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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
オープニング『Omnipotence Paradox』
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第3話 『ギュウギュウ会』

「――やあやあみなさぁん! 本日もおひがらでございまーす!」


 わざとらしい悪辣な声が遠くから響いた。真っ赤なスーツを着た女の子二人と男の三人が歩いてきた。

 見るからに口の悪そうな背の高い女の子と幼女と言い切れるくらい背の低い女の子は二人とも頭に牛耳のカチューシャをつけている。

 残りの男は二足歩行の牛そのものだった。牛人間といってもいい。


「はいはい、お仕事おつかれさまで~す」

「ポントス港のみなさん。早速で悪いですけど、おシノギ! 頂戴しに参りました~」


 口の悪い女がにやにやと笑いながら、手に持った拳銃を見せびらかすように振る。


「また、オマエらか! 何度も言っとるが、オマエらのようなもんに出す物も義理もワシらにはどこにもないんじゃ! ここはオマエらのシマでもなんでも――!」


 さっきのスライムさんが三人の前に出た。


「おいおい、スライムの大将~。――――そりゃあねぇぜ?」


 瞬間、彼に向かって弾丸が発砲された。発砲したのは、さっきから銃をぶらつかせていた口の悪い女。もう一人の幼女は銃を腰のホルスターに締まっている。


「―――――――――――――――――――――――――――ッ!」


 その瞬間、命の恩人である少女が僕の近くからいなくなった。

否、両者の間に立ち、弾かれた弾丸の腰の刀で切り伏せたのだ。


「あなた達――――いま何をしたのかわかっているの?」


 ストラという少女から冷え切った声が響く。怒りを露わにする寸前といったところだ。


「――じゃまだ、どけ」


 それは刹那の出来事だった。ここまで一言も発さなかった牛人間さんが突如として

動き出し、ストラに音速と呼ぶに値するパンチを繰り出したのだ。

 牛人間さんとストラでは体格差が違いすぎる。ストラもそれは理解しているのか、先ほど見せた瞬間移動と評すべき、動きでスライムさんの近くまで戻ってきた。


「うわあ…………」


 僕は空を切った男のパンチを受け止めた地面を見て、思わずそうつぶやいた。

 コンクリートだろう地面にひびが割れ、まるで地割れしたみたいだった。

 二人とも凄いな。スポーツ選手だったらもうメロメロでファンに絶対なっていたよ。


「おいおいおいおい、舐められたもんだなあストラさんよお! ――おいどけ、ミノッペ」

「忘れたとは言わせないです。その理屈はもう通らないですよ! ――どいて、ミノッペ」


 牛男の後ろでそう叫ぶ女二人。男はなにやら気まずそうに二人の隣に並んだ。

 あと、ミノッペって…………めちゃくちゃ名前かわいいな。ギャップ萌えです。


「――あーちょっといいですかね?」


 とりあえず色々起こりすぎて頭がパンクしそうだが、なんとかした方がよさそうだ。

 僕は意を決して、ガラの悪い三人の前に立った。


「ちょっとあなた、危ないよ……⁉」

「おいバカ、にいちゃん! 前に出んじゃねぇ!」


 ストラさんとスライムさんが僕を呼び止めようとするが気にしない。

 だって誰にも僕を止める権利なんてないはずだから。


「あん、なんだよ。オマエ、なにもんだ?」

「前に立つとは、私達が天下のギュウギュウ会、ハチマキ組と知っての狼藉か?」

「…………死にたくないのなら下がれ。邪魔だ」


 案の定、警戒されて威嚇されちゃった。ご自慢の腕力だの拳銃だの臨戦態勢、大忙しだ。


「自分は旅行中に船が沈没してしまい、さっきまで海を漂流していた者です。ハロッピー!」


「…………え?」「…………はい?」「…………ハロッピー?」『………………………え?』


 その場にいる全員の目が点になった。例えるならそれは魚の群れみたいに。


「それで運よくこの漁港の方々に命を救われましてね。先ほど、息を吹き返したところです」

「だ、大丈夫かよオマエ⁉」「よく生きてたですね⁉」「なるほど………異邦人か」


 三者三様のお返事を頂き、一気に空気が緩んだ。僕はそのままゆっくりと三人――いな、女性二人に向かって近づいていく。


「それでまあ、お仕事中に申し訳ないんだけど、ここはどこなのかな? 僕が求める『探し物』が見つかればいいんだけど、よければ教えていただけませんか? 素敵なお嬢さんたち?」


