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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
オープニング『Omnipotence Paradox』
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第6話 『アウトサイダー』

「ではまず、この都市の説明からしよう。――ここは特別総合都市『アナーキア』。すべての世界の者達が最後に訪れる場所。楽園であり墓場であり、外からは煉獄と呼ばれることもある」

「……………ふむ」


「とある世界で存在が必要なくなったもの、生まれたにも関わらずその存在を否定されたもの、根源を目指す旅の果てにたどり着いたもの――その他諸々色々な者達が集まってできた都市だ」

「ふむふむ」


「アナーキア――『都市』は【ゾディアックライン】と呼ばれる国境線を中心に裕さんの州とここセントラルの一区を合わせた計十三の地域で構成されている。例えばキミが発見されたゲミニ州といって、十二州の中で八番目に大きい州でね。漁業が盛んだったことで有名だね」

「へえー」


「この都市の市民は数多の世界からやってきた者達だが、全員に共通点がある。それは、元居た世界に未練や必要性がないこと。言うなれば、元の世界を捨てて新天地を求めた者だ」

「なるほど」


「だから、アナーキアに来たものはどんなものでも歓迎され、アナーキアの『市民』として平等に生きる権利が与えられる。だからここに来てもらったのはその手続きだ。私は外務大臣として、キミに生活に必要な最低限のものを斡旋する義務があるわけだ」

「へえ……………」


「では、本来ならここでキミがどの州の市になるか決めてもらうとこなんだけども、その前に【十三宝宮】について話そう。キミの今後にかかわることだからね」

「じゅうさんほうきゅう?」


「この都市の創造を担った宝のことでね。先程も述べたが、アナーキアには十二の州と政府直轄地であるここセントラルがある。十三宝宮は、そのそれぞれの州とセントラルに一つずつ存在する()()であり、市民が尊ぶ()()。わかりやすく言えば、国宝というやつだ」

「はあはあ………」


「宝宮はこの外の世界で言うところの()()()()()()()とも認識しておいてほしい。ここでは神も人と等しく市民だからね。よく外の人はこの認識の差異で困惑するみたいだから。でまあ、ここまで言えば大丈夫かな。話を次にうつしてもいいかな?」

「おっけー」


「キミが来る少し前の出来事だ。このアナーキアを恐怖のどん底に陥れ、滅亡を画策した超極悪の犯罪者が現れたんだ。――『マガト』っていうんだけどね?」

「……………………………………………………………………………………」


「マガトはアナーキア史上、最高最悪の犯罪者だった。ヤツはすべての十三宝宮を破壊し、この都市を崩壊させることを目論んだ。『蛇遣い座』という組織を扇動し、いくつもの宝宮を破壊。このアナーキアを混乱の渦に染め上げた。――キミがいたゲミニ州もそのひとつさ」

「…………()()


「だが、安心してほしい。すでにマガトはこのセントラルを中心に討伐されている。彼の野望は道半ば、潰えてしまったわけだな」

「―――それはよかった。安心できるね」


「……ああ、だけどそれでおわりじゃない。マガトが残したものはこの都市を今なお、蝕んでいる。治安は歴史上最悪な状態だし、ヤツのカリスマ性に魅了され、後に続けとこの都市を亀裂を生まんとする者が後を絶たなくなってしまった。色々な問題があるからね。外と同じさ」

「うんうん」


「このマガトの一件で、宝宮の守護を怠りすぎていたことを我々は痛感させられた。そこでこの度、新しく宝宮に関する業務を行う直属の機関を設立することとなった」

「うんうん」


「中央特別執行室――『テトラビブロス』。というわけでキミには私の同僚となり、宝宮関連の業務に一役買ってもらうこととなった。これから長い付き合いになる。どうもよろしくね」

「うんうん。……ん? ん、ん、ん⁉」


 いや、まてまてまてまて。さすがに今の発言を相槌だけで済ますことはできない。


「はい? えっ……どういうこと⁉」

「今日からお役所勤めってこと。安心してよ、業務っていっても頻繁に宝宮(ほうきゅう)が危機に晒されるわけでもないし、普段は他の部署から回されてくる仕事とかするだけだから」

