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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
Vol.1『ゲミニに灯るセントエルモ』
20/36

第12話 『導きの太陽』

 ――それはどこまでも純真無垢で、無色透明な一筋の光だった。


 世界が身震いし、空が裂け、時がその事象を認識するためにゆっくりとねじ斬られていく。


 どんな法則にも縛られない、あらゆる生命が求道するロマンと夢を宿した奇跡の御業。


 人の身で振るう技とは隔絶した、生命に課せられた境地を超えてしまった、この世に現存するあらゆる概念の超越者にのみ披露することを許される完全無欠、十全十美の到達点。


 有るものは息を殺しながら絶句し、在るものは目を奪われ、あるものは憧憬を得た。


 ただ――なぜ、何で、どうしてだろう。それと同時に湧き出てくる“哀れみ”の感情は。


 その業を拝謁する権利を得た者全てが、皆一様に寸分の違いもなく同じ事を思案した。


 そのわざは完璧だった。他に比較するわざなど存在しない。


 まさしく唯一無二で完璧な技――故に、そこから匂う強烈な孤独。


「………アウトサイダー」


 だれかがぽつりとつぶやいた。様々な感情を織り交ぜ、歯噛みするようにつぶやいた。


 そこにどんな感情をこめ、どんな想いを混ぜ込んだのか。本人以外に知る術もなし。


 だがそれは――英雄だれかが彼に与えられた唯一無二の感情ものに違いなかった。


★★ ★ ★


 エマヌエルの身体が縦に真っ二つ、斬り裂かれた。

 頭と胴体、二つの球体が同時に壊れるよう狙いを定めたが、斬撃が命中する直前、頭の部分が完全にへこみ、黄色い小球体が肉体の側面へと逃げ込んだせいで、斬れずじまいとなった。


「――うん、できたできた。少なくとも赤の球体は綺麗に真っ二つだね」


 光を超えた速さで振るった刀が、役目を終えたと砕け散った。

なかなかいい刀だった。腕のいい職人が丹精込めて打った業物なんだろう。

 僕がこの技を披露するとき、重要となるのは刀の耐久と品質。

 どんななまくらでも必ず百パーセントの精度を叩きだせるから、後は耐久によって何発撃てるか、品質によってどこまで威力が加算されるかが大事になってくる。

 ゲームでよくある装備品強化をイメージしてくれたら分かりやすいかな。


『……………』


「ん? みんなどうしたの?」


 お嬢様方が、気の抜けた顔で全員茫然自失していらっしゃる。

 まるで素晴らしいエンディングを迎え、余韻に浸り続ける観客みたいだ。


「え? 驚きすぎじゃない? ――って」


 エマヌエルの方を見やると、泣き別れたぷるぷるボディーがうねりを打ち、新たに形を形成する。それぞれに黄色と赤の球体が中に入り、次第に壊れた赤の球体が復元されていく。

