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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
Vol.1『ゲミニに灯るセントエルモ』
32/36

第24話 『支配者思考』

「うるせえ! 今いいトコなんだ! どけよッ―――って、お前は!?」


 美味しい瞬間に待ったをかけられたチマキの前に降り立った人影。

 地に倒れ伏したストラを守ったのは、凄まじい鬼気を放つ僕の相棒であるルケだった。

 常に変化しまくる怒涛の面白い展開に意識を向けすぎて、拘束の手を緩めてしまっていたのだ。不覚でございます。


「……初めまして、だな、セントラルの『英雄』! 居るのは知ってたが、なんでもっと早く出て来ないんだよ! 英雄は遅れてやってくるってか!? なんのようだ!!」

「これ以上は看過できない。先に進みたいなら、わたしをぼこぼこにしてから進んで」


 盾を表現するかのように両手を広げ、凄まじい存在感で行く手を阻むルケ。

 ぼこぼこなんて可愛らしい表現使ってる癖に、滅茶苦茶頼もしいね。そして物凄く怖い。


「アンタをぼこぼこにだと? ハハハ……そんなことができたら、私はとっくにこのアナーキアを手中に収めてるわ! 馬鹿言ってんじゃ―――ねえッ!!!」


 乾いた笑いをしたかと思えば、心に一瞬で闘争心を発火させたチマキがフルスイングでルケに対して、拳を振るった。

 一発喰らわせただけで、ストラから瞬く間に血を噴出させた拳は――、


「ぐ、ぐおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!?!?!?」



 逆にその骨が複雑に折れ曲がり、チマキに初めての悲鳴を奏でさせた。


「え――――っ!?」

「な、なにが起きた……?」

「なんで攻撃したアイツが痛がってんだ……?」


 流石の衝撃にルケの鬼気に怯えていた市民達から困惑の声が零れる。無理もない。

 どれだけ殴られてもびくともしなかった暴走機関車が、苦痛という燃料で汽笛を鳴らした。

 誰もが止められないと心からの屈服を味わい、それが常識へと認知されかけた瞬間。

 “規格外の例外”を見せられては、心が波立つのも無理はない。


「ひっ………ま、まままママが悲鳴をあげた、で、す……」

「……ま、まさかここまでとはな」


 親分から悲鳴が上がるなんて夢にも思わなかったのか、子分達も焦りを見せた。

 ファルに至っては完全に怯え切って、ルケの化け物を見るような目で凝視していた。


「な、なかな、か……やる、な…! し、しくったわ……アンタを見た瞬間に本気だしてりゃよかった……ついつい、ストラに合わせち、ま………がはっ!」


 拳を押さえ、苦悶に満ちた顔で瘦せ我慢を言うチマキ。たった一度の致命傷が、今まで忘れていたダメージの蓄積を思い起こさせているように、彼女の肉体から尋常ではない量の発汗を促していた。


「……はぁ! あーあ、よし!! 今のは三途の川が見えたわ! さすがだな、英雄!!」


 だが、そんな不甲斐ない姿をいつまでも公衆の面前で続けるわけにはいかない。

 そんなことを考えただろうチマキは大声を持って己に激励を与え、根性で顔色と態度を元に戻した。そのまま何事もなかったかのようにチマキはくずれた姿勢を整え、ルケと対峙する。


「――まだやる?」

「……今の一発で分が悪いことは理解した! 仕方ない! なにが目的だ! 言え!」


 淡々としたルケの問いにチマキは少しの間で考えを廻らせた後、それを飲み込んだ。


「……? 目の前で殺されそうになってる友達を助けようとしただけだよ」

「友達……ははッ! ユウ嬢からアンタの存在は伝えられていたが、昨日出会ったばっかのヤツらがもう友達やってんのか? 面白えこと言いやがる!」

「……だめなの? ……ネレ、私達って、もう友達、だよね?」

「えっ……お、おう! ルケさん! じゃなくてルケちゃん! オレ達はもうマブダチだ!」

「ほらね」


 ネレの一瞬詰まった返事にルケは少し自慢げに鼻を鳴らした。凄いな。今の距離の詰め方。

 意図してないんだろうけど、今も全方向に垂れ流してる鬼気で脅してるようにしか見えない。

 昨日の話を鵜呑みにすれば、他者と深く接することが許されてなかっただろうから仕方ないことなんだろうけど。完璧に見える人が小さく垣間見せた欠点って感じで、魅力的じゃん。