「いや、ちょっと待って。よく考えてよ! 僕は今日ここに来たばかりなんだよ⁉ 何の実績もない人間にそんな仕事させていいの⁉」


 何が目的なのかさっぱりわからない。どうしてそうなったのか理解できない。

 マガトだの十三宝宮の話をした後にこんな提案をするなんて正気じゃない。


「まあ、聞けよ。これは別に考えなしの決定じゃない。ちゃんと理由がある。これを見てくれ」


 クラミが机の引き出しから何かを取り出す。それは日記帳だった。

可愛らしいシールがいっぱい貼りつけられ、大切に扱われているのが伝わる。


「……くらみにっき4さつめ?」

「……? し、ししし失礼した⁉ こ、これじゃなくてだな⁉」


 僕が表紙の文字を読むと、クラミはゆでだこみたいな顔して、すぐに日記を引き出しへ戻した。そりゃあこれ見よがしに自信満々で出して間違っていたらそうなるよな。

 次に引き出しから取り出されたのは、明らかに異質な雰囲気を纏った一冊の本だった。

 クラミの手のうえで、浮遊しながら円環を描くように回っている。


「こっちだ、こっち! 今のは忘れてくれ!」


 うわっ、めちゃくちゃ恥ずかしがってる。かわいいなこの子。

 さっきまでの堅苦しそうなイメージが吹き飛んで凄く接しやすい感じ。気に入った。


「……こほん。さて、では紹介するとしよう。これが先程述べた十三宝宮のひとつ。中央の至宝である――【アナーキアマガジン】だ」


「アナーキアマガジンね……」


 確かに今まで見たどんな本とも違う魔法の書物って感じだ。装飾は特に着飾らずに地味で古書店の隅にありそうな感じだけど、もう一目見ただけで釘付けになっちゃう魅力がある。


「これは……まあ、預言書のようなものでね。他にも役割はあるが、今もなおアナーキアの未来のために文字を刻み続けているんだ。この宝宮サマはなぜかは分からないが、ここにキミの名前が書き記したんだよ。キミがこのアナーキアの発展に貢献してくれる人材――『都市の所有物』であるとね。キミは選ばれたんだよ」

「ほへー……それ本当なの? ちょっと見せてほしいな?」


 急に簡素な説明で信じられないな。僕はすかさず本を渡してくるか確認をすることにした。


「……すまないね。申し訳ないがこれは国宝なんだ。そこはさすがになんの実績も持たない人間においそれと渡すわけにはいかないんだ」

「そうなの? じゃあ僕が信じるしかないわけだね」


 この子――■■■■■■■。まあ………とりあえず合わせておくか。


「じゃあ僕の名前のことを知っていたのは、そのプライバシーに対して、かけらも配慮しない宝宮さまのおかげってことかな?」

「まあ、そうだね。だからキミにはここでのコードネーム的なものを与えるとしよう。今日からキミの新しい名前は――――アウトサイダー」


「……アウトサイダー?」

「組織の枠にとらわれない人物という意味だ。テトラビブロスはボクとキミを含めて、三人しかいない発足したての組織。かつ、その権限は他の部署に比べてかなり優遇されることになる。キミの名は将来、我々を象徴する名前になるだろう。その意を込めたのさ。責任重大だぜ?」


