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アナーキアマガジン 〜無意味な全能証明〜  作者: 黒種恋作
Vol.1『ゲミニに灯るセントエルモ』
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第11話 『友からの贈り物』

「ねえね!? おいしっかりしろ!」


 船から走って海へ飛び出していったルケが誇張抜きに光の速さで一直線に船へ帰還した。

 ルケの手からぼろぼろになったストラが降ろされ、大慌てでネレが駆け寄る。


「とりあえずちぎられた右腕を左足、それと刀も拾ってきた。まだかろうじて息はあるけど、今すぐにでも治療しないと危険。アスリとルケ、どちらか回復の【法式】は使える?」

「……すまん。ウチは使えん……」

「オレが使える! ねえね待ってろ、今治してやるからな!!」


 興奮状態の中、ネレが両手を横たわるストラの胸に押し当てる。

 次の瞬間――ネレの身体全体に“虹色の紋様”が浮かび上がり、『青白い炎』が現れる。


「……虹色の紋様」

「アホかッ! 紋様が回復の【法式】とちゃうやろがッ! 追い打ちかけてどうすんねん!」

「覚えたてで集中しなきゃいけねぇから黙ってくれ! これミスったらマジでヤバイんだよ!」


 ルケが小さく呟き、アスリが怒りの声を上げるも、青白い炎はストラ包みこんでいく。

 僕は追撃がないかどうか、エマヌエルをちらちらと確認しながらそれを見守った。

 炎の中でピリピリと電気が走るような音が鳴りながら、ストラの傷が消失していく。

 僕は初めて見るが、ネレが行っている行為は間違いなく治療行為に他ならなかった。


「……うそおん。マジで治ってるやん………」

「クソッ! まだ全然なっちゃいねぇ! ネコとかにやった時はもっと治せたのに!」

「ええ……十分治ってるやろ。もげた腕とか足以外は完治しとんでこれ。これ以上はマジモンの名医じゃないとどうにもならん領域領域やん………」

「アイツらはこれ以上に治せたんだよ! 鳥なら折れた翼だって治せたんだよ!」


 そう言って治療を続けるネレの横で、アスリがドン引きして表情を引きつらせた。

 察するに覚えたてで、あれだけ治療が施せるのは異常なことらしい。

 一瞬、エマヌエルから目をそらして、治療光景を見ると、確かにもりもりってちぎれた腕と足から肉が盛り上がっているのが見て取れた。凄いな、普通に感心する。


「じゃあ、このちぎれた腕と足をくっつけてみたら?」


 ルケが思いついたように言うと、ちぎれた腕と足を持ってきて、盛り上がりつつある断面にそっと押し当てた。

 すると、待ってましたといわんばかりに断面とちぎれた部位がピッタリくっつき、やがて傷跡すら残らず元の姿へ完治した。失ったのは攻撃を受けて焼け焦げた水着の一部程度だけだ。


「うっ……かはっ……!」

「よっしゃ! サンキュールケねえ! おかげで助かった! ナイスアイデアだぜ!」

「え、う、うん………」


 青白い炎が消え、ストラが息を吹き返したのを見届け、ネレが喜びを身体一杯に広げ、ルケに飛びついた。困惑しながらもルケがまんざらでもなさそうに笑う。


「よかった。これで一安心だね。……さーて、さっきからずっと見張っていたけど、エマさん特に何かしてくる様子ないね。みんな見て」


 僕はみんなが再びエマヌエルに意識を向かうよう促しながら、甲板の先へと目を向ける。

 追撃で何かやってくるかと思えば、特になにかおかしな行動を見せることもなく、楽しいのか暇つぶしのなのか知らないが、ぷかぷか海面と平行移動して宙を漂うエマヌエル。


「初めは超音波で威嚇してきたくせに、今は海の上を優雅にお散歩しとる。貴族か!」

「海を走ってる途中、ずっと観察してたけど、エマさん自体はあんまり好戦的じゃない」

「ああ、考えるにエマヌエルは一週間をルーティンにしてビーム撃ってるみたいだから、今は力をチャージしてるところなんだろうね。だから、最低限の行動で済ませたいみたいだ」


 はた迷惑な話だが、意思疎通ができる相手ではない以上、独自の生態だと受け入れるしかない。いや、逆に意思疎通してみたいな。実に興味深い存在だ。――欲しいかもしれない。


「まあ、直接乗り込んでストラがああなった以上、今度は逆に離れた位置から攻撃しよう。このまま帰ったんじゃ、無駄足もいいところだからね。――最後に弱点の一つでも見てやろう」

「……わりぃ、にいに。この船、壊される前提で使ってるから、大砲とかそういうの積んでねぇんだ。なんなら、まだ息してる船の中で一番古いやつだし」

「大丈夫、別に飛び道具が欲しいわけじゃないから。ストラ、今すぐ起きてくれ。師匠命令」


 正直、できる限り僕が直接介入するのは避けたかったけど、どの道これでストラを育成するのは決定したわけだし――いっちょやりますか。


「……なん…で、すか……ししょ……………」

「きみの刀を少し借りてもいいかな? きみの師匠として、あいつに一泡吹かせたいんだ」

「は、は……………い」


 ストラが苦しそうな顔をして起き上がろうと気力を振り絞る。傷は完治したのに、苦しそうな表情を浮かべる辺り、幻肢痛に近い症状が出ているのかもしれないな。

 でも、どうやらストラはちゃんと意図を察してくれたみたいだ。えらいえらい。


「お、おい! ねえね! 起き上がるなよ! まだ安静にしなきゃだめだって!」

「――ネレ、支えてあげてくれ。弟子には師匠の技に魅せられる正当な権利があるんだから」

「――――――――――」


 すかさず僕はネレに有無を言わさぬよう圧をかけた。殺気とか神秘的な雰囲気にしちゃうと彼女を怯えさせちゃうから、ほんとのほんとに軽めにやる。

 そうすると、おとなしく僕の言う通り、ストラの身体を丁寧に支えてくれた。


「……アウトサイダー。なにする気なの?」

「まさかそこのみんなの英雄ルケ様みたく、海ダッシュするんか?」

「さすがにそれはルケの十八番にするよ。――まあ、見てて」


 みんなの期待に応えべく、準備を始める。

 僕は鞘に刀を収めるよう脇腹の奥にしまって、居合の構えを取る。本来は溜めなし即振りで、今から繰り出す技を使えるけど、この方が印象に残りやすいだろうからあえて行う。


 かっこいい技名も必要だ。その方が、記号として理解しやすいから。



 ――初めて親友に見せてもらったアニメではそうだった。



「我、ロマンを忘れず、夢を忘れず、幻想を追い求めん」



「――奥義、雷光一揆らいこういっき!!」


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