「「――――きゅぅぅぅう」」


 僕は二人の女性に百点満点の笑顔を向ける。すると、お嬢さん方は顔を真っ赤に染め、お風呂上りのおのぼせさんみたいな顔になった。


「あっ………こ、ここはアナーキアのゲミニ州のポントス港だ!」

「アナーキア? ゲミニ州? ポントス港?」

「し、知らないんですか⁉ りょ、旅行客のくせに⁉」

「えーと……初耳だね。それと、なんかキャラぶれてるよ? でも、そっちの方がかわいいな」

「きゅうぅぅぅ…………」


 幼女の方が、恥ずかしそうな表情で更に顔を赤く染めた。

 どちらも聞いたことのない場所だ。僕が知る世界地図にそんな国や州があった記憶はない。


「…………当たり前だ。コイツは『異邦人』。……外の世界の人間だろう」

「ああっ!」「なるほど!」


 腕を組んだミノッペの言葉に納得する女二人。外の世界の人間ってどういうことだろう。

 そうして考え始めた刹那、僕の思考に理解したくない最悪の答えが浮かび上がった。


「もしかして、ここが地獄…………?」


『いや、違う違う、違うから!』


 僕が惚けると、その場にいる全員からツッコミが入る。よし、こんな感じでいいかな。


「まあ、そういうわけで、この人たちは僕の恩人だから、今回はこっちの味方させてもらうね」


『えっ?』


 僕は二歩下がってから、先ほどの彼女らと同じように見せびらかすように拳銃をぷらぷらさせた。それは、拳銃をホルスターにしまっていた幼女の銃。今さりげなく拝借したものだ。


