私は敵じゃない!届かぬ声…
「貴様がファティマ様がおっしゃっていた『災禍』の一人だな?」
『災禍』
それは存在だけで国を容易く落とせる怪人と魔女の総称。
ナンバーズやロイヤルナイツは『災禍』から人々や平和を護るために発足された。
これらの存在は最終防衛ラインなのだ。
つまりは防衛ラインを越えられれば、沢山の人々は死ぬ。
「いや…私は…」
私はナンバーズの一人…災禍と対をなす存在。
だと説明をしようとするが…
「言わずとも良い。お前はこの場で俺が倒すのだから…」
単独で?か…
経験が浅いにも程がある。
災禍は一人で舐めてかかれば返り討ちだぞ?
「話を…」
「はっはっはっは。先ほどの戦闘で貴様の戦闘データは既に頭に入っている。
思った程貴様は強くは無いようだ!」
………頭が痛い。
本気を出していないのに、彼は私が本気だと思っているのか?
まぁ…ステルス性能のあるロボットのようだ。傲るのもしょうがない。
ゴオオォォォォォ
相手はこちらに突っ込んできた。
相手はステルス性能を持つ機体の為に、私から敵の姿は見えない。
見えないだけだ…
「マジカル☆ステッキ」
私はマジカルステッキを構えて、振りかぶる。
シュウゥゥゥ
どうやら敵は旋回し、私から距離を取ったようだ。
「クソが…まさか…この俺が見えているのか?」
ずっとコイツ一人でしゃべっているな…
「その…」
音で判別しています。機械が見えなくても、生身だから音は聞こえるのです。
同じロボットだったら、防音性能により完全に不意打ち出来たかもしれないけれど…
と丁寧に教えてあげたかった。けれど…
「だが例え俺の姿が見えていようと、俺は実力でロイヤルナイツにのし上がった男!
貴様にこの姿が見えていようと、倒せるかどうかは別だ!」
そう言って、再び私に近づいてくる。
「分解魔法・エクスプロージョン!」
私は左手を前に出し、大気を分解し水素と酸素を作り出すことで大爆発を起こし続けた。
「はっはっはっは。貴様は先ほどもその技を使っている。酸素の量も限られているだろう!
つまりはこの空中で爆発を起こせるのもあとわずかだ!」
爆発の爆炎の影にかすかにシールドが見える。
先ほどと同じでシールドを展開し爆発に耐えるつもりだろう。
その後攻撃が収まったところを叩くつもりだ。
「………はぁ…」
説明するのもメンドクサイ。話を聞かない相手というものは大変疲れる。
私は恐らくコイツの敵ではない。そして災禍が来るというなら、本来味方として共に戦うはずだろう…
だがコイツと共に戦いたくはない。考え方が浅はか過ぎるからだ。
確かに普通の爆発魔法を使う魔法少女ならば、魔力が切れるか空気中の酸素がなくなれば爆発魔法は使えなくなる。
だが私は大気中の二酸化炭素を分解して酸素を作っているのだ。
永遠に大気中で爆発を起こし続けることが出来る。
つまりはコイツは前のロボット達を捨てゴマにしたんだろうが、それで私に勝てると思ってここに来たならヒーロー…いや騎士失格だ。
ロイヤルナイツとしても、お前は失格だと告げてやりたい。
2分くらい私は爆発を起こし続けた。相手はずっと透明な全方位対策出来るシールドで耐えていた。
「はぁ…はぁ…あと少し…理論通りならばあと少しで爆発は止まるはずなんだ!」
恐らく今の彼の機体の内部は、高熱になっているはずだ。
あと少しで彼は熱中症で倒れて墜落する。
まぁ…それ以前にシールドを展開して攻撃を防いだ場合、光の屈折により位置を知ることが出来る。
つまり私はいつでも彼にトドメをさせていたのだが、彼には少しお灸が必要だと思った。
話を聞かなかった事に対して…
「アナタ…本当に弱いわね。そこらのヒーローのほうが余程強いわ。」
私は彼に向かって言った。少し爆発を弱めて…音声が聞こえるように…
「何…俺が弱い?」
「雑魚も雑魚。アナタじゃ私に触れることは出来ない。
データがあると言ってたけど、データの活用すらできていないじゃない。」
私は淡々と事実を告げる。
いつか共に戦う時があるならば、有能でなければ困るからだ。
「雑魚?雑魚とはなんだ?弱い?」
