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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
オープニング『Omnipotence Paradox』
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第2話 『異邦人は釣りの大物』

ようこそ、アナ―キアへ。

「――よっこらせ……っと!」

「んあ⁉」


 お腹にとてつもない衝撃が襲ってきた。胃から液体が喉を通り、僕の口からそれが吐き出された感覚に襲われる。


「げほっ、ごほっ――――⁉」


 すべてが吐き出された後、僕は何回もその場で咳き込んだ。まず訪れるのは、全身が水でびちゃびちゃになって、服が肌にべったりくっついた感覚。まぶたにはしょっぱい塩水が満たされ、目を開けるのも一苦労だ。


「ここっ…………げほっ…………は……?」


 そこで僕は、直前に何が起きたのか思い出す。そうだ、僕は旅に出ようと船に乗った。

 その船が突如として沈没し、僕の人生はそこで終わったと確信させられた。

 だが、どうやら僕は、命を拾ったらしい。今まで自分が感覚と表現した事柄が事実であることを認識した。僕の体は塩水でびちゃびちゃだったのだ。


「……大丈夫? まずはこれで目や口を洗って? ほら、うがいうがいして」


 知らない誰かの声が鼓膜を揺らした。まだはっきりと顔は見えないが、近くに誰かいるらしい。それを自覚した瞬間、前方から物凄い勢いで水が飛んできた。


「――――ぶ、ぶぶぶぶぶ――――くはっ!」


 水は目や口を始めとした僕のあらゆる場所を濡らした。それまで僕の鼻を揺さぶっていた磯の香りが消え、しょっぱさとか目が痛いとかつらいのが全部、消えてなくなった。


「――よかった。命拾いしたね。少しでも遅れていたら、助からなかったよ?」

「――――」


 そして体中の塩水が洗い流され、目が見える状態になったところで、僕はようやく――彼女の姿を見ることができた。

 海のように透き通った水色の髪と赤眼を持つ美少女。まるで彼女のためだけに作られたような着物を羽織り、腰には二本の刀が携えられている。それはまさしく大和撫子と形容するのが相応しい少女だった。ここまでの別嬪さんは見たことがない。クールでとても大人びた感じだ。


「き、きみがたすけ……てくれた、のか?」

「うん、みんなで漁港おこしに向けたプロモーションビデオ兼生配信の撮影をしていたら、あなたが海から流れてきたの。それであなたを引き上げて、いま港に戻ってきたとこ」


 そこは確かにどこかの港のようだった。空に浮かぶ太陽に照らされ、夏の浜辺のように美しくも光の透き通った海が視界に写った。


「あ、ああ……そうか。ありがとう……………たすか――――っ⁉」


 お礼を言い立ち上がろうとした直前、少女以外にも無数の視線が僕に向かってのびていることに気づいた。


「う……あ……? な、なんだ貴方達は⁉ か、怪物⁉ それになんだよこの服⁉」


 なぜ、僕がこんなことを言ったのか分からないと思う。だから、今から説明しよう。

 まず、着物少女の奥には何十人もの人々が立っていた。

そこにいた人達の姿は命を救ってくれた着物の少女とはまるでかけ離れた存在だった。

 天使のような羽を生やした男、立派な動物のツノやしっぽを持つ女、トカゲのような体躯の男性、小さなネコの妖怪、はたまた粘液でできたスライムのような化け物に至るまで、統一性のないあらゆる形や姿を持った存在がばっこしていたのだ。全体的に若々しいエネルギッシュな者達が多い。

 まさしく百鬼夜行とはこのことかと思った。 


「こんの…………ぼけなすがああああああああああああああああああああああああああ‼」

「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉」


 突然、一人の男に掴みかかられ、大声で怒鳴られる。一言、バカでかいとしか言い表せないその怒鳴り声は僕の脳を揺さぶり、珍しくも悲鳴を上げさせられる。

 なぜかスーツの色が“灰”から“黒”に変わっていて、襟を掴まれたのだ。

 ちなみに、男は先ほど言った液でできたスライムのような化け物のことだ。

 男だとわかったのは、僕を握りしめるその力強い腕力と声でそう判断した。


「てんめ~、助けて貰っといて人様のこたぁ怪物呼ばわりか⁉ パパとママからどんな教育、受けとんのじゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉」


 耳元で何度も反響するけたたましい大声。見た目は化け物なのに、その声色や声にこもった感情は間違いなく人間のものだった。身体はぷるぷる震えまくってるけど。


「すす、すみません! と、突然、目の前に飛び込んできたのでつい……!」

「おうおう、そうだよなあ! 謝ってくれりゃあ、それでいんだよ! 気をつけやがれ! こんなにかわいいワシちゃんが怪物なわけねぇんだからなぁ!」

「は、はい、えーと……みなさんどうもハロッピー! かわいいマスコットさんみたいですね!」


「―――――――なにい?」


 僕がとっさに発した言葉にスライムさんは身体の震えをピタリととめた。


「……おい、ストラ。今、このイケメンにいちゃんなんて言った?」

「かわいいマスコットって言ったね」

「なかなか見る目があんじゃねぇか! よし、ゆるしてやらあ!」


 スライムさんはガハハッと笑いながら、持ち上げていた僕の身体を地面に降ろした。


「え? い、いいんですか?」

「おうよ! だがな、にいちゃん……ちったあ、自分の命は大事にしやがれ! 死んじまうにはお前さんは若すぎんだろーが! このエクセアの大海原で自殺なんざあ、許さねぇぜ!」

「えっ、いや自殺じゃ――」

「まったく最近の若い連中は、命を粗末にするもんじゃねぇぜ!」


 僕はスライムさんの勘違いを訂正しようとしたが、叫び声にも思える大声でかき消された。

そしてすぐさま隣にいた水色髪の美少女――ストラさんとやらを見て、こう言った。


「よし、そんじゃあストラ。お前が釣り上げたんだから、面倒見てやれ!」

「りょうかい」

「えっ?」

「そんじゃあ、ワシらは捕れた魚の選別とかあるから――」


 スライムさんが背中を向けて立ち去ろうとしたところで――撃鉄の鳴る音が三回鳴り響いた。


――嗚呼、結局■■■■■■のか。

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