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88.魔王のホームパーティーで夜を過ごす

オークションを終えた夜。

ユリユリ合衆国の首都は月に照らされており、夜行性の魔物たちが活発に活動している。

本来ならば、モモや楓華は就寝している時間帯だ。

しかし今夜は大人しく眠る気が無いようで、魔王城(ホワイトハウス)の屋上テラスで開かれているホームパーティーに参加していた。

ただ、楓華とモモはパーティーを楽しまずに、魔王の指導を受けながら夜景の絵を描いている。


「上手だ2人とも。よし、そこで奥行ある色合いを()せたいのならば配色は……。マイケル。すまないが照明を頼む」


魔王がそう頼むと、マイケルと呼ばれた銀髪の男性はだらけた姿勢のまま白銀の火を静かに吐く。

すると小さな白銀の火球がモモ達を囲むように浮遊し、絵を描くのに充分な照明が確保されるのだった。


「助かる。それでモモが望む通りの表現をするなら、ここは色を重ねるといい。大丈夫だ、我の下書きは気にするな。技術職で都度(つど)調整するのは、ままあることだ。完成時に全体のバランスが崩れていても、それは己のセンスだと胸を張れ」


魔王は彼女ら2人にプロに相応しい技術力と感性を求めてないため、個性を伸ばす方向性で教えていた。

同時に優れている点を見出し、前向きな感想を送った。


「モモは線が的確で、街並みのディテールまで端麗だな。この(こな)れた描き方からして、図形の(たぐい)を頻繁に描いているだろう」


「仕事(がら)よく設計図や完成図を描いています。しかし、よく分かりましたね?」


「魔王としての立場上、様々な職人と携わるからな。楓華も基本を押さえている。そちらは風景画より人物画の方が得意みたいだな」


魔王は会話の流れで楓華の方も褒めた。

だが、彼女は急に項垂(うなだ)れて大きな溜め息を吐くのだった。


「はぁ~……」


「フウカさん、どうかしましたか?あからさまに落ち込むなんて珍しいですよ」


「いやぁ、いくらアタイでも新しい借金を抱えたら落ち込むよ。まさかお絵描き道具一式を自腹で購入する羽目になるなんてね」


「借金については、なぜか魔王さんが肩代わりしてくれましたけどね」


「この国で偉い人、しかも誕生日に肩代わりさせてしまうって凄く申し訳が立たないよ。更に私が描いた絵でチャラにするって……意外にお人好し。あと何よりも!一番重要だった絵を手に入れられなかった事が超ショック!」


「私の方は……まぁ手持ち不足だったので仕方ない話です。でも、いいんです。こうしてフウカさんが提案してくれた通り、代わりに私が描いた絵をプレゼントする事にしましたから」


実は2人が絵を描いているのは、しっかりと目的と意味があってのことだった。

楓華の方は、落札額を気前よく肩代わりしてくれた魔王にプレゼントするため。

一方モモは姉に誕生日プレゼントするためだ。

そして2人とも気晴らしで描いているわけでは無いからこそ、気負う勢いで熱心に取り組んでいる。

そんなお絵描きに時間を費やす2人の姿を、ミファはお酒が入ったグラスを片手に眺めていた。


「いいね~。誰かのために頑張っている姿って、ミファ様は大好物だぞ~」


ほろ酔い状態へ突入しているらしく、ミファの顔が(かす)かに火照(ほて)っている。

また、ほど良く高揚している影響でグラスをマイクに見立てて鼻歌を奏で始めた。


「みふぁみふぁ~、みぃ~ふぁ~あん~。にゃっはぁ~ポ~ン~」


どことなく気が抜けていると共に、どうしようもなく楽しいという愉快な気分が自然と伝わってきた。

しかも怪盗姿でも無いのに奇術を披露しており、色とりどりの花びらを空へ撒き散らしている。


それでいて美しい夜空に見合ったアカペラを続けるため、よほど優れた感性と高い歌唱力が彼女には備わっているようだ。

そんな楽しく歌うミファの様子を、実は無理やりパーティーへ連行された魔術師コピーは見ていた。

ただ彼は今の状況を不快だとは思っておらず、むしろ(した)しみある物腰で彼女を称賛した。


「君って意外に歌唱力があるんだな。無駄に美声だ。いつも能天気だから、もっとエンターテインメント性に寄った一発芸人の方だと思っていた」


「はえぇ~?それは失礼じゃないか~?このミファ様はそこそこ知名度あって、レギュラーリポーターも任される実力派女優なんだが~?」


「その割には喋り方がオタクっぽいノリだな」


「それはあなたの勝手な女優アイドル像でしょ。それに知ってるか~?世界一有名なアイドル……ミファ様のライバルであるアカネちゃんは、すごく自堕落な子なんだぞ~?」


ミファがとあるアイドルのことを暴露した途端、意外にもコピーは血相を変えて必死に言い返した。


「そんな馬鹿な……。この僕ですらアカネちゃんを知っている。あの子は清純で可憐な完璧アイドルだ!」


「おぉ……。そっちこそ急に厄介オタクになるね?」


「失礼だな。厄介オタクじゃなく、ただのファンだ。そこは決して間違えるな。他のアカネちゃんファンにも失礼だ」


「主語を大きくして隙を与えない価値観の押し付け……。うーん?フウカちゃんの言葉通り、あなたからは人付き合い経験が少ない気質を感じられるかも。思えば、あなたの部屋もアレだったしね」


ミファが言っているのは、コピーの隠れ家で目撃した数々の部屋のことだ。

そこでは等身大の人形で好きなシチュエーションを再現している部屋があったので、長らく自分の世界に没頭していたことが分かる。

そんな彼を気遣う意図はあまり無いが、ミファは突発的に大声で誘った。


「そうだ!この後ミファ様はフウカ村に行くつもりだから、コピーも付いて来なよ!必ず良い刺激になるぞ!」


「唐突になんだ?しかも別に田舎なんて……と普段なら答えるところだが、彼女の村だと聞いたら興味が湧くな」


「ちなみに、そこでミファ様はゲリラライブを開催する!そういう約束を前にフウカちゃんと交わしていたからね!」


「そうか。君の歌にも興味はある。せっかく誘ってもらった以上、ここは行くべきなんだろうな」


「なんだ、その冷めた言い方は~。そこは、うっひょ~!こりゃあたまんねぇぜ!絶対に行きマンモス!って答えなよ!気持ちを上げれば、それだけ楽しく熱中できるから!」


「僕には分からない理屈だ。何も共感できないし、そうしたいと思えない。だが……、そうだな。素直に騙されるのも、生き方を変えるのには大切な経験かもな」


結局、あれこれ言って気取った受け答えをするなぁとミファは思うが、それも相手の素顔なのだと解釈して受け入れた。

それから彼女は「頑張って絵を描いている友達のためにも、応援歌となるイメージソングを歌うぞ!君は合いの手ね!」という突発的な思いつきにコピーを巻き込み、彼の手を力強く引いた。

そしてミファは楓華とモモの集中を散らすほど盛大に歌い、パーティーを馬鹿騒ぎで盛り上げるのだった。

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