「コイツ…………!」


 口の悪い女がすかさず銃口をこちらに向けてくるが、僕はそれ目掛けて先に引き金を引いた。弾丸は拳銃に綺麗に命中。女の手から弾き飛ばされる。


「――ふんっ!」


 続いてかたき討ちだと言わんばかりに、牛男のミノッペが僕に拳を振るわんと襲いかかる。


「――――――危ないっ!」


 振り上げられた拳が僕に命中する直前、ストラが間に入り、刀で拳を受け止めた。


「ありがとう!」


 僕はお礼と共に前に出て、ミノッペのあごに目掛けて思い切り、腕を下から振り払った。


「――――モオ~~~~!?!?」


 牛の鳴き声と共に悶えながら、ミノッペが後ろへ下がる。まさに追い打ちチャンスだ。


 僕はすぐさま片足を振り上げ、ミノッペの股間を蹴り上げた。


「――モモ、モオオオオ~~!?!?」


 その強烈な刺激に耐え切れぬと、巨漢の体躯が地面に倒れ伏す。ミノッペが気絶した。


「う、あうあうあうあうあ…………」


 己の姿を隠す巨漢の沈黙に、幼女はあたふたとその場でうなだれる。


「こここ、ここは退却です~!?!? うわーん! 助けて、ママ~~!!」


 幼女は大粒の涙で顔をぐちゃぐちゃにして、気絶した口の悪い女とミノッペを持ち上げて、来た道引き返していった。

あの子めちゃくちゃ力持ちじゃん。見た目は当てにならないを地で行く感じだ。すごいな。


「えーと……とりあえずなんとかなったみたいでよかった、よかった。」


「――――す、すごいねあなた!」


「うおっ、距離ちかっ⁉ くちびる触れそうだって⁉」


 逃げていく牛三匹を見送り、後ろを振り返るとストラの顔が目と鼻の先にあった。


「あなた、もの凄く強いね! びっくりした! なにか武道でもやってるの?」

「えーと……昔、ボディーガードの仕事をしたことがあってね。その時の経験則だよ」

「かっこいい‼」


 クールで大人びた感じはどこへやら、興奮して目を輝かせる彼女はまさに幼さが目立つ年相応の少女といった様子だった。大学生から高校生くらいの年齢マイナス好印象変化。

 いつも図書室でひとり本を読んでる子が、実は特撮好きだと判明したレベルの衝撃が走った。

 かわええですやん、この子…………。


「にいちゃん! オマエすげぇな! すっかり見惚れちまったぜ!」


 今度はスライムさんが身体、プルプルさせながら賞賛の言葉を投げる。

 周りの人たちもそれに続いて野次が飛ばした。


「お兄さん。助けてくれてありがとう! それと―――私を弟子にしてほしい!」

「えっ⁉」


 目にお星さまを飼いながらストラが僕の手を握る。お礼の言葉と共に衝撃展開が訪れた。


「あーと……別にそんな大したものじゃないからさ。そんな目を輝かせないで…………」


 不味い不味い、旅行先で弟子なんて取るつもりはない。

 それに他の人が教えるならともかく、僕みたいな――――。


「――すみません、ちょっとお話をうかがってもよろしいですかね?」


「「うわあ⁉」」


 この場をどう切り抜けようか思考していると、背後から誰かに声をかけられた。

 突然の出来事に僕とストラさんはびくっと身体を震わせ、二人の密着状態が解ける。


「あ……すみません。脅かせちゃいましたかね?」

「――当たり前でしょ、透明人間のアンタが透明化も解除せずに出たんだから」


 声のする方を見ると、先程とは別の二人組の女の子がそこにいた。

 一人は、黒髪で片目を隠したスタイル抜群の幸薄そうな儚げ美少女。

 もう一人は、頭の上にお皿みたいな帽子を被り、手にきゅうりを持った緑髪の美少女。

 二人とも灰色を基調としたどこかの組織の制服を身に纏っており、一つの球体を守るように何本もの光輪が折り重なった徽章が刺繍されていた。


「と、とりあえずハロッピー! なにかごようで……………?」

「ハロッピー? ああ、我々はこういうものなんですが、異邦人の方、ご同行頂けますかね?」

「ま、断っても問答無用で連れていくけどね。じゃなきゃ、アンタが犯罪者になっちゃうし」

「ええ……と……」


 黒髪少女から眼前に差し出されたのは、彼女らの制服と同じ徽章が刻まれた灰色の手帳。

 そこには『中央警察特別対策局 特務1等スリーブ 塗壁(ぬりかべ)カクシ』と記されていた。

 緑髪少女の方も所属名は同じで『特務6級スリーブ 童塚(わらべづか)ラムネ』と書いてあった。


「け、けいさつ…………?」

「はい、そうです」


 黒髪少女――カクシが肯定の意を示すと、すぐさま僕の手に自分の手を重ねた。


★★ ★ ★


 次の瞬間――まるで瞬間移動したような感覚で景色が変化し、僕は車の座席に座っていた。


「え――――?」


 手には手錠がかけられ、隣には先程の緑髪少女の警官。

 運転席には黒髪少女の警官が座り、車を運転していた。

まるで犯罪者の護送のような状況。


「ん? ああ、法式が解けちゃいましたか。ご安心ください。ここは安全です」

「いま、ここの中央――セントラルに向かってるとこ。そこで色々説明があるから、そこにあるきゅうりでも食べてなさい。ていうかあげる。―――ほい」

「あ、ああ…………どうも」


 ラムネにきゅうりを渡され、僕はそれをかじる。みずみずしいきゅうりだ。とても美味い。


「………って、どうなってるのこれえええええええええええええええええええええええっ⁉」


 そこで僕はようやく現状を理解することになる。

 ここまで、色々なことが起こりすぎて、何も考えずに流れに身を任せていた。

 僕はただ旅行の旅に出ただけだったのに。




 警察のご厄介になっちゃいました……………。


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