表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
Vol.1『ゲミニに灯るセントエルモ』
8/36

プロローグ 『レッツゴーファンタイム ~Let`s Go fun time~』

 アナーキアに来て、二週間が経過した。

 あれから僕はルケとクラミの二人とテトラビブロスとして、様々な仕事をこなしながら新たな生活を謳歌していた。


 テトラビブロスはこの都市の行政を担うセントラル直轄の組織でありながら、その本質はまさしく便利屋のようだった。アナーキア市民から多数寄せられる大小様々な問題の解決に取り組み、宝宮の消失によって不安定な状況のアナーキアをちまちま元に戻していく。

 最初に言われた十三宝宮(じゅうさんほうきゅう)に関する業務とはなんだったんだとツッコミたい気持ちで胸いっぱいだが、そもそもこれがテトラビブロスの存在理由なんだそうだ。


 なんでも現在のセントラルでは都市の復興を中心に苛烈な覇権争いが繰り広げられていて、様々な勢力がにらみ合っている状況。それを見かねたクラミが自ら進んで買って出て、大した手柄にもならない――それでもアナーキアのために誰かがやらなくちゃいけない仕事を請け負うというのがテトラビブロス理由――発足のための方便らしい。


 つまり、十三宝宮に関する業務とはこの組織を維持するための大義名分。

 クラミが語ったのは彼女自身の考えというだけで、他のセントラルの役人はごく少数を除いて、宝宮は自分達に手に負える代物ではない、今は対処できないから放置との考えらしい。

 マガトという厄災を経験しても、彼らにとって十三宝宮は信仰と畏敬の対象でしかないとのことだ。まあ、実際人間が神を守護するって意味わからないもんね。


『――間もなくディオス町、ゲミニ州ディオス町に到着いたします。お降りの方は――――』

「……ついたよ。起きて、アウトサイダー」

「ん? ああ……もうついたの?」


 そして現在、僕はルケと共にゲミニ州へ向かう電車に乗っていた。

 車内アナウンスの少し後、ルケから声をかけられた僕は目を開ける。

 ここ最近、本当に一日一日がとても忙しく、濃密で大切だったので寝る機会がなかった。

 この都市について少し色々調べたり、こっそり株でお小遣い稼ぎしたりもした。

 さすがに体力も限界だったのか、心地よい電車の揺れを肴にして眠ってしまっていたらしい。


「じゃあいこうか。トランク一つ取って。あっ、それと持つときは絶対に手袋をつけてね」

「うん……でも、これって一体何が入ってるの? すごく重たいけど……」

「今は秘密。まあ、確実に使うことになると思うからサプライズってことでお願いするよ」

「……じゃあ楽しみにしてる」


 僕はリュックサックを背負い、ルケからトランクを一つ受け取る。

そしてそのまま引っ張りながら電車を降りた。


「……おい、見ろよ。あのふたり…………」

「ん? おわっ⁉ あいつらセントラルの役人じゃねぇか……?」

「……でもなんかエンブレム違くね? てか、真っ白な制服なんて縁起わりぃな……」

「それはそうだが、男の隣にいるあの人ってもしかして……………!」


 隠すことなく物珍しそうな視線で僕らを見る市民達。どうやら警戒されているらしい。


「……やっぱり、白のスーツは目立つのかな?」

「そりゃ、目立つよ。ルケみたいな超絶美少女が着てるんだから。とってもかわいいよ」

「そ、そうかな? ………えへへ」


 ルケが少し照れくさそうに自分の制服を見渡して嬉しがる。表裏なくてほんとかわいいな。

 僕の強い要望でデザインはそのままに黒から白に作り直した特注品だ。

僕が責任をもって作らせて頂きました。もちろんクラミのドレス制服も白に作り変えたよ。


「あ、あのっ……‼」


 小学生くらいの男の子が声をかけてきた。緊張しているのか、もじもじ膝をゆすっている。

 そして、意を決したような真剣なまなざしで、


「――セントラルの英雄。ルケさんですよね! これにサインくださいっ‼」


 色紙とペンをルケへ向けて差し出した。


「おっけーいいよー」


 そう言ってルケはぐっと親指を突き出すと、ペンを受け取り色紙に手慣れた手つきでサインを書いた。それを見た、周りの市民達が「自分にもください」と集まり始め、あっという間にほぼ無人だった駅がイベント会場みたいに早変わりした。


「………どこに行っても、超絶大人気だな~ルケって」


 端から見れば少し気持ち悪いと思うくらいルケはどこに行っても大人気だった。

 その浮世離れした美貌のせいか、どこに行ってもすぐにバレる。

 この前なんて仕事で街を出て、三秒で捕まり、四時間もぶっ通しで並ばれ、サイン会の誘導員がその日、僕の仕事になったくらいだった。


「マガト退治に一躍買っただけでこの有様………英雄か……………」


 ――『英雄』天見川ルケ。十歳という異例の若さで最も入るのが難しいとされるセントラル中央府に入省。以降の細かな経歴は秘匿されているが、七年間に渡り、アナーキアで起こった数多の大事件を解決に導き、アナーキア市民にとって神同然の信仰と崇拝を受けている。

 そして、アナーキア最高最悪の大犯罪者『マガト』討伐……一番の功労者でもある。


(そんな大英雄さまが、新設されたばかりの赤ちゃん組織の一隊員で、僕の相棒ねぇ……)


 そういうことはまず初めに言ってほしかったな。セントラルが誇る最高戦力ってなんだよ。

 二人共、隠し事がほんと多いな。僕みたいにさ。


「――失礼、皆様。少々よろしいですか? ウチはそこのお二人の待ち人なんです」


 人の海を掻き分けた先、凛とした佇まいでこちらを見る少女の姿があった。

ピンクヘアーに動きやすいカジュアルな服装を着込んだ美少女だ。

 意志が強く宿る黄色の瞳を持ち、特に着飾っているわけでもないのにそこから漂ってくるのはまさしく王女の風格。万人から愛され、しかしてそれに甘えるだけではなく、己の内に秘めし野望の成就のためなら、時に犠牲も厭わんとするような人間。それが第一印象。

小難しく事実に基づいた表現を使ったので、簡単に言うと、西洋風のお姫様がそこらへんを歩いている男子高校生(休日の姿)のコスプレをしてきたみたいな感じ。


「ああ、大変失礼致しました。ハロッピー! あなたがクラミの友人の?」

「――箕川(みのりかわ)アスリと申します。何かの冗談かと思っていましたが、クラミちゃん。本当に英雄さんを護衛によこすなんてすごいですねぇ……………はろっぴぃ?」

「どうも、天見川ルケです。よろしくね、アスリ」


 アスリと名乗る少女を見て、すぐさまルケが彼女の元まではせ参じ、片手を差し出す。

 アスリもまたそれに倣い、片腕を差し出して握手を交わした。

 護衛とはどういうことか。一体全体なにが起こっているのか。

 話は少し前にさかのぼる――。


――さあ、お楽しみの時間を楽しもうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