「すごいな! アンタ、たしか都市生まれ都市育ちの“都会っ子”だよな? どんなお花畑で育ったんだ? それとも強者ゆえの傲慢か?」

「最近までずっと顔も知らない他人の命令を盲目的にこなしてた。今の貴方と大して変わらないよ。使いっ走りの替えが利く――ちんけな捨て駒」

「――――なんだと?」


 と、そんなことを想っていたら、我らがルケさんが突然物凄いこと言いだした。

 状況の不利を考えて下手に出たチマキをあからさまにぷっちんさせたじゃん。


「違うの? 貴方のわざとらしい立ち回りがわたしの元同僚にそっくりだったから、てっきり似たような立場なんだと思った。武力か知力か特別なそれ以外か。使用用途が違うだけで、道具はただ強みさえあればいいからね。貴方の強みは()()。つまるところ――『忍び』だね?」

「―――!!」


 ルケの相手を見透かしたような発言を聞いて、チマキが一瞬顔色を変えた。

 ここまで貫いてきた余裕の笑みをくずし、一気に警戒心をむき出しにしながら。


「まあ、笑顔で遂行する余裕がある分、わたしよりは待遇がいいんだろうけど、もし今の使われる立場に甘んじるつもりならやめた方がいい。――後悔が濁流のように押し寄せてくるから」


 凄い含みのある玄人みたいな言葉と鬼気に気圧されたのか、チマキが後ろへ一歩後ずさった。

 なんか急に闇深い一面を押し出してきて、怖いよルケさん。


「――ハハッ!! はっはっは!!」


 が、チマキはすぐに元々の大胆不敵な態度を取り、弱い自分を隠すための笑顔を貼った。

 経験あるから分かるけど、マフィアとか極道が仕切る裏社会って一瞬でも相手に下に見られたらおしまいだから、絶対勝てない格上と対峙してもポーカフェイスを崩してはいけないのだ。


「『マガト』や『蛇遣(へびつか)()』………『冥犬(めいけん)(よだれ)』を始めとした凶悪な組織を駆除し、功業を為した完全無欠の “英雄”様がなにを言い出すかと思えば――ジョークまで一級品とはな! 恐れ入ったよ!」


 そう言って、冗談を蹴っ飛ばすように余裕綽々とした笑顔を浮かべるチマキ。

 その姿を見た一様は、あの恐ろしい存在感をものともしない姿に敵ながら天晴れといった顔を浮かべていた。大したもんだ。嘘だけで人を殺せそうなルケの鬼気に耐えるなんて。

 言葉だけで表現すると不明瞭に感じるだろうが、今のルケは野生のラスボスそのものだ。


「……ああ、そうだ。たった今思いついた。貴方達、今から回れ右して帰ってくれればいい」


 対して、ルケは冗談扱いされて一瞬へこんだ顔をして、だいぶ横暴な提案を口に出した。


「ハハハ……ぽっと出が馬鹿を言うんじゃない。そんなことができると思うのか?」

「でも、そうしないと………こまるのは貴方の方だよ?」

「……なら、ここでアンタに殺されることにしよう。逃げるくらいならその方が私らしい」

「……私らしい? 死ぬことが似合うひとなんているわけない――どういうこと?」


 チマキの一言がルケの琴線に触れたのか、さらに鬼気が強まった。

 それはもはや殺気であり、それ以上に恐ろしい怒気さえ混ぜ込められた()()()


「……っ!?!?!?! 別に言葉通りの意味だ! 私はどんな小さなことでも逃げない! ただひたすら前へ突っ込み続ける! 私自身の馬鹿さ、無謀さ、弱さ、欠点全てを抱き込んで!」


