97.ルールを確認し、いざ挑むも最初の試練は幽霊の城へ……?
お嫁さんコンテスト開始直後のこと。
ルールの詳細は、ゲームステータスのように投影されるホログラム映像で各々確認できた。
杜撰な説明からは想像つかないほどルールは煩雑な内容となっており、その中でも楓華が注目したのは以下の点だ。
・コンテスト終了は開始から24時間後であり、終了の合図には鐘が鳴らされる。
・ポイントの無条件譲渡は禁止。
・無差別な攻撃行為など破壊活動は禁止。戦闘は同意があれば問題無し。
・一部施設、運営が用意したアイテム、攻略ヒントの獲得には保有ポイントが消費される。保有ポイントが0の場合、マイナスになる。
・参加プレイヤー同士で保有ポイントを対価にした取引契約、持ち物の売買は許可される。
・試練クリア時にはスタッフの評価が入り、評価次第でより高ポイントを入手できる。また、クリアせずともポイント入手は可能である。
・試練以外でもポイント獲得できる秘密の仕掛け、緊急ミッション、隠しイベントがある。
・あらゆる観点において安全は保障されており、反則と辞退以外で退場されることは無い。運営チームによる即時復活と特別アフターケア付き。
・最高のお嫁さんに相応しくない行為があった場合、即刻運営チームが介入し審問が行われます。
以上の要素に着目し、楓華は司会の言葉足らずな説明を思い出した。
「要は最初の説明通り、細かいことは気にせず積極的に挑戦しろって事だね。あとはルール検索できるから、都度確認かな。それにしても24時間なんてね。けっこう体力勝負になりそうだなぁ」
ぼやきながら楓華はヴィム達4人とグループになって歩き、ドーム会場の外へ出た。
その直後に遠い空ではミサイルの群れが飛来していたが、一筋の閃光が迸って爆物兵器が消える。
かなりの大事だが、不思議と誰も気にせずヒバナは自分の意見を述べた。
「体力回復アイテムがあるので、それを見つけて活用するのも優勝するコツになりそうですね。これ……体力というより、運と戦略の競い合いですよ」
「あとは試練内容によるね。案外、それで一発逆転って状況が起きるかも。以上のことを踏まえると、これは企画番組と大差ないね」
ルール一覧に、ポイント獲得できるイベントが発生すると明記されているあたり、これはコンテストとは名ばかりで真っ当な競い合いになることは無いだろう。
言うならば、参加者からすれば遊戯同然で、観戦者からすれば娯楽のパフォーマンスに富んでいる。
つまりフウカ達の想定より、お遊びの雰囲気が濃いコンテストになっている。
だが、モモは本気で優勝を目指している事に変わり無いため、強い口調で彼女らを急かした。
「皆さん!あれこれ考える前に、早く近場の試練へ突撃しましょう!今の私ならば、どれほど困難な試練もクリアできます!さぁ、この闘志が衰えない内に早く挑戦を!」
「わぁお、モモちゃんはやる気満々だな~。それじゃあマップ表示して、試練場を調べて~……あったわ!うんうん、リベンジに良いぞこれは!」
「よく見つけました妹弟子!けれど、リベンジ?まだ何も挑戦していないのにですか?」
モモは首を傾げつつ、楓華がノリで適当な事を言っているのだと思った。
謎の発言については普段から見受けられる出来事なので、3姉妹もモモと同じことを考えただろう。
だが、いざ試練が用意されている場所に徒歩で辿り着いたとき、3姉妹は見かけた瞬間にリベンジの意味を納得した。
「「「これかぁ~……」」」
血の繋がりが無ければ性格も大きく異なるのに、まるで三つ子同然に声がピッタリ揃っていた。
そんな反応が出るのも当然で、彼女達の前には寂れた古城が建っている。
割れた窓、血だらけの外壁、脆く風化した外観は歴史を感じさせる。
それだけならば誰も心当たりが無く、これほど3姉妹の反応が揃うことは有りえないだろう。
