91.ある日の喫茶店で大会へ出場することが決定しました
ある日の午後。
フウカ村の喫茶店には、楓華と鬼娘モモ、それから3姉妹という馴染みのメンバーが集まっていた。
どうやら今はのんびりとした時間を過ごしつつ、それぞれ近況報告している最中のようだ。
また閉店中で他に人が居ないため、5人が同じ卓の席へ着けるように2台のテーブルを連結させている。
そうして彼女らがテーブルを囲む中、まずモモが携帯できるほど小さな箱を取り出してみせた。
「フウカさん、懐中時計をお返し致します」
少女が箱のフタを開けると、その中には厚布で丁寧に梱包された楓華の懐中時計が保管されていた。
それを楓華自らが手に取り、細部まで美しく輝いている緻密な装飾模様を眺めた。
「おぉ、綺麗になってる!ピカピカじゃん!」
「研究ついでに掃除しておきました」
「ありがとー、モモちゃんは気が利くねぇ。それで発明とか、そういう研究に役に立てそうな発見できた?」
「思わず唸るほど素晴らしい発見はありましたが、知って理解するほど難解な装置ですね。きっと私の手元に同様の素材があったとしても再現は不可能です。その時計、生きていますしね」
「つまり一点物か~。それじゃあ大事にしないとな。せっかく姉弟子が磨いてくれたワケだし」
楓華は呑気に言いながら、無意識の手遊びで懐中時計を軽く振り回す。
もう既にあまり大事にしていないとモモが思う一方、次女ヒバナが優しい微笑みを浮かべて喜んでいた。
「何がともあれ、こうしてフウカ氏の私物が無事に戻ってきて良かったです。安心しました」
「ヒバナちゃんが一番気にしていて、腕時計をプレゼントしてくれるくらいだったからね。おっと、当然こっちも一点物だから一生大事にするよ!」
そう言って楓華は問題なく作動している腕時計を、アピールするように片腕を突き出してみんなに見せつけた。
そんな彼女の自慢する振る舞いにヒバナは照れ臭さを覚えるものの、同時に小さな喜びと満足感を抱いて幸せな気分になる。
するとミルは楓華の誇らしげな表情に過剰反応を示し、少し声を荒げてテーブルへ身を乗り出した。
「ミルも!ミルも一生大事にされたい!ううん、フウカお姉様に大事にされる贈り物をあげたいよ!例えば……手作りのぬいぐるみとか!」
「へぇ?ミルちゃんって裁縫が得意だったんだ。初めて知ったなぁ」
「ま、まだ練習中……。でも、いつかフウカお姉様にマフラーを編んだりしたいと思って……」
まだまだ口先だけの腕前だとミルは自覚しているらしく、すぐに威勢を失って恥ずかしそうに口ごもる。
しかし、楓華は心の底から幼い少女の頑張りを褒め称えた。
「誰かのためと思って練習できるなんて、凄く前向きで良い志じゃないか!さすがミルちゃん!アタイより、よっぽど努力家だ!うん、完成が待ち遠しいな!」
「うぅ~、フウカってば~……!そんな完成する前から褒められても困る~!」
ミルは軽く反発した言葉を口にするが、その声色と顔は露骨を通り越しているレベルでにやけていた。
敬愛している人物から肯定されて期待まで寄せられたら、つい舞い上がるのは当然の反応だろう。
ただ楓華はそんな彼女の気持ちに気づかず、更なる褒め殺しを仕掛けてしまう。
「照れちゃってカワイイなぁ。こんなにカワイイお嫁さんんが居るなんてアタイは幸せ者だよ。アタイも、ミルちゃんのために何か習い事でも始めないとね」
「かふっ!!?」
楓華がウインクした途端、ミルは苦しそうな嗚咽を漏らして固まる。
おそらく既に限界状態だった所にトドメを刺されたのだろう。
そのまま意識が心地良い夢の世界へ飛び立ってしまったミルを横目に、ヒバナが困った顔で呟いた。
「もはや持病の発作ですよね。妹が昇天する様を1日1回は見届けている気がします」
「アタイが知る限り、1日3回くらいは発作を起こしているんじゃないか?その内でも夜一緒に寝るときは、必ず呻き声をあげて気絶しているね」
「うーん。1人の姉として、ミルの将来が心配ですよ。今はまだしっかり者ですけど……」
いつかミルが特殊な趣味や性癖に目覚めて夢中になってしまうかもしれないと、ヒバナは本気で心配し始めた。
ただし、それがいつものヒバナの杞憂だと長女ヴィムは知っているため、大して気にせず村についての話題へすり替えた。
「ところで、村も一気に安定したわよね。前のミファちゃん……だったかしら。その子のライブの影響で多くのスポンサー企業がついたわ。まさに嬉しい誤算ね」
よほど村の財政状況等が好転したのか、ヴィムは柔らかい表情となっていた。
声も明るく弾んでいる。
それに楓華が反応し、楽しそうな態度で応えた。
「お客さんとして来ていた役員達が申し出てくれたんだっけ。なんでも、ライブ中に魔王が吹き飛んだのが大ウケしたみたい。魔族らしい価値観というか、不思議な理由で気に入ってくれたよなぁ」
「どういう理由であれ、他の大陸とのパイプを得られたのは大きいわ。そして今となっては、武術大会の賞金を目当てにする必要も無くなったわね」
「あぁ、そのことね。明日の朝に出場することは決まっているよ」
「はい?」
「アタイと姉妹全員。ついでにモモちゃんもね。既に申し込み済みで、運営からの案内連絡も来てる。ほら」
そう言いながら楓華は1枚の紙をテーブルの上へ置く。
見れば紙面には大会のことが長文で記載されており、確かに出場メンバーとして5人全員の名前が書かれていた。
この事態にヴィム達は目を丸くする他なく、色々と言いたいことが湧き上がりすぎて上手く喋れなくなってしまう。




