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結婚式を飾る花

 アーカーシャが継承者を選んだことで、次期王妃はユリアへと決まった。

 ただし、次期リシの決定は難航しそうだ。

 なんと言っても、六人いる剣の乙女のうち四人が犯罪行為に手を染めていたのだから。

 ここまでのことになる前に手を打てなかったのかと思うけれど……

 王妃様はもちろん、殿下も、今回のアーカーシャの選定が酷い状態になっていることはわかっていたらしい。わかっていたけれど、確たる証拠を取ることができず、手が出せなかったという。

 今回のユリア誘拐だって、もし、私がユリアを助けに行かなければ証拠が残らなかったというのだから、ラクシャーサの手の回し様は余程上手だったようだ。

 王妃様はラクシャーサのことを軽蔑しているようだったけれど、殿下はその政治力の高さをかっているらしく、自分の部下にできるなら欲しい、手足になるなら王妃としてもウエルカム、なんて言っていた。いやいやいや、犯罪者なんですが。

 ラクシャーサは捕まり、王城で取り調べになっても、自分が命令した悪行について口を割らなかった。拷問にかけても無反応を貫いたという。そういうところも殿下好みらしい。

 全く証言が取れなかったので、明確に罪に問うことができるのは、神殿にドラゴンゾンビを召喚したこと、ユリアをナイフで殺そうとしたことだけという話だ。

 神殿で私に対して彼女が乙女たちに命じた内容を語っていたのは……私たちを本気で殺す気だったからなのだろう。

 もちろん、それだけあれば、離宮への軟禁が決定するのに不足はしない。その二件について、彼女が主犯だったことは確実なため、ラクシャーサのことは即座に離宮へと居を移すことになった。

 他の乙女は私が神殿で聞いたことを参考に話を聞いたところ、全員が素直に自分のしてきたことについて話した。セシリアもそうだったが、四人全員が、自分のしていることに怯えていた。これ以上黙っていることに耐えられなかったのだという。

 真っ当に処分が降れば、ラクシャーサ以外の三人も離宮送りになる。剣の乙女の掟どころか、法を犯しているのだから。

 とはいえ、王妃以外のリシが一人しかいないのでは公務が回らないため、全員を離宮送りにするわけにはいかず、なんらかの条件を課してリシとして活動させることを検討しているらしい。

 そして、私だ。

 私が受けた暴行未遂事件は完全に闇に葬られることになった。

 あの事件自体がなかったことにされた。手を下したのは王妃様だ。

 他の乙女がリシになる資格を失っている今の状況では、暴行事件が噂になったくらいでは、私が離宮送りになることはなかったけれど、名誉の問題は残る。

 王妃様は私に後ろ暗いところが残らないように、秘密裏にあのとき私を襲った五人を亡き者にした。王妃様が銃で撃った跡が残っていたために、犯人をあぶり出すのはそう難しいことではなかったという。

 すでに切り裂かれたドレスはなく、未遂だったために、私に傷跡が残ることもなかった。あとは、私と王妃様さえ何も言わなければ、人に知られることはないというわけだ。

 王妃様があの五人を消してくれたおかげで、私は助けられた。私だって、あんなことがあったなんて、人に知られたくはない。

 それでも、王妃様があの五人を殺すよう命じたことは少しショックだった。

 わかっている。もしかしたら私も、リシを続けていくうちには、そういう手段を取る必要に迫られる日が来るかもしれない。多分、ヴァルナの王城で政治に関わるというのはそういうこと。ウィルですら染まっていると感じることがある。ここにいれば冷酷にならざる得ないのかもしれない。

 リシになる前は清純さが求められるのに、実際にリシとなり聖女として活動するようになると冷酷さを要求されるだなんて、変な感じだ。




 今日はユリアと殿下の結婚式だ。

 私とラクシャーサ以外の乙女はリシ候補として結婚式に参列することになった。

 式が始まる前、私は半年ぶりに家族と会うことができた。

 お母さんは私の顔を見るなり、私に抱きついた。


「キラナ!」

「お母さん、元気だった?」

「こっちに変わりあるわけないでしょう。元気に決まってるわ。キラナこそ、本当に、心配で……でも、こんなに立派な姿を見られるだなんて、想像もできなかった」


 お母さんが私の肩を撫でた。


「素敵なドレスね、キラナ。まるで若い頃のシルヴィア様みたい」


 ヴァルナ王族の結婚式はミスラ教会の儀式として行われる。幽鬼騒動のせいで儀式用ドレスを無くした私は新しく仕立て直していた。今回のドレスも評判は上々だ。

 お父さんがお母さんの後ろで微笑んだ。


「よく似合っている。聖女様そのものだな」


 お姉ちゃんが私の横にきて肩を突いた。


「ほんと、見違えちゃったわ。私の妹がこーんなに綺麗な人だなんて」


 やめてほしい。照れるじゃないか。


「ほとんど衣装のおかげだよ」


 この半年、いっぱい勉強したし、乙女の修行もがんばったけど、見た目は対して変わってない気がする。これからはもう少し見た目も綺麗になれるようにがんばりたい。

 お姉ちゃんがからかうように笑った。


「こんなに綺麗なのに、王妃になり損なっちゃって残念ね」


 お母さんが私の腕を撫でた。


「あなたに会う前、偶然、シルヴィア様に会って聞いたわ。あなた、第一候補だったんですってね。今まで乙女の教育なんて受けたことなかったのに、よくがんばったのね。お母さん、鼻が高いわ」