ただし、この古城が纏う独特な雰囲気は明らかに『幽霊の住処』だ。
眺めているだけで近寄り難くなる恐怖心を煽る意図が見える。
それによりヴィムはお化け屋敷の経験を真っ先に思い出し、恐怖体験のせいで渋った表情を浮かべていた。
「このお城、遊園地のお化け屋敷を想起させられるわね。はぁ……。私は別の所へ行こうかしら」
いくら似て非なるものだとしても、わざわざ同じような場所へ飛び込みたいと思えるわけが無い。
これは本能的な危機回避だから、前回の経験が活きていると言える。
そうして本気で忌避するヴィムに対し、楓華はフォローするつもりで彼女に寄り添いながら同調した。
「ヴィム姉が一番苦しめられていたからなぁ。でも、この前とは違って悪趣味な趣旨は無いから大丈夫!」
「そうだと良いけれども……。ところでモモはどうしたのかしら?さっきまで勇み足だったのに、急に大人しくなってしまうなんて」
その発言により全員の注目がモモへ集まった。
すると彼女の顔は誰よりも青ざめており、予想外の不調にヒバナが一番早く心配した。
「あれ、モモ氏?このタイミングで怯えるって事は、まさか……?」
もはや最後まで言葉にする必要も無く、モモの弱点が露呈している。
当然、そのことを弄る者は居ない。
それなのに彼女は無意味に虚勢を張り、親しい誰かが明言する前に慌てふためきながら捲し立てた。
「い、いいえ!違います!私は鬼族ですよ!?幽霊が怖いなんて絶対にありえません!むしろ幽霊が私を畏怖すべきです!それにいつもクールな私が、この程度で狼狽える訳がありません!断じてありえない!」
「あっははは、凄い早口と挙動。しかも言い訳を始めた理由まで説明してくれたよ」
「フウカさん、私は優秀な科学者ですよ!?墓穴を掘る真似は決してしません!」
「そっかそっか。まぁヴィム姉にも言えることだけど、どうしても嫌なら別の所へ行っても良いんじゃないかな。アタイは問答無用で体が動くタイプだから、このまま行かせて貰うよ」
楓華は周りに気を遣いながらも、1人で古城へ向かって歩き出してしまう。
その背中をミルは急ぎ足で追い掛け、次に一足遅れてヒバナも付いて行く。
2人もヴィム同様に躊躇っているはずだが、今回はグループ行動だから恐怖感は薄いのだろう。
何であれ、これによりモモとヴィムの2人は取り残されてしまう。
だが、やはり呆然と立ち尽くす方が心情的に穏やかでは居られない。
そのためヴィムは深い溜め息をこぼし、すぐさま自分自身に渇を入れた。
「妹達にも恐怖心が無いわけじゃないのに、こうして臆する自分が情けないわ。モモ、私達も行くわよ」
「うぅ。私的には、こんな早い段階で気力を消耗したくありません……」
「歩き回る方が消耗するし、何も分からない状況下で都合が良い試練を見つけ出そうとするなんて無謀だわ。それに早い内に試練の勝手を把握できれば、試練攻略に必要なアイテムが分かるはずよ」
「ヴィム師匠、つまり情報収集のつもりで挑めって事ですか?」
「モモが納得できる理由付けするなら、そうなるわね。効率重視とも言うべきかしら。ただ無理強いするつもりは無いわ。私も貴女と同じように恐れているから、その尻込みする気持ちは理解できるもの」
ヴィムは優しい言葉を言い残して、あっさりと先へ行ってしまう。
これはコンテストだから、どちらの行動も正しい選択だ。
仮に誤った判断を下しても今後の人生が大きく左右される事は決して無い。
だから挑む挑まないよりも、重要なのは自分が納得できるかどうかになる。
しかし優勝を本気で切望する気持ちを思い出せば、おのずと納得できる選択は1つに絞られた。
「待って下さいヴィム師匠!私も行きます!お、お化けなんて……何度も遭遇した危険と比べたら大した事ありませんから!怖くない!お化けなんて怖くない!」
結局モモは自らを奮起させ、闇雲に突撃する思いで走り出した。




