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82.ミファ様、もとい怪盗シドレ様は隠れ家で好き勝手する

楓華と魔術師コピーが激闘を繰り広げる一方、ミファは自前のマジックアイテムを使用することでタキシード姿へ変身していた。

ただし、タキシードと言ってもスカートを穿()いている上、靴はハイヒールなので舞台衣装の印象を受ける。

事実、本人も役になりきったように1人でポーズを決め、高々と自己紹介した。


「ある時はスーパーアイドルのミファ様!またある時は一般ゲーマーのソラ様!そして、またある時は怪盗シドレ様がここに登場!にゃっはっはっはっは~!」


ミファは愉快そうに怪盗シドレ様と名乗りつつ、滑らかな手つきで手元へステッキを出現させた。

それから、わざわざ踊るステップを踏みながら見栄え良くステッキをクルクルと回転させた後、足元を軽く叩いた。


「相手が魔法を使うなら、シドレ様は奇術を使わせて貰うぞ!にゃっはポン!」


あまりにも独特な掛け声であり、もはや意味不明な鳴き声だ。

しかし、そんな緊迫とした状況を茶化す振る舞いに反して、彼女が披露する奇術は意外にも一流だ。

ミファの足元を駆け巡る魔法粒子は彩りある花へ変貌し、素人でも魔力の流れを視認できるようになる。

それどころか循環する粒子は乱れ、一部では花が詰まってしまう始末だった。


「アイドルもゲームもぉ!そして怪盗も芸を魅せてこそ光り輝く!シ~ド~レ~さ~ま~のお宝発見技能は宇宙ナンバーワン!イリュージョン~トリック~マジックマジックぅ!」


ミファは陽気に歌うことで自身を鼓舞した。

一見すると大げさな発声も相まって無駄にしか思えないが、彼女に限って欠かせない準備だ。

なぜなら彼女はテンション次第でステータスや技の精度が変動するという、癖が強い体質を生まれつき備えている。

また、そのテンションも高ければ良いわけでは無く、適切な精神状態を保たなければならない。


それだけでも充分に厄介な体質だと言い切れるだろう。

だが、それより最大の難点なのは、肝心のミファ自身はそこまで意識して調子を整えようとする気が無いところだ。

なにせ楓華と同じく気まぐれな性根。

よって本人含め、誰も彼女の限界を知る者は存在しない。


「いくぞ~!シドレ様のお宝スキャンショー!It'sシークレットがオープン!」


彼女は中身が空っぽのことを言いつつ、ステッキの先端で花が積み重なっている箇所を打つ。

するとステッキは視認不可能な穴に差し込まれ、ミファの奇術が更に内部へ伝わる通り道が確保された。


「にゃっは♪」


薄っすらと浮かべられる小悪魔な笑み。

ずっと能天気だった様子とは少し異なっており、成功の確信を得た表情だ。

加えて、彼女が突いた場所には小さな亀裂が入り、やがて空間の穴がぽっかりと開いてしまうのだった。


「完璧な造りだからこそ、綻びが出たら脆いってね。ってか、相変わらず魔法学術は科学みたいに安全装置を備え付けられないんだね~。おかげ様で突破した後は心配()らずだ」


それからミファは大して警戒せず、慣れた素振りで穴の中へ飛び込んだ。

初見の異空間である以上、あらゆるモノが未知で予測不能のはず。

それでも即断即決で先へ行こうとするあたり、無謀な度胸と並外れた勇気の両方を兼ね備えてしまっているのだろう。


そのせいなのか、穴の中が大量の放電や火焔に包まれた空間だったのにも関わらず、彼女は余裕ある表情のまま長いトンネルを滑り落ちていった。

更に見慣れない現象や光景をアトラクション気分で楽しみ、無邪気に笑う。


「にゃっはっはっはっは~」


そうして最後は多彩な発光を放つ穴を通り抜け、ようやく魔法の異空間から脱出を果たすのだった。

ただし、彼女が到着した先は壮大な異空間とは打って変わり、散らかり放題の薄暗い室内だ。

また、散らかっているのは盗品のみならず、生活用品や使い古されたガラクタ、魔法学術に関する書物と道具が無造作に積み重ねられている。


「うっわ、薬品クッサ~。こんなジメジメした所に長居したら、シドレ様のお洋服に臭いが染み付いちゃうよ」


ミファは生活感が溢れる部屋に文句をこぼしつつ、1人で探索を進めた。

どうやら、この隠れ家は他者を歓迎することは想定されてないらしい。

侵入者対策は皆無であり、他の部屋へ行くことが容易だった。

その中で学校を再現した部屋を発見した上、雑に保管されているコピーの私物が目についた。


「なにこれ?ホムンクルス……いいや、精巧なドールか。いくつもあるし、服も取り揃えているから着せ替えが好きなのかな。しかも、狭いながらも教室とか再現していて……おぉ、台本まで書いてある」


好奇心旺盛のミファは悪い癖で余計な詮索をしてしまい、落ちていた台本を拾う。

それから台本の内容に目を通したとき、彼女は相手の性癖を垣間見てしまった。


「わ、わぉ……百合の間に男が乱入するシチュエーションだ。それに魔法を教えると言って催眠術にかけるって、中々深みに入って拗らせているなぁ」


きっとコピーは他者に知られたくないと思っているからこそ、わざわざ隠れ家に自分の趣味を押し隠したのだろう。

その秘密を不本意ながらも(あば)いてしまったことにミファは小さな罪悪感を抱き、台本を適当な場所へ片づけようとした。


だが、台本を手放した直後のことだ。

長々とのんびりしていた彼女は小さな悪寒を抱く。

前触れなく高まる心臓の鼓動と息が熱くなる動悸。

この理解し難い興奮状態に気が付いた彼女は、急いで口元を手で押さえるが手遅れだった。


「やばっ。この薬品の臭いって、そういうこと!?だけど、そういう趣味の部屋があるなら当然だよね!おまけに本人は耐性があるのか、かなり濃度が高いしさ!」


いくら気持ちを引き締め直しても、このままでは思考回路が怪しい方向へ狂わされそうだ。

そう認識したミファは手早く探索を済ませようとしたが、あっという間に足元がもつれて転倒してしまった。


「あわわっ、いったぁ!」


1人で騒いだ末に体勢を大きく崩し、下手な受け身のせいで持っていたステッキを手放してしまう。

また机か何かに頭をぶつけたのか、(ひたい)がヒリヒリ痛む。

だから彼女はステッキの紛失と自分の痛みに気を取られてしまうわけだが、そんな彼女に手が差し伸べられた。


「あぁ、ごめん。ありが……」


ミファは反射的に礼を言いながら相手の手を掴む。

しかし、掴んだ瞬間に無機質な触感が伝わってきて後悔する。

なにせ他に誰も居ない部屋で無機質な触感の手となれば、それは人形以外に居ないのだから。


「にゃは~、これはマズいかも?」


ここに来て能天気な反応を示すが、それは悪手だ。

視線を上げれば制服姿の人形が立っており、その人形のもう片方の手には生命力溢れる触手が握られていた。

この先、一体どういうプレイが待ち構えているのか。

さすがのミファも予想外の事態に顔を引きつらせ、ついさっきまで警戒心が薄かった自分を少しだけ恨むのだった。

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