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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
Vol.1『ゲミニに灯るセントエルモ』
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第16話 『指導者と経営者』

「……まず、私達は今回の問題をそんな簡単に解決して良いものと考えていません」


 重々しい緊迫した雰囲気の中、最初の切り出したのはやはりストラだった。


「……なんでや? ゲミニの漁業は州全体を支えとる一番大切な事業のはずや。心臓の機能しとらん肉体は死体になる一歩手前の状態。はよ動かして息、吹き返さなあかんはずやけど?」


 おっかない顔でアスリが口を開いたストラの方へと顔を向ける。

 先程は便座上、姉妹二人と言ったけど、結局この場面で重要になるのは上院議員の役割を持ったストラの言葉だ。

 彼女がどれだけ弁が立つかというのは、この先どんな局面でも必ず重要になる。


「早急に問題の解法を用意すんのは、経営者として基本中の基本。今回やと、ゲミニは『警備隊』を持っとらんから、『等スリーブ』やそれに準ずる『スリーブデッキ』に依頼して、一刻も早く駆除せなあかんよな? ろくに解決もできんアンタらが頑張って意味あるん?」

「意味はあります。この問題は絶対に私――もしくは、ネレがエマヌエルに必ずトドメを刺さなければいけません。それが前提条件と言っても差し支えないでしょうから」

「……ほーん、その心は?」


 僕の右隣にいるアスリのギラついた眼光がストラを射抜く。

 その表情には己の欲する言葉を心待ちにしているような経営者の期待感が浮き出されていた。

 そこから溢れ出す覇気のような圧迫感は、夢持たぬ弱き者の心を地に堕とすだろう。


「――だって、そうじゃなきゃ――私は『州議長』には絶対なれないから」


 そんな眼差しにストラは臆することなく、力強い眼差しをまっすぐ返した。


「私達はエマヌエルを倒して、“はい、おしまい”とするわけにはいかないからです。ゲミニを取り巻く問題は別にエマヌエルだけじゃありません。ただでさえ、ユウ姉さんに遅れを取っている私にはゲミニ市民のみんなに選んでもらうために少しでも多くの実績が必要だからです」


 ストラが息を小さく吐いた。それは表に出せない緊張を解きほぐすかのようだった。


「実力のない私がこんなことを言うのはおかしいことは理解しています。ですが、アスリさんの言葉を聞き入れて、師匠やルケさんに全部任せてしまっては意味がありません。――それは、私達が宝宮に頼り切っていた頃と同じになってしまいます」

「――なるほどな。貢献率に関係なくトドメを刺したヤツの手柄になんのは当たり前のことや。人間を始めとした自我のある生き物は揃いも揃って過程より、ソイツが為した看板ばっか見よるからな。そこのバケモン共が倒したとこで、ソイツらの伝説が増えるだけや。それやったら、恥晒してでも自分色の看板を一個は立てた方が建設的やろな」


「無論、だから漁夫の利だけさせてくれと言っているわけではありませんが」

「みたいやな。その瞳に確かな情熱が籠っとる。タウルスではよく見れるからわかんねん」


 そこで初めてアスリは顔をくずし、心底疲れたといった様子で大きなため息をついた。


「この際言わせてもらうけど、ウチ、ゲミニに来てからホンマつまらんトコやなってずっと思っててん。ここには辛気臭いじめじめしたつまらん休日みたいな空気がずっと流れとるだけ。ここより悲惨なトコなんか一杯あんのに、みんなうつむいてふらふらしとるだけやん」


 そう言って顎を上に大きく上げ、アスリは本心から見下すような目をストラへ向けた。


「やから昼間アンタの姉ちゃんが言っとったことはウチの本心、丸々代弁しとって、スカッとしたわ。――マジで葬式会場かと思ったもん」


 それは敵国の捕虜や罪人を玉座から見下ろす女王のようだった。

 どこまでも冷酷で少しの慈悲も見せることなく、極刑を言い渡す人間の顔。

 人情だけでは決して生き残ることのできない世界を生き抜いた経営者の姿に他ならない。


「――でしょうね。それは姉さんと話していたときから思っていました」


 そんな常人では萎縮してしまうだろう格上の存在に対し、ストラは予想外の反応を示した。


「――えっ?」

「……なんやと?」


「アスリさん――突然ですが、貴方に提案したいことがあります」


 予想外の事態に意表を突かれたアスリは受けの姿勢を取った。

 僕もなにかの聞き間違いかと思って、思わず内心を表に出してしまった。

 ルケが僕からりんごを取って、リスみたいにぱくぱく口に詰め込んでいる。


「……提案やと? じゃあ、要点だけひとまず言うてみいや」


 アスリは見下した姿勢をやめ、すぐさま元の経営者の顔へと戻った。

 お互いの目が対等に向き合い、ストラの口が開かれる。


「――箕川(みのりかわ)アスリさん。ユウ姉さんとではなく、私達ポントス側と手を組んでくれませんか?」


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