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90.最後は盛大にライブステージを!だけど鬼娘モモは病欠です

突然の団体客で喫茶店は満員状態になってしまったものの、お客さん達は落ち着いて楽しんでくれていた。

思えば早朝から長距離移動した末の到着なので、なんてことない喫茶店が気分的にちょうど良かったのかもしれない。

ただ、なぜかミファと魔術師コピーも店員として手伝っており、戻って来た楓華はその2人と上手く連携を取っていた。


「ミファちゃん。このドリンクをお客さんの前でラブラブビームね」


「あれ?フウカちゃんのお店って、そういうサービスもしているの?そういうの得意だから喜んでするけど」


「コピー。アナタは魔法で空いた食器や汚れ、ゴミを片づけて」


「ふん。長年の研究を経た魔法が、こんな無様な扱いを受けるなんてな。今更、君相手に文句を言うつもりは無いが」


コピーが気取ると、ミファが彼の耳に小声で何か囁く。

その直後、コピーは撃沈したように赤面し、恥ずかしそうに肩を震わせながら楓華の指示通り魔法を行使する。

きっとクリティカルヒットする言葉を投げかけたらしいが、楓華はその内容が思いつかなくてミファに訊いた。


「何を言ったの?」


「ミファ様特性の呪文かな。その高尚な魔法で性欲を満たしていた癖に、みたいな」


包み隠さず教えるものだから、コピーは堪らずミファを睨みつける。

しかし、何も言い返せないようで結局は仕事を進めてくれた。

一方で3姉妹は慌ただしく接客に追われながら、ちょっとした寂しさを覚えていた。

特に末っ子ミルが不満気な様子であり、悲しみある声で呟く。


「分かっていた事だけど、フウカお姉様ってば仲良い友達をすぐに作るよね。そのせいでミルの存在価値だったり特別感が薄れちゃうよ。前に道場へ来てくれたクロスやリールの時もそうだったし」