 やがてそれは、二体の中型サイズのエマヌエルへと至り、完成される。


「あーなるほどぉ……確かに僕よりインパクトあるね」

「「いや、今のはお前に驚いてたんだよ‼」」


 アスリとネレが我に返ったように鋭い突っ込みを入れてくる。

 タイミングぴったしで、仲良くなったなと感心する。

 この二人はツッコミがうまいね。


「さっきから色々起こりすぎてて、何から反応すればいいのかわかんねぇけど、あれあれ!」


 ネレが勢いよくエマヌエルを指差す。

 ワルツを踊るようにくるくると二体のエマヌエルが優雅に回っていた。

 回る二体の身体は距離が近づいていき、最終的に一つに重なりあった。


「うわっ――⁉」


 その瞬間、天高く伸びる一本の光の気が爆誕した。

 爆弾が起爆したように轟音を響かせ、凄まじい突風を発生させる。

 穏やかだったエクセア海が荒れ狂い、生じた波が船を横転させんと襲い掛かる。


「――へぶっ、ば⁉」


 そして光が収束していかんとする直前、波に飲まれて船がひっくり返った。

 そのまま海へと叩きつけられ、まさに力士の張り手を食らったような痛みが染み渡る。


「ぷはっ⁉ みんな大丈夫かーーーー‼」


 強い波に晒され、クラゲみたい流されながら大声で叫ぶ。

 視界に映るのは、ひっくり返った船底のみで、“鼠色の紋様”が弱弱しく光り輝いていた。


「おーう! どこやアウトサイダーぁぁぁぁぁ‼ ルケぇぇぇぇぇ‼」


 僕の声に応えるよう、なまりのある大声が波を伝って響いた。

 もがきながら声のする方を見ると、 “紫色の紋様”を纏ったアスリが時栖姉妹を横に侍らせながら宙に浮いていた。


「アスリ! 僕はここにいるよ! お助け~~‼」

「おい、アスリっち! あそこだあそこっ!」


 真っ先に気づいてくれたネレが大声でアスリに僕の居場所を知らせると、アスリはすぐさま僕の方へと浮遊を開始した。


「ほら、掴まってや。急いで逃げんで‼」

「僕にはそのサイコキネシス使ってくれないの⁉」

「すまん! さすがにこれ以上は持ち上げられへん! 重量オーバーや!」

「ああ、スキルレベル未成熟的な感じなのね」

「普通に才能の問題や! 煽っとんのかこのゲーム脳が!」


 憤怒をたぎらせ、顔を真っ赤に染めるアスリが陰で塗りつぶされる。


「おい、やばい、やばい。二人共、やばいって‼」


「「ん?」」


 さっきまで光り輝いていたのに影が生まれるのはおかしい。

 そう思い、影が差す方向に目を移せば、元通りの姿になったエマヌエルが僕らを見上げるように立ちつくしていた。


「「あー」」


 その構図はまさしく、捕食者と非捕食者の邂逅。

 体内に入った二つの球体の色が激しく変化し、頭の部分が口のような形状に変化した。


 ――物を知らぬ赤子でもわかるだろう。目の前の怪物が怒りの玉手箱であると。


「あのーそのーお怒り沈めて頂いてもぉ……よろしいでしょうか?」

「ウチら今すぐとっとと帰りますんでぇ……どうかお慈悲を………」


『―――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!』


 玉手箱が開かれた。その余波でやってくる津波に飲まれ、掴んでいたアスリの手が離れる。


「がぼっがぼっ‼ がぼっ⁉」


 大量の水が口の中に入ってはそれをすぐに吐き出し、飲み込まないよう必死に努める。

 更に陸地から離れた海域へと流されゆく様は、普通にめんどくさいと思った。


「アウトサイダーぁぁぁぁぁ!」

「がほっ! ―――僕に構わずとっとと逃げろ! 自分でなんとかするから!」


 とにかく大声で叫びながら、アスリに指示を伝える。

 遠く離れたアスリは何か必死に叫んでいるが、荒れた海やエマヌエルの存在が相まって、助けにいけないことを理解すると、もの凄い速さで陸地へ向かって飛んで行った。


(………さーて、ようやく行ってくれたな)


 そんなアスリを目視しながら、僕はこれからの立ち回りを思案する。

 今なら“クラミ”にしか見られてないから――思う存分好き放題できる。

 というか、ずっと複数の視線がうっとおしかった。

吸血鬼の【眷者】だかなんだか知らないけど、ずっと海の中で船を追いかけてきやがって。


『―――――』


 エマヌエルがじっと漂う僕を見つめ始めた。

地面から掘り起こした宝物を見つけた子供みたいに覗き込んでくる。

 さて、どうしたものか。殺しちゃ駄目だしなぁ。


(………そういえば、ルケはどこにいるんだ?)


 ふと、そんなことが頭によぎる。そういえば、姿が見当たらない。

 なにか行動を起こすにしても、見られていると非常にめんどくさい。

 と、思っていたその時―――、


「――【N.E/O.顕現・緑剣】」


 天使のように澄み透った声が響き渡った。

 少し遅れて、僕を影で覆っていたエマヌエルの巨体が強烈な輝きによって弾き飛ばされる。


 ――それはまさに唯一無二で天下無双の一太刀だった。


 流れ星が地に堕ちたと錯覚させる右から左へ斜めに落とされた剣閃。

 そこには一転の迷いも曇りもなく、周囲を、人を、その道を照らすように世界を支配した。

 思考が数秒遅れ、人の身では成しえないはずの絶技に魅せられ、ようやく理解に辿り着く。

違う、これは星なんかじゃない。太陽だ。物語の主役にのみ与えられる特権だ。

 星は迷い人を導き、自らが生み出す糸のような細い極限の世界を辿らせる。

 星には独特な世界観が広がり、外れた道に新たな分岐路を与え、正しき道へと落としこむ。


 だが――太陽はそんな、まどこっしい導きは示さない。


 この世全てを飲み込まんとする強烈な光を世界に誇示する。

 闇を照らすなんてせず、ただ光で塗りつぶし、他の概念をなかったことにする。

 罪も罰も許し、己がルール全てを他者へ押し付け、納得させ、それを正しさへ着地させる。

 どんなに無茶苦茶に絡みあった糸も焼き切り、布みたいに広がる世界へと落とし込むのだ。


(―――――――――――――――――――――――――――)


 美しい。ただそれだけの感情が、技を魅せた太陽へと与えられる。


 ――その下手人は紛れもなく、『英雄』天見川ルケだった。


(……N.E/O.だって?)


 その手に握られているのは、宝石のような煌びやかでありながら、濃淡で鮮やかでもある石で造られた至極の一品。マラカイトのように緑の独特な縞模様の入り込んだ深い色合いを持ったその剣は、まさしく魔の存在を追い払うための魔除けの剣に違いなかった。


「――アウトサイダー!!」

「うおっ⁉」


 ルケにしては珍しい荒げた声が聞こえると同時に、ルケは僕の制服の襟を掴んだ。


「痛い、痛い、うぎゃあ! 首がしまる! 襟、掴んでるって!」

「ごめん。片手が塞がってるから、これしか無理!」

「し、しぬぅ……………たす、け、テ…………………………………………」


 首がぐいぐい締まりながら、ルケが陸へ向かって海の上を猛ダッシュしているのを感じる。

 やばい、マジで殺されるかもしれない。

 今、初めて僕の状況に流されるスタンスに対して後悔した。



 まあ……少し三途の川でも見に行ってみるとしよう……か……。


 ――それは昔、流れ星と月を見つけたときのような衝撃だった。

 

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