「私はアナタの敵じゃない。まずは私の話を…」
「俺が弱い…弱いか…そんな訳がない!」
再び一人で話し始めた。ここまで来ると狂気すら感じる。
「俺は妹を支えなきゃならないんだ!そのために、こんな所で死ぬわけにはいかない!」
爆発の中からかすかに禍々しい光が見える。何かを行うようだ。
「降魔合身」
彼のロボットはステルス機で姿を見ることは出来なかった。
がステルス性能が解かれていく。
ディザイア・シードの能力を宿す為に。
(あぁ…漆黒の格好良い機体だったのに…)
人型であるロボットは、背が曲がり禍々しい爪が生えてまるで獣のロボットのようになる。
オーバードライブ…いつかのライダーの合身をロボット+ディザイアシード+操縦者で行う最終形態。
ロボットの性能は格段に上がり、まるで生きているかのように操縦出来る。
更には用いるディザイアシードの所有者の能力を使うコトが出来る。
少女が魔法少女になるのと同じように、自らの命を削りロボットに魔女や怪人の力を宿して合体する力。
「いくぞ、災禍よ!俺の命に代えても、おまえをここで葬る!」
「話を聞け!私はおまえの敵じゃない。味方だ!」
ようやく私は味方であることを告げた。でも彼にはもう届いていないだろう。
だって…私は既に攻撃を受けていたから…
見えない攻撃…私の身体は遥か先に吹き飛ばされていた。
マジカルステッキは手から離れていた。恐らく最初に攻撃手段であるステッキを吹き飛ばすつもりの攻撃だったのだろう。
音すら聞こえさせない超速のステルス性能…
一撃で私の手からステッキを吹き飛ばし、胴体に傷をつける攻撃力。
「もう…コイツは最悪…殺すしかないか…」
私は彼を殺すことを決意した。無理なのだ…
オーバードライブ…つまりロボットに魔女の力を宿した相手に加減をして倒すのは…
私の右目を使えば対処は出来るだろう…でも私の正体を一番知られてはならない奴に知られてしまう。
「分解魔法…絶対零度」
ずっと爆発が起きていた。爆発によって熱が発生する。
でも私は『熱』さえ左手で分解できる。
「凍りつけ!」
私は周囲を凍らせ始める。ぶっちゃけ彼が逃げれば一番だが…逃げないだろう。
だから…彼が攻撃する前提で迎え撃つ。
(1000℃……420℃…100℃……0℃)
急激に周囲の温度を下げる。
「ゴホッ」
私の口から血が飛び出た。肺が凍り始めた事による弊害だ。
これは自身の身体にも負担をかけるので爆発の後に使いたくはなかった。
(-59℃…140℃…-200℃)
絶対零度が近づく…
「死ね!災禍よ!」
もちろん見えない攻撃が私に迫る。けれどもう見えなくても良い。
だって…死ぬのは彼だから…
ロボットのコクピットでは温度はある程度コントロール出来る。
だが合身により、ロボットとシンクロしている時点で凍り付けにされるのは地獄だろう…
何よりロボットは金属だ…
高熱から急激に冷まされた圧力の変化によって、金属がぺしゃんこになる。
つまりは私に攻撃した時点で、彼はぐしゃぐしゃになって死ぬ…
「ごめんなさい…」
私は謝った。彼に対して…きっと彼ならば強い騎士の一人になれただろう…
運良く生き残れても一生寝たきりになる…
「救世魔法・運命操作…」
何が起こったか分からないが、いきなり天地がひっくり返っていた。
上下左右の認識が出来なかった。恐らく…相手もだろう…
(この力は…カグヤ?)
「ったく…本当に二人とも、人の話を聞かないのですね…」
深紅の綺麗な着物を着た、平安時代の姫のような少女がゆっくりと私のもとに歩み寄ってきた。
いや…空中を歩み寄るというのは語弊がある…スライドして横向きに飛んできたのだ。
優雅で可憐なお姫様…
初対面の時からカグヤに美しさでは絶対に勝てないと思わされていた。
「カグヤ?ごめん。助かったわ。」
私は安堵の笑みを浮かべた。
カグヤの姿が見えた。他人の運命を操作する、この国最高の守護者。
「レイアさん?反省してください!
話を聞かなかった兄も悪いのですが、今回の件はファティマさんの予言を知らなかった貴女が悪いのですよ?」
私が悪い?はて?何を言っているやら?