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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
Vol.1『ゲミニに灯るセントエルモ』
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第19話 『貴方が望んだ免償』

 見覚えのある独特な縞模様の入った緑の宝石剣がなにもない虚空から顕現する。


「……!」


 すぐさま果物ナイフを引き抜いて応戦しようか迷ったがやめた。殺気がまるでない。

 これは単に懐から道具を取り出す過程でしかないことにすぐさま気づいたからだ。


「……詳しくは言えない。これはアナーキア……“都市”から与えられたわたしにしか扱えない専用装備であり、法式とは全く異なるもの。今やこの“記録”はわたしの半身であり、わたしそのもの。手放すことはできないし、許可されていない」


 ルケはその煌びやかな剣を見せつけながら、それが自身にとって虎の子であると語った。


「――“アナーキアから与えられた記録”かあ。“都市”はなにを考えてるの?」


 察するに目の前に鎮座する目障りな剣はなんらかの機密事項に当たる代物なのだろう。

 でなければ、今のように自分で察してくれというような匂わせ発言はしないはずだ。

 本人は言っても構わないと考えているが、第三者である組織からすればそうではない。


「今日までの二週間、貴方がどんな行動を起こしたのか、“彼ら”は全部観察してる。だからこれ以上の“規律違反”はやめてほしい。『粛清』がきてしまう。――お願いだから」


 彼女は懇願する表情と共に、さらっと覗き魔がいることを告白した。


「……はあ、なるほどね。色々とお察ししましたよ。………はあ………」


 僕の中で腑に落ちたことが多すぎて、なんだか憂鬱な気分になってしまった。

 例えると、ミステリーの中盤で犯人が誰かわかってしまったようなものだとご理解頂きたい。


「――つまり、僕がアナーキアに来たのは、実は二週間前じゃなくてそれよりもずっと前。僕はルケの言う“彼ら”っていう都市の支配者に記憶を抜かれてしまってるわけだ」

「え? あっ……⁉」


 突然、何を言い出すんだと言いたそうな困惑顔をした後、ルケは心臓が破裂でもしたんじゃないかと思わせる速度で顔をハッとさせた。ようやく口を滑らせたことに気づいたらしい。


「まさか、僕を主人公に据え置こうと考える奴がいるなんて驚きだよ。趣味が合わなそうだ」

「……え、えーと、えーと」


 ルケはどうすればいいのかわからないとあたふたもじもじ身体を動かす。

それは彼女が時折見せる愛らしい普通の女の子らしい姿だった。かわいい。


「要するに、実は僕がこの都市にやってきたのはだいぶ昔のことで、僕はアナーキアにとって気にくわないなんらかの“やらかし”をしちゃったわけだ。その過程でどんな事情が絡まったのかは知らないけど、少なくとも僕を生かす方針で定まった。そこで都合の悪い記憶は綺麗さっぱり消去。テトラビブロスという組織を作り、僕を飼い殺しにでもするつもりだった」

「……………」

「簡潔にまとめてみたけど、花丸大正解ってことでいいのかな? ――ルケさん?」


 鯉みたいに口をパクパクさせるルケを見ながら、僕はこれからの方針について考える。


「……どうしてそこまでわかるの?」

「いや、明らかおかしかったもん。目覚めたら自分の服の色が違うし、テンポよく港にやってきたカクシちゃん達に連行されるし、三分で考えましたって感じの嘘丸出しなクラミの説明を聞かされて、トドメに貴方は特別ですって思わせぶりな態度で接してくるルケさん」

「―――」

「これで能天気に、“僕、物語の主人公みたい~”で済ませるなんてあるわけないだろ?」

「まって、服の色が違うってなんのこと?」


 他にもおかしなとこは山のようにあったが、最低限言い切ったところで、ルケが話の腰を折るように問いただしてくる。どうやら彼女は懇切丁寧な説明に違和感を感じ取ったらしい。


「僕の直前の記憶で着ていたのは、“灰色”のスーツ。“黒色”なんかじゃなかったんだよ」

「えっ? でも、あの時の貴方は黒のスーツしか着られないって……」

「へぇ……記憶を奪われる前の僕はだいぶ軽はずみなお口をしていたのか。それとも、君が僕に何らかの影響を与えたってことかな? ――いや、それは一番ないか」


 自分で言いだしたておいて、なんだか馬鹿らしくなった。

 今、一瞬ルケさんがムッと顔を膨れさせたが、事実は事実。

 僕があいつら以外に絆されるなんてありえるはずがない。

 ――ありえてはいけないんだ。


「それにしても迂闊なことをしたね。僕をエクセアに放り投げたのはきみだったのか、ルケ」


 まあ、自分の情けない話を深堀りしたくはないし、分かったことについて述べよう。


「たしかにエクセアの設定と合わせれば、違和感のない見事な判断だ。服が変わってなかったら、僕は怪しむこともなかったし、調べたとして気づかなかっただろう。詰めが甘かったね」

「……………」

「まあでも、これは脚本を書いた上司が悪いよ。露骨すぎる。こんな中盤で登場人物に核心を悟らせるなんて、論外にもほどがあるな。ルケもクラミも災難だったね?」


 これは本心からくる同情だった。あのテトラビブロス結成に至るまでの間。

 ご都合主義だとなじられても仕方ないくらい話の展開ができすぎていたのだ。


「……………」

「どうしたの? なにか返事を返してくれると嬉しいんだけど? それとも順番交代する?」


 ここまで事態が浮き彫りになった以上、黙秘でどうにかなる段階はとうに超えている。

 ここからはお互い……特に向こう側はさらけ出せるところはできるだけ晒して、ご機嫌取りに走らないといけない。それだけ相手をコケにするような隠しごとが多すぎたのだから。


「……わたしは戦闘担当で口達者じゃない。だからひとまず、今の現状についての話とわたしの気持ちを伝えさせてほしい」

「いいよ。じゃあ、今の現状についてからいこうか」


 ルケは音を切る速度で手に持った剣を振って消滅させた。


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