そうミルが不貞腐れ気味に言うと、ヒバナが気遣いで反応してくれる。


「心配しなくても大丈夫ですよ。フウカ氏はミルのことを大切に想っています」


「それはそうかもしれないけど……うぅ~!モヤモヤする~!いいもん!今日の夜、死ぬまでフウカお姉様と一緒に寝るから!」


「それって永眠じゃないですか……」


すっかり緊張感が抜け、楓華が帰って来た実感により本調子と大差ない会話内容だ。

だが、今日のお客さん達が重要人物である事には変わりないため、すかさずヴィムは注意した。


「ちょっとミル、嫉妬するのは後にしなさい。逆にヒバナはミファちゃん達に対抗心を燃やして、もう少し張り切りなさい」


「「はいヴィムお姉ちゃん~!」」


2人の妹は意気込んだ返事をするなり、軽快な足取りで仕事を続ける。

そんな最中、楓華は調理を進めるヴィムに声をかけた。


「ごめん。アタイちょっと外へ行くよ。ミファちゃんのライブ準備を進めないといけないから」


「分かったわ。もし人手が必要になったら遠慮なく言ってちょうだい」


「あっははは、ヴィム姉の方もね。それじゃあ」


お互い笑顔で言葉を交わし、見送り合う。

そして楓華が早足で外に出たとき、赤髪の男性と銀髪の男性がライブステージの設営を始めていた。

赤髪の男性は魔王ユリジロウだ。

そのため楓華は少し驚いて呼びかけた。


「魔王?店内に居ないとは思ったけど、何をしているの?」


「我はミファ様の信者ファンだからな。ミファ様のため、そして最高のライブにするため尽力するのは当然の義務だ」


「凄い言い分だね。で、銀髪の人は誰?」


その言葉に魔王は目を丸くする。

同じくして銀髪の男性も彼女の発言に驚き戸惑い、ドラゴンの尻尾と羽を出現させて存在をアピールしながら喋った。


「そんな馬鹿な。昨日のパーティーでも、この姿で居合わせていただろう。白銀の竜のマイケルだ」


「マイケルって……あぁ、人の姿に変身できるんだ」


「ふふふっ、今更にも程があるな。しかし、それも愉快だから悪い気はしない」


「マイケルは寛容だねー。しかも、こうして手伝ってくれるなんて優しすぎるよ」


「友を助ける事でしか得られないモノあるからな。そして協力するのも良き思い出となる。それならば共に労力を費やすことは素晴らしき出来事だろう?」


「あっはははは!それはアタイも同感だ!アタイも、あの姉妹のためならと思ったら同じ気持ちになるよ。だから、どんなに大変でも楽しく頑張れる!」


楓華は明るい笑顔を自然と浮かべ、自身の立派な志を吉報みたく嬉々として語る。

おそらく彼女にとって、誰かのために頑張ること自体が無性に楽しくて仕方ないのだろう。

そして苦に感じた事すら無いから、その行動力と精神力を彼女は特別に誇ったりしない。

その高潔な魂を宿した姿に魔王とマイケルの2人は心当たりがあり、それぞれ聞き覚えが無い名前を呟いた。


「ふむ、ルリと同じだな」


「ラムネ殿と同じだ」


それは単なる独り言であるため、楓華はあまり気に留めずステージ設営に取り掛かった。

魔王の能力とイベント経験、龍神マイケルの能力、楓華の高い身体能力とアイデア力があれば、作業はあっという間だ。

ほんの十数分足らずで準備万端となり、3人はライブ演出用のギミックを確認する。


「見ろ楓華。ここから我のミファ様に対するラブ&応援メッセージが空へ打ち上がるぞ」


「うん、却下。普通の花火に取り換えて」


「フウカ殿。これはどうだ?龍神の威厳を示すべく、サビへ突入したとき酒が火山の如く噴出する」


「この酒呑みドラゴンめ。ミファちゃんは花に思い入れがあるみたいだから、そっちに変えようか」


準備万端だったはずなのに、やはり修正や調整に追われてしまうのは自由気ままの化身が集った結果だ。

だが、その変更が済む前に店内に居た全員が出て来てしまう。

それを扇動したのは主役となるミファ本人であり、なぜか合図を待たずにステージへ駆けあがった。


「へっ?ミファちゃん?」


「よぉしゃあ~!みんな盛り上がっているかい~!?気分は最高だろぉ~!?おりゃりゃりゃあ~!!にゃははぅのにゃっは~!!」


いつになく粗暴な喋り方になっていて、もはやトチ狂っているレベルへ片足を突っ込んでいる。

この訳の分からない事態に楓華は焦燥感を抱きつつ、活力が失われた顔をしているヴィム達の方へ走り寄った。


「ちょっと!ミファちゃんのテンションおかしいよ!?」


「仕事の合間で水分補給したとき、誤ってお酒を飲んでしまったわ。それも性格が逆転する効能の『鬼病(おにやまい)』ってお酒よ」


「マジ?これ収拾がつくのかな」


「もう流れに身を任せましょう。もし色々と問題が起きて村が消えることになったら、もう運命として受け入れる覚悟は決まっているわ」


「ヴィム姉の目が……いや、ヒバナちゃんとミルちゃんの目まで死んでる……!!?待って諦めないで!これはタイミングを見計らって、アタイ達もステージ参戦すれば軌道修正できるはずだから!」


「そう。でも、既にステージでストリップショーが始まっているわ」


「それはマジでマズイ!ミファちゃんの経歴にも良くない!行かなきゃ!ちょっと魔王!邪魔しようとしないで!うわぁあぁああああフェーズ(スリー)・ブースト(サウザンド)ぉおおおおおおお!!!」


いくら楽観的で能天気な楓華でも取り返しのつかない事態には強烈な危機感を抱き、全身全霊で打開する行動へ出た。

そして最終的には魔王が応援メッセージの花火で空高く吹き飛ぶ被害を受け、なぜか全員からは盛大な拍手喝采が巻き起きるのだった。


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