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93.まさかの宇宙最大規模コンテスト。なので宇宙戦艦で突撃します

翌朝。

喫茶店の前には提督爺さんの新型宇宙戦艦が停泊しており、ヒバナは見上げながら唖然とする。


「えーっと、あのフウカ氏?聞き忘れていたのですけど、コンテストの開催地ってどこですか?」


「そりゃあ宇宙最高のお嫁さんを決めるワケだからね。宇宙だよ」


「はぁ、宇宙ですか?」


あまりにも漠然としていて、1つも要領を得ないから答えになっていない。

そのせいでヒバナは戸惑い、不安な気持ちに駆られてしまう。

しかし他の3人は楓華の適当な返事には慣れているので、気にする素振りすら無く平凡な雑談を繰り広げていた。


「そういえば私、宇宙へ飛び立つのは初めての経験だわ。色々と写真に撮っておきたいわね」


「ミルも宇宙は初めて!キラキラお星さまを近くで見られるなんて楽しみ~。それも朝から見られるのは超ロマンチックだよ!」


「ロマンチックという響きは素敵ですけど、実際の宇宙は非常に危険度が高いですよ。宇宙空間に生息する怪物はグロテスクですし、フウカさんの時計に使用されている素材みたく理解の範疇を越えたモノが存在しますから」


旅行へ出発する感覚で語る長女。

ふわふわとした想像で行く先を期待する末っ子。

科学者気質を発揮して喋り倒す鬼娘。

その3人が自動階段を通じて宇宙戦艦へ乗艦して行く様を見ていると、このまま無用心で大丈夫なのかとヒバナは不安になった。


「うーん、某が心配性なだけでしょうか。コンテストの規模も不明ですし、そもそも主催がどんな人物なのやら……」


いざ当日になってから不安要素が増えてしまい、ついヒバナの脚は歩みを止めてしまう。

それに楓華は気が付き、乗艦する寸前に彼女の所へ駆け寄って手を引いた。


「あれこれ考えるのは分かるけど、アタイが居るから大丈夫だよ。少なくとも武力行使が求められる事態なんて起きないさ」


「わ、分かりました。フウカ氏の言葉を信じます」


「あぁ、信じてくれ。それでも不安が残るなら一緒に競技内容でも予想しようか。ザックリとでも心構えを作っておけば、自然と余裕も生まれってもんだろ~」


「予想ですか。そうですね……。やっぱりお嫁さんのコンテストですから、家事はあるかもしれませんね。あと子どもと遊んだり、ご近所付き合いのコミュニケーションも欠かせないと思います」


