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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
Vol.1『ゲミニに灯るセントエルモ』
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第21話 『土崩瓦解』

「――うおわあっひゃあ!? な、なんやなんや!? 天変地異か!? 都市崩壊か!?」

「おいっ、アスリっち落ち着けって! これはあれだ! 地下でナマズが暴れてんだよ!」

「そんなわけあるかい! さっきのは明らか爆発音やったわ! それはただのことわざやっちゅうねん! ネレこそ落ち着けや!」


 借りていた部屋からリビングに出ると、アスリとネレが突然の非日常にあたふたしていた。


「落ち着くのは二人共です! まずは、状況を確認するために外に出ましょう! じゃなきゃ、なにもわかりません!」


 動揺を露わにする二人の間に入り、ストラが必死な様相で二人をなだめていた。


「さっきからすごい爆発音だね。もう、かれこれ三分間は鳴り響いてるんじゃない?」

「一定の間隔でばんばん爆発してる。なにがあったの?」


 同じ扉を潜って出てきた僕とルケが動揺した三人へと声をかける。

 その原因は間違いなく、絶え間なく繰り返されている連鎖的な爆発音のせいだろう。

 朝っぱらから鳴り響く轟音は、まるで統制された合唱団のように規則正しかった。

 明らかに作為的で誰かが意図的に仕組まなければ決して成しえることのない強烈な破壊の嵐は部屋全体を振動させ、棚や食器といった物体を床に散乱させた。


「師匠! それがわからないんです。だから私達も確認しようと―――」

「――こ、これはマガト! マガトが復活したんや! マガトがアナーキアを滅茶苦茶にしようと地獄からよみがえって“破壊の雨”を降らせとるんや!」

「そ、そんなことあるわけないだろ! 第一、死者の復活は完全にアナーキアの『規律違反』だぜ!? すぐに『弾劾人』が―――――――ひゃああああああああ!!」


 かわいらしい悲鳴が衝撃と混ざり合って、鼓膜を揺さぶる。

 更なるパニックを助長させるかのように一際、強烈な爆発音がリビング内に轟いた。

 耳をずたずたにつんざくトドメの一撃は、それがコンサートを締めくくる指揮棒を振り下ろされた瞬間であるような錯覚を演出させる。

 フィナーレを迎えた演奏はピタリと喧騒を停止させ、揺れが馴染むように収まっていった。


「と、とま……った?」


 隠すことのできない困惑をにじませたストラが小さく口を動かした。

 常人であれば、まず体験することのできない異質な静寂が時間を肴に流れていく。


「な、なんやったんや今の……………」

「こ、こわかったあぁ………」


 怒涛の嵐が過ぎ去り、お情けといわんばかりの日常へと回帰される。

 ほんのささやかな日常にありがたみを感じるようにネレの目尻から涙が浮かび上がった。


「――おいっ、オマエら大丈夫か!?」


 玄関の方から扉を蹴破って、スラミタマ・ジュウザエモンさんが入ってきた。

 力強い印象が欠片もないゲル状のぷるぷるした肉体であるにも関わらず、扉のヒンジがものの見事に破壊され、音を立てて扉が前に倒れた。


「スラさん、私達は大丈夫! なにがあったの!? あと扉壊しちゃ駄目だよ!」

「わ、わりい! 勢いあまってつい……って、それよりもだ!」


 ぜえぜえ息を荒くしたスラさんが気を取り直して大声をあげ――、


「海の中のバリアコアが全部破壊された! このままじゃ、ポントスがおわっちまう!」


 外で起こっている残酷な惨状を告げた。


★ ★ ★ ★


 スラさんの家を出てすぐさまエクセア海に目を入れると、海底から幾つもの煙の柱が空に天高く伸びているのが目に入った。

 もくもくと等間隔に立つ煙の柱は、次第に空を支配するように広がりを見せている。


「――お前ら! とうとうやりやがったな!」

「ここまでされたら、もう立派な政治問題だ! ただじゃ済まないよ!」


 怒りをたぎらせた漁師達の声が波風に乗ってゲミニ州に響き渡っている。

 スラさん案内の下、大急ぎでポントス港の中心部へやってきた僕達一行はいつかの焼き直しのような光景を目にすることとなった。


「だから、ワタシ達は知らねぇつってんだろ!」

「ですです! あたしら今日はまだなんにもしてねーですよ!」