「それも……」


 まぐれみたいなものだ。

 別に私が乙女として優れていたわけじゃない。たまたま私の強みを活かせるタイミングが回ってきただけだった。

 だけど、でも、がんばったのは本当で……お母さんたちが褒めてくれて嬉しかった。

 すると、お姉ちゃんが私の肩を突いた。


「で、で? あの黒髪の将校様がすごーく助けてくれたんでしょ? 私、知ってるんだから。そっちとはどうなの?」

「なんでお姉ちゃんが知ってるの?!」

「独自の情報網、とだけ言っておこうかな。キラナのおかげで作れたツテではあるけどね。知りたかったら、自分で当ててみて」


 そんな、バカな。

 王城内の情報知ることができて、尚且つ、お姉ちゃんと知り合いだなんて、見当もつかない。

 お姉ちゃんは腕を組み、わけ知り顔でうなずいた。


「キラナが家を出る前から、ちょっと怪しいとは思っていたのよね。殿下より彼の方をキラナは気にしてたから。進展あったの?」


 そんな風に見えていたんだ。気持ちを悟られやすいのかな。私。リシなのに、よくない癖だ。


「進展って……私はリシだから。そういうのはないよ」


 私は笑って誤魔化した。




 結婚式が終わったのは、夕方だった。

 この後は殿下とユリアの門出を祝う花火が打ち上げられるという。

 私は火薬を使った花火を見たことがないから、楽しみにしていた。火薬は貴重なのだ。

 そんな私に、ユリアが、王城内で今日の花火を見るならここ! というおすすめの場所を教えてくれた。

 一緒に見られればよかったけれど、ユリア自身は来客の接待があるから行けないらしい。

 そこは王城の南棟にあるバルコニーだった。細い階段を登った先にそれはある。

 本来は監視塔として使うための場所だけれども、普段は利用されることもなく、ただ見晴らしがいい場所として放置されている。

 花火が始まる時間まであと少し。

 ドレスが壁に付いて汚れないように気をつけながら、急いで登った。

 階段を登り切ると、踊り場に扉が一つだけあった。

 鍵は借りてきていたのだけれど、意外なことにすでに開いていた。誰か先客がいるみたいだ。

 少し入りにくいな、と思いながら扉を開いて、ほっと息をついた。

 先客はウィルだった。


「こんばんは、ウィル。ウィルも花火を見に来たの?」


 ウィルが私を振り返った。


「キラナか。この場所のこと、ユリア様にでも聞いたのか?」

「うん。ここからが一番見えるって」


 そうか、とウィルが微笑んだ。


「俺も昔、殿下に教えてもらったんだ。城に来たばかりの頃に。多分、二人で見つけた場所なんだと思う」


 私はウィルの隣に並んだ。


「ユリア、綺麗だったね。殿下も……二人とも、すごくお似合いだった」

「お似合い、か。本来、二人とも自分の気持ちで相手を選べるような立場じゃない。けど、今回は両思いだった二人が結ばれて、よかったなって俺は思うよ」


 そうなんだ。殿下は正直、恋愛的な意味では何を考えているかよくわからない人だと思っていた。でも、ウィルが言うのなら、殿下はちゃんとユリアのことが好きなんだろう。

 少しの間、会話が途切れた。

 私は言うべき言葉を探していた。

 こうやって二人で話せる機会なんて、今後、そうないはずで。

 だから、今の時間を大切にしたかった。


「そういえば、再会の約束のことだけど」

「うん」


 心なしかウィルの声に切なさが混じっている気がした。

 それはきっと私も同じだ。

 黄泉の穴での告白のことは、何となく、私たちの間で触れてはいけない話題のようになってしまった。あの告白は、黄泉に近いからこそできたことだった。現実に戻ってしまえば、とてもじゃないけれど、口にできなかった。

 でも、私たちの約束は、そもそも決闘だったはずで、その約束を守るのは許されるはずで。


「決闘はもう少し待ってほしい……会わない間にすごーく差をつけられちゃったから」

「うん」


 ウィルが穏やかな調子で答えた。

 私は努めて明るく言った。


「さあて、やるときは何を賭けようかなぁ。ただやるんじゃつまらないよね」


 ウィルがやや呆れたように言った。


「勝つ気でいるのかよ」

「当たり前でしょ! 勝てるくらい強くなってからしか、やらないから……あ! 花火!」


 一発目の花火が上がった。一つ上がると次々に花火は上がる。光の粒が濃紺の星空に散る。

 私は王妃にはなれなかった。

 今のところ、結婚の予定はない。あるとしたら、殿下が王位継承が終わった後だ。つまり、あと数年はない。

 だから、せめて、そのときまでは。

 ウィルの顔が花火に照らされる。暗紫色の瞳に黄味がかった花火の輝きが写っている。

 私たちの間には拳一つ分の距離。たとえ、この距離を埋められる日がこなかったとしても。

 できれば一緒に過ごせる時間が多くありますように。

 束の間の輝きに、私は自分の願いを託したのだった。

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