「だったらヒバナちゃんには経験ある競技が多いかもね。村の生活では人付き合いのみならず、雑用の力仕事が多いしな」


楓華の声は普段より柔らかく、寄り添った励まし方になっていた。

おそらく無意識ではあるものの、ヒバナにとって一番効果的な応援方法を実践している。

それから5人はコンテスト出場というより、既に旅行気分で乗艦して宇宙へ飛び立った。


どこを眺めても果てが見えない広大な宇宙。

その移動中も賑やかで和やかな雰囲気が続くわけだが、提督の爺さんが甲板で談笑する彼女達に声をかけてきた。


「お前ら、以前より更に親密になったみたいだな」


提督の爺さんは相変わらず声と風貌には威厳があり、歴戦の戦士らしい物腰は健在だ。

また、彼の目つきは獲物を睨みつけるような鋭さがあったが、楓華は親友と再会する態度で挨拶を交わした。


「やぁやぁ提督おじいちゃん!元気だった~?」


「トラブルに巻き込まれてばっかりだが、体は元気だ。勘と腕も鈍って無い。フウカお嬢ちゃんは……こちらの世界に馴れたみてぇだな?」


「あの時に比べたらね。それにしても今日はありがとうな!まさか運び役になってくれるなんてさ!やっぱ提督おじいちゃんは器が大きい!」


「下手に褒めなくても良い。まだ俺様には、あの野郎の忘れ形見を心配する役目があるからな」


「忘れ形見って、アタイのお嫁ちゃん達のことか」


「お嫁だと?お前、まだ恐い事を言っているんだな」


提督の爺さんは顔を軽く引きつらせ、冗談を受けきれない反応を見せた。

きっと彼は、楓華が初対面時の妄言を言い張り続けているのだと思っている。

しかし楓華は近くに居たヒバナとミルの手を引き、抱き寄せて証明する。


「いいや、よく見てよ!ヒバナちゃんの薬指には指輪があるでしょ!」


「マジかよ。あぁマジだ」


「あと、ほら!ミルちゃんも言ってあげて!」


そう彼女が促すと、ミルは喜々とした顔で楓華に抱き付きながら説明した。


「ミルはフウカお姉様の婚約者になったよ!フウカお姉様大好き!愛してる!」


「はぁ?おいおい、俺様からしたら洗脳でも受けたようにしか思えねーな。性格が変わっているぞ」


「もう、ミルは成長期だから性格くらい変わるってば!そして愛は人を成長させる!あとミルはフウカお姉様を妊娠……」


もはや何度目か分からない爆弾発言をミルは言いかけるが、さすがに提督の爺さん相手では心臓に悪いだろう。

それをヒバナが事前に察知して、無理にテンションを上げながら大声で遮った。


「はいはーい!某がフウカ氏と婚約したのは本当です!あと某達の生活も色々と変わったんですよ!どれだけ時間があっても語り尽くせないほどです!ね、フウカ氏?」


「そうだな~。ヴィム姉の巨乳に(ちな)んで、2つの大きな山にヴィム火山って名付けたりね」


「やっぱりフウカ氏は口を閉じておいて下さい!あ、あとおじいちゃんが遺してくれた道場……今はミル道場って名前になったのですけど、村の交通や利便性が改善されて入門希望者が増えています!」


「えっ、マジ?道場の名前や新しい入門希望者とか、アタイは初耳なんだけど」


「あと弟子のモモ氏の研究に、コピー氏という魔術師の新しい助手が増えました!ヴィムお姉ちゃんはスポンサーのおかげで写真館を建てる計画を進めていますし、チェーン店とのコラボメニュー開発で喫茶店の知名度も上がっています!」


「わぁお、それもどれもアタイは初耳だ。みんな、やる事はやってんだなー」


ヒバナは提督の爺さんに報告しているはずなのに、楓華にとっても新情報ばかりの雑談タイムとなっていた。

どれも初めて知ったと言ってしまうあたり、同じ屋根の下に住んでいるとは思えないくらい、家族間の情報伝達が疎いように見受けられる。

そのせいで提督は彼女達の関係性を怪しみ、ごく自然な感想が口から出てきた。


「お前ら……本当に仲良くやれているのかよ?」


「もちろんです。ただフウカ氏は忙しい身ですからね。それなのに用事があることを教えると、すぐに協力しようと張り切っちゃうんです」


「なるほどな。それは俺様でも想像がつく。そうか。お前らなりの心得ってことか」


提督が納得すると共に、楓華も似た反応で感心していた。

しかも楓華本人は複雑な感想やら思う所も無いらしく、わざと秘密にされた事に対する疎外感も全く抱いて無い。

むしろ親身に気遣われているんだなぁと好意的に捉えて、嬉しそうにヒバナに抱き付いた。


「みんな優しいなぁ~!そんなに気遣ってくれるなんてさ!でも、アタイ的にはもっと甘えてくれた方が幸せな気分になれるぞ~!」


「某達は、もう充分すぎるほどフウカ氏に依存していますよ。それによく考えてみて下さい。一方的に頼るより、支え合う方が理想的な家族関係だと思いませんか?」


「おぉ、凄い説得力だ。確かに、どうせなら理想的な形を目指すべきだよね。いいねいいね~」


楓華は浮かれていて、もはや何も考えずに応えていることが提督は分かっていた。

そういう部分でもこの世界に染まったと思い、彼は口元を緩める。


「その愉快さは相変わらずだな。そういえばお嫁コンテストとやらについてだが、俺様の方で勝手に調査しておいた。結果だけ言うなら、コンテストの規模は信じられないほど大きい」


その言葉にミルが反応して受け答えした。


「つまり、それだけ大勢の人にミルが立派で美人なお嫁さんだって真実が知れ渡るの?」


「そうだな。全宇宙配信と中継。そして優勝者の顔やサイン入りのグッズ展開、あとCM起用やイメージガールにしたり……扱いが超有名な芸能人みたいになるらしい。要するに、宇宙最高のお嫁さんって肩書きが本当に付く」


「それだったら、ミル達の誰かが優勝すればフウカ村の宣伝にもなるねー」


「もっと次元が高い話だと思うが、一応そうなるな。ちなみに俺様の友人である店長も一枚噛んでいるから、誇張や嘘って可能性は100%無い。マジで宇宙最高を決めるコンテストだ」


人生経験が豊富で様々な場面に遭遇した提督が力強く断言する。

ここまで言われてしまうと、増々コンテストがどうなるのか予測がつかなくなってしまうものだ。

だからヒバナが再び不安を覚えるが、楓華達は優勝する目的が更に増えたと呑気に喜んでいた。


そうして順調に航路を経て、ついに宇宙戦艦はコンテスト会場へ到着する。

しかし、会場は巨大惑星そのものであり、楓華が前に参加した魔王の誕生日パーティーとは比較にならないほど盛大で華やかな状況となっていた。

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