 その“ナニカ“を真正面からくらったが最後、もう耐えられなかったのだろう。

 チマキは凄まじい速度で顔を歪め、汗をだらだらと流し、早口で捲し立て始めた。


「そうやってここまで登り詰めた! 逃げたら負けなんだ! 私は弱いから! 少しでも後ろに下がったら――夢が終わってしまうから!」


 それは死の恐怖に直面し、走馬灯を言語化したような叫びだった。

 死の間際に立たされ、ようやく垣間見ることのできる人間の―――鉢巻チマキの人生観。


「それは――――」

「無意味なことだって言いたいのか!? そうやって自分の強さをひけらかして、弱者を黙らせることが“オマエ”の仕事なのか!? セントラルはほんっとご立派にもほどがあるなあ!?」


 もうルケが飛び出す以前の、余裕そうな態度をした彼女の姿は消し飛んでいた。

 恥も外聞もなく、必至な形相で死に抗おうとする生き物臭い人間がそこにいた。


「……違う。わたしは、本当に―――」

「黙れ!! 知りもしない相手に向かって“ちんけな捨て駒”なんて言葉を吐き捨てる……“支配者思考”な心の金持ちの言葉なんぞに、この私が左右されてやるものかっ!!」

「………っ!? ち、ちが――――!!」


 信じられないことが起こった。圧倒的な態度で蹂躙を行っていたルケの足が一歩下がった。

 思考の余裕もなく咄嗟に出た言葉だったのだろう。恐怖に身を焦がされそうな己の心を奮い立たせるために用いたチマキの言葉が……いま、確かにルケの心に動揺を生み出していた。


「なんだ! その態度は!? まさか奥の手すら出していない私ごときに怖気づいたわけじゃないよな!? マガトを殺した英雄! オマエ程のバケモノがッ! 早く殺しにこいよッ!!」

「わ、私は……支配者なんかじゃ………」


 自分を守るための無意識な防衛機制。

 ルケは支配者という言葉に並々ならぬ反応を示し、顔を青ざめた。

 なるほどね。肉体的には怪物でも―――精神的には分相応の子供なのか。


「それがオマエらの作った社会ルールだろ、セントラルっ!? そもそもパシーが殺られちまった以上! 私にはオマエらを皆殺しにする以外の選択肢は用意できねぇんだよ!」

「もう……誰も殺したく――」


 あーこれ以上は無理そうだな。このままいくと、ルケがチマキを殺してしまいそうだ。

 ミステリーにありがちなついカッとなって殺しちゃいました展開はさすがに避けたい。

 これそういう物語じゃないだろうし。何よりここで静観したら――ルケと最初にした約束を反故にした感じがして後味悪いし。……ん? でも自分の意思ではないか? まあ、いいや。


「――いや~ちょっとちょっと! 物騒なこと言いださないでくださいよ! 縁起でもない!」

「あ――――?」


 僕はその場でわざとらしく大きな声をあげる。全員が声の主である僕に視線を向けた。


「とりあえずみんな落ち着いて! ほらルケ、その怖ぁい殺気を抑えて抑えて!」

「っ……!? な、なんだオマエ………!?」


 僕を見たチマキがルケに対する警戒を遥かに超えた警戒を見せた。いやビビりすぎでしょ。

 殺気なんて出してないし、あくまで普通の人として出てきただけなんですけど。


「……アウトサイダー、どうして―――」

「――はい、相棒からご紹介に預かりましたテトラビブロス所属のアウトサイダーです! いや~流石にこれ以上は見過ごせないからさ? ここから先は僕の領分でしょ? ――任せてよ」

「―――っ、う、うん………」


 ルケがなにか言いたげな様子だったが、黙らせた。大方、ここまで静観を貫き、強要した僕に対して不満を言いたかったんだろう。でも、その尺、今はもったいないんだよね。悪いけど。



「――さあ、交渉といきましょうか! お仕事開始ですよ! はははっ!」


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