84.楓華の飛びっきりの実力
※とある桁数の漢字が制限に引っ掛かるため、『ジョ』というカタカナ表記になっています。
魔術師コピーは次元の狭間に身を潜めながら、状態異常を受けた自身と手下の回復に専念していた。
当然、その間も彼女ら2人の行動を監視しており、楓華が懐中時計を受け取ったところを視認している。
それによりコピーは、防犯ブザーに引き続き相手が道具を使用しようとしている、と考えて注視した。
「今度は時計か。あのタイプのマジックアイテムは時間系統の効果が定番だが……、この空間では無意味だ。先ほど防犯ブザーが放った魔女の呪いも対策を施した」
それでも楓華という人物は予測不能な側面が色濃いため、油断できない。
だからコピーは彼女から意識を一瞬も逸らさず、一挙一動を見逃さないよう最大限に集中した。
つまり全力かつ万全に迎え撃つ準備を整えていたわけだが、その段階を凌駕してしまうのが戦闘状態の楓華だ。
「うん……?なにが、何だって?」
コピーは曖昧な言葉を発する。
しかし実は彼が呆然とした声を発する前に、強力無比の軍団は無惨な姿へ変り果てていた。
いつ攻撃を受けたのか、さっぱり見当がつかない。
時間を止められていたと思う他ないほど早く、まとめて処理された。
しかも肉片すら残らず、塵らしき物体が僅かに舞うばかりだ。
他に分かりやすい変化と言えば、楓華の立ち位置が別の場所へ移動している事くらいだ。
この不可解な現状にコピーが困惑する一方、彼の手下を蹴散らした楓華は今更ながら準備運動を始めた。
「アタイは遊びに来たワケじゃないんだ。このまま終わらせるよ」
彼女は平常時と変わりない態度だが、コピーからすれば超常現象の渦中だ。
そのせいで彼は切羽詰まった思いを隠さず、反抗的に叫ぶ。
「つまらない冗談だ!どうせ小細工だろ!」
怒気が込められた声色と共に、新しい手下が1体のみ召喚される。
それは今まで見かけてきた巨大生物より遥かに大きい巨体の怪人であり、尚且つ全身がマジックアイテム等の装備で固められていた。
また、その巨人の立ち姿だけで神話生物に匹敵する怪物なのは一目瞭然だ。
それでいて見た目以上の実力を秘めているらしく、コピーは高々と喋り出した。
「コイツはスキルや魔法などの大技を使わずとも、惑星を粉砕できる力がある!当然、あらゆる耐性も備わっている!いくら順応の力があっても容易に対応できる相手じゃないぞ!」
「おっけー。要するにアンタの奥の手ってワケだ」
「ずいぶんと楽観的だな!面白いが、甘い!ここから一点集中の超強化を施す!神魔法・全知全能なる万能進化の神髄!」
「ブースト・Ⅴ」
楓華の懐中時計の長針が動いた直後、魔法強化を受けたフルアーマーの巨人はうつ伏せの姿勢で平伏した。
更に巨人は全身に途方も無い圧力が掛かっているようで、軋む音が鈍く鳴っていた。
巨人が圧力に抵抗して立ち上がろうとしているのは間違い無いが、それ以上の負荷により押し潰されかけている。
これに相手は驚くものの、同時に楓華の能力を察した。
「これは念動力か!?そうか、凄まじい出力で自身の力を増幅させて……!」
「賢そうに話している最中に悪いけど、この力は副産物だ。アタイの本質は変わらない。ブースト・VI」
それから楓華は力を更に底上げし、巨人の頭を軽々と蹴り上げるだけでマジックアイテム諸共粉砕した。
そして根本から異なる生命体だったらしく、吹き飛んだ頭からは血肉では無く光り輝く粒子が飛び散った。
「なっ!?」
これほどあっという間に自慢の手下が死んだことは、コピーにとって大きなショックだ。
そのため、唖然とした表情のまま完全に言葉を失う。
その隙に楓華は相手の居場所を探知しており、高速移動しながら次元の壁を素手で突き抜いた。
「ブースト・IX」
楓華は一気に6から9へ引き上げているが、実際は数値が1つ増えるだけで能力が飛躍的に上昇している。
そのせいで、もはや彼女の実力がどれくらいなのか推察するのが馬鹿らしくなるレベルだ。
事実、こうして次元の壁が障子と大差ない感覚で容易く破ってしまう。
そんな底知れない彼女にコピーは首元を掴まれ、同じ異空間へ引きずり出された。
「なるほどね。別の異空間に隠れながら見ていたのか。どおりで正確な位置を特定できなかったワケだよ」
楓華はそのまま相手を足元へ叩きつけようとする。
だが、コピーは首元を掴まれているのにも関わらず薄っすらと微笑み、悠長に喋り出した。
「肌身で触れて、ようやく理解できた。1つの数字が増える度に、君の能力は4000倍ほど向上している。そして、それは身体能力以外も同様で、順応の速度と効果も大きく跳ね上がっている」
仮に楓華のステータス数値を1という数字で表したとき、『ブースト・Ⅰ』の時点で能力は4000になる。
そして『ブースト・Ⅱ』へ上げれば、そこから更に4000倍で数値は16000へ達する。
つまり今は『ブースト・IX』へ引き上げているため、通常時から4000⁹で、2溝6421穣4400ジョ倍の強さになってしまう。
この見立てはコピーの推測に過ぎないため、正確な数値だとは断言できない。
しかし何であれ、元から彼女の能力が高水準の能力であることを踏まえたとき、実際は更に膨大で理不尽な数値になってしまっている事だろう。
「へぇ。よく分からないけど、わざわざ計算でもしたのかい?」
「あらゆる分野において、仮説と分析は基本だ。そして理解した今、断言しよう!やはり君は天才魔術師の僕に勝てない!絶対にな!」
「アンタは陳腐なお喋りが好きなんだね。ブースト・XⅢ」
楓華は加減知らずに力を引き上げる。
だが、引き上げた直後にコピーは彼女の手を素早く振り払った。
同時にビームらしき極大の光線魔法が至近距離で放たれ、楓華の体を勢いよく吹き飛ばす。
「チッ。ブースト・XX」
彼女は凄まじい速度で吹き飛ばされる最中、より強力な力で魔法を強引に打破する。
それから楓華が華麗に受け身を取ったとき、周囲の光景が一変している事に気が付いた。
「廃墟?」
彼女が軽く見渡した範囲内には朽ち果てた高層ビルが乱立しており、どの建造物も植物や土埃が浸食していた。
あまりにも唐突な変化であり、荒れ果てた街へテレポートで飛ばされてしまったのかと疑いたくなる。
しかし、真上を見上げれば歪んだ色合いの空が広がっているので、まだ同じ異空間内という事は感覚で理解できた。
「場所自体は変わってない。となれば幻覚か、色々とリアル過ぎるから出現させたのか」
長い年月の経過を感じさせる空気と光景を体験し、楓華は少しだけ混乱する。
そんな静寂に包まれる廃墟街の中、コピーが魔法粒子を纏いながら舞い降りてきた。