「……三人だって? まだもう一人いるの?」

「ああ、ちょうどいま、キミの隣にいるよ」

「……となり? ――――うわッ!」


 クラミに言われ、隣を見ると、今にもぶつかりそうなくらいの至近距離に僕より少し背の低い人物が立っていた。驚きのあまり、僕はその場から飛び跳ねるような形で倒れこむ。


 ――そうして僕は少女を見上げるような形で対面を果たした。


「紹介しよう。彼女は天見川(あまみかわ)ルケ。ここセントラルが誇る最強戦力であり、ボクとアウトサイダーの三人目の同僚だ」


 その少女は先程、唯一無二と評したクラミですら凌駕する美貌の持ち主だった。

 肩よりも長い白髪に琥珀色の瞳。身に纏われた神秘的な雰囲気とクラミと同じ黒を基調としたテトラビブロスのものだろう制服は彼女の美を際立たせるアクセサリー。


「……アウトサイダー」


 僕がこのアナーキアで出会ったどんな美少女もこの少女は霞ませた。

 蝶よ花よと愛でられただけの姫君とは比べ物にならない。彼女こそが“美”そのものだと。


「わたしは天見川ルケ。これから貴方の相棒で、貴方だけの唯一無二の半身。わたしにとって貴方の存在がなくてはならないように、貴方にとってもわたしは変えのきかないかけがえのない存在になる。――ハロッピー、アウトサイダー」

「………っ、ああ。よろしく頼むよ。ハロッピー、ルケ」


 歯噛みし、萎縮しながらも、なんとか言葉を形にして、僕は彼女に吐き出す。


「アウトサイダー、貴方にはお願いがある。これからずっと守ってほしい……大切なお願いが」

「………なに、かな?」


「――たとえどんなことがあっても、絶対に貴方の意思で命を殺める選択を取らないで」


 …………………………………………………………………………………………………。


「わたし達は一心同体。一蓮托生……どんな困難も一緒に乗り越えていこう」


 少女が僕に手を差し出してくる。初対面のくせに何を言ってるんだと思った。

 だが、今のボクは完全に不意打ちで彼女の発する雰囲気に飲まれていた。彼女の美と共に共生されている“本物”の英雄が放つ風格――カリスマ性というやつに。


「………わかった。それがここでのルールなんだね。――理解したよ」


 僕はルケの手を握り返し、引っ張ってくれた少女の勢いを利用して立ち上がる。


「よかった。じゃあ、これから一緒に頑張っていこうね。アウトサイダー」


 少女がそれはとても嬉しそうに笑顔を作った。


「……よし、これで揃ったね。これより手虎クラミ、天見川ルケ、アウトサイダー。以上三名の名の元に中央特別執行室――テトラビブロスの発足を宣言する。みんな、よろしく頼むよ」

「わたしはりんごが好き。アウトサイダーとクラミは覚えていて」

「――うん、ふたりともよろしくね」


 ――これが、僕達の始まり。このアナーキアでのプロローグ。


 これからアナーキアを舞台に、数多くの事件に巻き込まれていくことになるかもしれない。


 胸が躍り狂い、刺激的な未知に溢れる世界の扉を僕は叩くことができたのやもしれない。


 今、僕の心はこの見知らぬ新天地に“色”を見出し、想いを馳せ始めた。


 ここでなら、もしかすると――僕の『探し物』が見つかるのかもしれない、と。


 己の生まれてきた意味と意義。その存在を証明できるのではないか、と。


「そしてもうひとつ、外務大臣兼特別執行大臣として、今この瞬間を持ってキミを『都市の所有物』である以前に、アナーキアの『市民』として承認するものとする。


 ――ようこそアナーキアへ。アウトサイダー」


「うん。ようこそ、わたし達の――夢と幻想が詰まった楽園へ!」


「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」


 クラミが複雑な心境を押し殺しながら、片手を握った。

 ルケが純真無垢な笑顔で僕のもう片方の右手を握った。


 ふたりの姿は僕にとってあまりにまぶしく――“古い記憶”を呼び起こす原石だった。


「あっ……その前にひとつ、二人にお願いがあるんだけど」


「「なに?」」


 ふたりが何事かと聞き返してくる。実は最後にひとつ、言っておきたいことがあるんだ。


「テトラビブロスの制服さ、黒じゃなくて白にしない? 僕、白がいいんだよねー」


 僕は全身全霊、自分で引いちゃうくらいの渾身の笑みを浮かべた。

 その渾身の笑みを見て、ルケはとても嬉しそうに、アスリはフッと小さく笑顔を返した。

 そして――、



「「ええ……また、作り直すの………? 刺繍とか大変だったのに………」」


 露骨に嫌そうな顔をして、星で彩られたプラネタリウムの世界を不満の声で染め上げた。


――その出会いは遠い過去とひどく似通っていた。

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