「……身に覚えのないことで濡れ衣を着せられても困るな」


 そこには今から約二週間前のこと。

 僕が初めてこのアナーキアへと来訪した際に出会った三人組の姿があった。


「あ、貴方達はギュウギュウ会の……!」

「まさかお前らがバリア装置を壊したのか!」


 ストラとネレの二人がが渦中の人物へと声をかけるべく、前に出た。

 真っ赤なスーツに牛耳カチューシャをつけた女の子二人と二足歩行の牛人間。

 ギュウギュウ会・ハチマキ組の三人だった。


「い、いやだから違うって! ワタシらママからなにも言われてねぇし!」

「じゃあ! こんなこと他に誰がやるってんだ!」

「え? そ、そんなの知るかよ! おい、ファル! なんか聞いてねぇか!?」

「いや、パシー姉が知らねーのにあたしが知るわけねーですよ! み、ミノッペは?」

「知らんな。どこかの組織に恨みでも買ったんじゃないか? 州なんて贅沢で恵まれた場所……もといアナーキアに住んでる時点で、そういうのはいつも隣り合わせだろうに」

「なんだと!?」

「しらばっくれやがって!!」


 淡泊で他人事のように返す牛人間のミノッペに漁師達が顔を赤くして激昂した。

 口の悪そうな背の高い、輝くような金髪ショートの女の子はパシー。

 幼女みたいに背の低い、麗しい茶髪ロングの女の子はファル。

 初めて顔を合わせた時は知ることができなかったが、今ようやく知ることができたな。


「これだから無街で活動してる連中は――ッ!! もうガマンできねえ!!」


 そんなことを考えていると、ゴツゴツした鱗に包まれた人型トカゲの男漁師が一人。

 ずかずか前に出てきて、この都市特有の罵声を放った。

 トカゲ男は今すぐに目の前にいる彼女らの胸倉を掴んで一発ぶん殴ってやるといった様子だ。

 それはまるで自分が獲物を捕食する狩人であると信じているかのように。

 だけど――それは大きな間違いであると、僕は核心を持って言える。


「―――あ?」


 トカゲ漁師は気づいていなかった。自分がとんでもないミスをしでかしたことに。

 己の軽はずみな発言が、目の前に立つ真の捕食者の逆鱗に触れてしまったことに。


「――まずい。止めないと――――むぐっ」


 僕の左隣から危機感を感じた呟きが耳に入った。声を発したのはルケだ。

 どうやらこの次に起こる出来事が予想できたらしい。

 ルケは狩人の中でもスーパーエリートみたいなもんだから、察知しやすいんだろうね。

 僕はすかさず彼女の手を掴んだ。体全体を抱き寄せ、口に手を添えて動きを封殺する。


「ル~ケさん、動いちゃだ~め。―――みんなが成長する機会を奪うつもり?」

「――――――――――――」


 僕は顎下にあるルケの顔を見ながらにんまりと微笑み、彼女にしか聞こえない程度のぼそりとした声で言いなだめた。それを聞いたルケの瞳孔が大きく見開かれる。


「おん? 二人共、乳繰り合っと――」


 僕の右隣にいたアスリが異変に気付いたのか、僕らに懐疑の眼差しを向けてくる。

 だが、それよりも先に―――、


「ぐ――――――――ぁ!?」


 重たい金属の花火が大きく鳴り響き、男の右足に風穴を開けた。


「――いまなんつった?」


 再度、花火が二度打ちあがった。

 少しの間さえも生じることなく弾かれた花火――もとい弾丸は、あえて心臓を外すようにして男を守るべく覆っていた胸の鱗を貫通した。赤い鮮血を存分にまき散らしながら。


「―――――――――――ぅ」


 トカゲ漁師からうめき声が漏れ落ち、必然的に体が後方の地面になだれ落ちる。


「きゃあああああああああああ!」


 それを視認した誰かの悲鳴が轟き、港がパニックに包まれる。


「ケンツ!? なんてことを!!」

「待ってろ! すぐ治してやるからな!」


 誰よりも素早く行動を起こしたのは、やはり時栖姉妹だった。

 ストラが男を隠すように前に立ち、その後ろでネレが虹色の紋様を身体に浮かび上がらせ、『青白い炎』を産み出して男の胸や足を治癒し始めた。


「いま……ワタシらのこと見下したよな?」


 その下手人は短い金髪をなびかせる女――パシーだった。

 彼女は目にも止まらぬ速度で懐にしまわれた拳銃チャカを抜き取り、これまた見事な早打ちで漁師の肉体に弾丸をぶち込んだのだ。


「ワタシらのこと馬鹿にしたよな? 言っていいこととわりぃことって……あるよなぁ?」

