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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
Vol.1『ゲミニに灯るセントエルモ』
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第14話 『甘い誘惑』

「まずエマヌエルと戦ってみて、みんな理解したと思うけど、あれは漫画やアニメで例えると、弱点を叩かない限り、どうにもならない。僕があの子を縦に斬ったときに見ただろう?」

「頭をへこませて、黄色い小球体を肉体の側面へと逃がしてたね」


 ルケがりんごをじっと見つめながら、僕の言葉に相槌を打つ。


「アレはエグかったな。ウチなんてもう、息殺して絶句してもうたわ。……そや、アーさんに一応聞いときたいんやけどアレなに? 古巣の世界に異能の類はないって、ばちばち嘘やん」


 呆れた声を出して、アスリが僕の持つナイフをちらちら見やる。


「ああ、あれは僕のいた世界で流行っていたアニメの技を元にして生み出した技だよ」

「へぇ、そうなんや。――ん?」


 理解が遅れたのか、アスリの動きがぴたりと止まった。

まるで彼女の時間だけが停止したように。


「い、いま、というか、また、アーさんがものすんごいこと言わんかった⁉ どゆことや⁉」


 うんうんと納得した返事をしたはずのアスリが表情筋を痙攣させ騒ぎ始めた。

 というかやっぱりアスリの訛りって、ツッコミ役に向いているんだなと思う。


「『宿命デスティネーションズ』……通称『デステネ』ってアニメがあったんだけど、それのライバルキャラが使う『雷霆の閃き』って技を僕と親友なりにアレンジして再現したんだよ」


「さ、再現やと……?」


「そう、再現。本当は、雷を纏いて大地を揺らし、絶え間ない雷光を敵へ降り落とす……って感じなんだけどさ。さすがに雷なんて纏えないから、原作準拠ってのはちょっと……ね?」

「さすが師匠。やっぱりあんな神技を使うには、習得経緯さえ特殊じゃないと駄目なんですね」

「りんごたべたいー」

「ていうか何気に、にいにの親友もすげぇな……たぶん、ハロッピーの人だよな?」


 アスリに続くよう、各々が好き好きに僕へと感想を流してくる。


「いや、アイツは技の命名と執筆の担当で、実際に何かやるのは全部僕だったよ? 人外じゃないと無理でしょって要求を当たり前に言ってくるから、本当困ったやつだったな。常識ってものをもうちょっと考えてほしいよね~ほんと。――まあ、楽しかったからいいんだけどさ」

「……じょう、しき?」


 じゃあお前は何なんだ、と言いたげなアスリ殿の姿が見えるが、それをよそに話を続ける。


「とにかくエマヌエルを倒す鍵は間違いなく、あの二つの球体を同時に破壊することにある。ストラが体験したみたいに直接乗り込めば、格好のいい餌になるだけだから現実的じゃない。だから一番効果的なのは、離れた位置から最低三つ以上の超火力攻撃を与えることだろうね」

「……体の面積的に乗り込んでも、両方同時に球体を破壊するのはだいぶ難しいし、一回だけじゃ今日みたいに球体の位置をずらされたり、まだ見ぬ隠し芸をされるかもしれないもんね」


「ルケさん、大正解。ご褒美にりんごを一個追加だ」


「わーい」


 ルケが嬉しさを表現するため両手を上げた。


「……つまり、一回目でエマヌエルの防御を潰し、二回目で球体を片方潰す。そして最後の三回目でもう一個の球体を破壊するってことですね?」

「ストラが分かりやすくまとめてくれたね。その通り! ご褒美は……なにか考えといて!」

「えっ……あ、ありがとうございます」

「……そんなん当たり前のことちゃうんか? 作戦とも呼べん、ひねりのなさやったけど?」


 褒められて嬉しそうにしたストラとは反対にアスリが顔を呆れさせて言った。


「それはそうだけど、言葉にした方がいいこともある。目的を明確にするという意味でもね。だから勘違いはしないでほしい。これは最低限の前提条件なだけであって、三つよりも四つ、四つよりも五つって感じで保険を用意した分だけ、攻略が楽になる話だからね」


 そもそもの話、あんなバカでかい怪物相手に細やかな作戦なんて立てられる訳がない。

 僕が見た限りエマヌエルの全長はちょうど48.35mもあったんだ。

 下手に作戦を立てるより、こうすれば倒せますって言いきったほうがいい。

 不可能だ無理だと、脳みそに感じさせてしまうのが一番だめなんだよね、こういうのはさ。


「じゃあ、その最低限の三つは、ねえねとにいにとルケっちってことか」

「――それやったら、ルケとアウトサイダーに任せればええんちゃうの?」


 ネレが今までの会話から当てはめるように言うと、そこで突然アスリが話の流れを変えた。

 それはここにいる“彼女ら”にとって、甘い誘惑のような一言だった。


「どうしようもない不死身のバケモンってわけちゃうし、簡単に倒せるなんて口が裂けても言えんけど、金を積んで『等スリーブ』を複数人雇えば、なんとかなりそうやとウチは思った。まあ――そんな金、用意できんから自分らで倒すしかないってなったんやろけど」


 アスリはリビング全体を一瞥した。皆の顔が自分に向いているのを確認して続ける。

 スリーブっていうとカクシちゃん達の手帳に書いてた役職のことだね。


「せやけど、今ここに等スリーブなんか比較にもできん人間のバケモンが目の前におるやろ?――あの『厄災』マガトを討伐した『英雄』がな? ――なあ、そうやろルケ?」


 アスリは自分の正当性を確認する動作を挟みながら、皆の視線がルケへ向くよう操作した。


「……まあ、倒せないとは言えないね」

「やろうな。アナーキアの悪人が最後に行き着く粛清さえ、薙ぎ払った怪物を滅したヤツが、今更あの程度のバケモンに苦戦するわけあらへん。――せやから、任せてまえばええやん」


 ラフな男子高校生の様な服装を着込んでいるにも関わらず、家柄で培われたのだろう上品な立ち振る舞いが、彼女の発言にとてつもない深みと説得力をもたらしていた。


「別に任せたからって、身内に文句言うヤツおらんやろ? 目の前の問題さえ、解決できたらそれでええとしか思っとらんやろ? 別にアンタら姉妹が頑張らんでええやん? ちゃうか?」


「「…………………………………………」」


 それはとても厳しい物言いだった。

 アスリは今日一日を通して、自分の中にある微かな期待をばっさりと切り捨てたのだ。

 それは彼女の“経営者”としての一面が表面化されたゆえの発言。

 この二人に今回の問題を解決できる能力は持ち合わせていない。

 ユウの言う通り、時間をかけるだけ無駄な存在だと判断してしまったのだろう。

 だから、こんな野暮なことをして、無理して二人に価値を付与しようとしたわけだ。

 二人がこの問いにどんな答えを返すのか。二人がどれほど過酷な現実に直面しているのか。


 ――今回、二人がしなきゃいけないことをちゃんと理解しているのか確認しているんだ。


「―――――はははっ」


 ――なるほど。調べ上げた人物像通りだ。優しさの中に混ざる強欲かくしあじがとても魅力的だ。


「やだな~アスリ~面白いこというね~」


 ――やっぱりいいね、物語っていうものは。色んな思惑が絡み合う瞬間っていうのは。


「――らしくないなぁ」


 ――僕も全力で相手してあげようじゃないか。別に隠しているつもりもないわけだし。


 ――だからがっかりさせないでね? ストラ、ネレ?


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