…


「はっきりと言うの!契約を無かった事に…」



「契約を消したい…」


 その瞬間彼女のシードはホープズシードの様に明るい色に戻っていき…

 砕けた。


 先程まで暴れていた彼女は、ピクリと動かなくなった。



「え…あーしは…」

 彼女は正気を取り戻したようだった。


「おかえりなさい。」

私は安心する。どうやら彼女は人間に戻れたようだ。


「え?どうして?あーしは…


てか姉さん…目から血が…いや…右目の周りに変な紋様が…


 え? その目は…どうして?」


彼女は驚愕したようだった。


「アナタは魔女になりかけていたから…助けたの。」


「違う…そんなのを聴いているんじゃない!


その目はディザイアシード…


つまり魔法少女の敵の証じゃないか?なんであーしらを…」


「今のアナタなら分かるでしょ?


魔女は魔法少女の成れの果て…


でもね…頑張った人間の未来がそれなんて嫌じゃない。


だから私はずっとみんなを救済する事を考えていた。」


「でも…既に魔女になってしまったら…」


「魔女になってもディザイアシードに呪いを移せば正気を保てる。


 正気に戻して…魔法少女の契約を断ちきれば、人間に戻れる。」


 呪いを移す…それは屍の様な魔女に成りかけの者であれば比較的負担は少ない。


「ごめんね…話は後に」



 私はビッチイエローと呼ばれていた魔法少女を抱き締める。


誰がこんな名前をつけたのだろう?

それとも自身で他の女子を魔法少女にしない為につけたのか?


可愛らしいこの子の事をもっと知りたい…

その為に…



「呪いを…私に…」

 私の右目から血が流れる。呪いを受けとる罰の様なものだ…


「アタ……カ…イ」


「人に戻ろう?魔法少女を辞めて…」

 私は彼女の呪いを右目に引き受ける。彼女を魔女にしないために…


その度に私の右目は呪いを帯びていく…


◇◇◇


 ………今回はみんなが屍に成りたてだったからうまくいった。


 4人中3人を人間に戻せたのは不幸中の幸いだろう…


 絶対に戻せる訳ではない。


 時間が経った者、ディザイアシードの呪いが強い者や既に魔女に変わった者は無理だ…



「なに…これは?」

 マシロが私の後ろから声をかける。目を醒ました様だった。


 先程まで屍に変わっていた魔法少女は3人が正気を取り戻しており、それに驚いているようだった。


「彼女達を人間に戻した。戻せなかった子もいるけど…」


 マシロは唇を噛み締める。

「じゃあアンタは…どうして私を助けてくれないの?パートナーじゃないの?私は…」


驚きと動揺…

悲哀と憎しみ…


 マシロは私の肩に手をかけて、私を振り向かせる。

「ねぇ?私を助けてよ…

 こんなに苦しいのに…


助けてよ…苦しくて悲しくても、もう泣く事さえ出来ないのに…」


私はとっさに右目を左手で隠す。

だがその手は無理矢理剥がされる。


「見ないで…」

 私の右目から血の涙が流れる。

一人の呪いを引き受けるだけで全身はボロボロになる。


それを四人分引き受ければ、それは想像を絶する。



呪いにより汚れた私が彼女の目に写る…


 目の周りに花の様なアザが浮かび上がる。

その花は美しくもおぞましい呪いの花…


 この姿を一目見ただけで、人間では無く別の存在だと皆が本能で認識する。


 つまりは彼女も…私が既に魔法少女では無いのだと理解する。


「ごめんね…マシロちゃん…あなたを助けたい…

 けれど…今の私には助けられないの…ごめんなさい…」


 私は既に動く力が無くなっている。呪いを引き受けたせいで体が動かないのだ…


「……アンタ…その体は…

それだけの呪いは…死ぬつもりなの?」



「私は大丈夫…ずっと呪われて……生きてきたから…」


 私はその場で地面に倒れた。呪いを一度に受け入れすぎたせいだった。



祝福されなかった存在…

皆から死を望まれた忌み子…


呪いには慣れていた。

だけど他の人が呪いで苦しむのだけは慣れなかった。



だから私は呪いから一度解き放たれた時に決めたのだ…

頑張った人間が呪われないように…


魔法少女を救済出来る様に魔法少女になる事を…



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