「や、やばいです! パシー姉が怒っちゃったです! でも、あいつらムカつくです!」

「いつかこうなるとは思っていたが……必定だな」


 対するハチマキ組の三人は各々が三者三様に言葉を紡ぎ、臨戦態勢へと移行した。


「だから嫌だったんだ! ママの言いつけでも、州のお上品なやり方に合わせるのは! 吐き気がする! ぴーちくぱーちく、ごたごたと面倒臭い御託を並び立てやがって!」

「いよっ! さすがパシー姉! もう全員皆殺しにすれば、ぜんぶ解決ですよ!」

「……帰ったらママからどやされるな。いや、この状況を見たら笑ってくれるか」


 姉貴分のパシーは体を怒りに震わせ、その妹分であろうファルは同じく拳銃を引き抜き、お目付け役っぽい感じのミノッペは両の拳を打ち付けた。


「いいかよく聞け? 今までは契約に従って優しく愛でてやってたが、そのフェーズはもう終わりだ! なぜなら警告はなんどもしたから! 今日が最後の警告日だからだ!!」


 ぜえぜえと息を切らしながらじだんだを踏んで怒りを表現するパシー。


「自分達で宝宮もろくに守れねぇようなおマヌケ集団が! 揃いも揃ってわめきやがって! お前らみてぇなヤツらサクッとイチコロ皆殺しだ!!!!」

「そうです、そうです! お母さんの言いつけがないとおしゃぶりも使えねー州の“ココロのカネ持ち”共に、無街の流儀ってもんを教えてやるですよ!」

「そもそも我らはこの港に幕切れを告げに来た。だが、どの道『飾壁ベール』が外れた時点で、ここが滅びるのは時間の問題。ならば、誰がその引導を渡しても関係ないだろうな」


「………ネレ!」「ああ……了解だ、ねえね!」


 男の治療を終えたネレがストラの横に立つ。

 今にも襲いかかってきそうな三人を前に、時栖姉妹が体をキュッと引き締め身構えた。

 ネレは喧嘩慣れした手つきで拳を構え、逆にストラは剣士がよくやる無手の型を取った。

 ストラは己が得物である刀を昨日の戦い(僕のせい)で喪っている。

 常人なら今すぐ逃げ出したくなるだろう殺気を放つ筋金入りの極道を前に、民を守るべく丸腰で立ち向かわんとする少女達の姿は、今にも風に吹かれて消えそうな蝋燭も同然だった。


「なんや、とんでもないことになってきたな……!」


 まさに一触即発。そんな光景を見たアスリが僕の右隣で値踏みするように視線を送る。

 我らがお姫様は渦中に向け、心なしかわくわくした様相を見え隠れさせていた。

 それは彼女が秘めていたタウルス州民としての一面を吐露した瞬間に他ならない。

 表面上の彼女は対立組織の暴走を目の当たりにしているはずなんだけどね。



「―――なるほどな。では、パシー。その一番槍はこの私が貰おうじゃないか」



「え―――――?」


 その流れは今まで速度に関して行った表現が馬鹿らしくなるレベルで卓越した“技”だった。

 まるで瞬間移動でもしたかのように唐突に現れ、神速でネレの胸倉を掴みながら、足を引っかけ、彼女を崩れ堕としたのだ。


「は―――――?」


 秘匿皆無の困惑。攻撃されたとすら認識させない自然の錯覚。素晴らしき技術。

 転ばされたネレ自身が、なぜ自分が地面に崩れ落ちているのか理解できていない様子だった。


「えっ、え、え、え、え、え、え、え、え、え!?」

「まっ、ま、ま、ま、ま、ま、ま、ま、ま、ま!?」


 唐突に差し込まれた台風の目ともいえる存在に、極道姉妹は大きく反応を示した。


「ふむ、なんだ。来ていたのか―――――――ママ」

「ああっ! なにやら面白そうな気配を感じてな! 心配だから見に来たぞ! 感謝しろ!」


 その横で牛人間のミノッペが声をかけ、その“本物の牛耳が生えた女”は笑顔を返す。

 あたふたする姉妹をよそに、年長者の語らいみたいな光景がそこにはあった。


「あなたは……」


 どうやら突然の乱入者に困惑したのは、ストラも同じだったらしい。

 ストラは警戒心をむき出しにしながら注意を払い、女との対話を試みた。


「おっと! これは失礼。麗しきレデエ! まずは自己紹介が必要だよな!」


 それを見た女はストラの心境を理解したように明るく振舞い、返事を返す。

 そして、道化師みたいに華やかな満面の笑みを浮かべながら、女は声たからかに宣言した。




「――私の銘は鉢巻チマキ! ハチマキ組の長にして、インテリ極悪だ! よろしくなっ!」


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