79.手がかりは既に揃い隠れ家へ向かう
求められて出した手なのに、このタイミングで揉まれるのは不意で楓華はほんの少し戸惑った。
「なにこれ、ミファちゃん流のマッサージ?」
「いいや、これはフウカちゃんの手を揉みたいだけ。あとリラックスさせたかったかな。そーしーてー、本当に大事なのはここからだ!スキル・論より証拠を」
その瞬間、楓華は頭の奥深い部分がムズ痒くなった。
まるで脳が能力の干渉を受けたかのような、これまで体験したことが無い感覚だ。
それからほんの数秒足らずでミファは彼女の手を放し、1人納得した顔で報告する。
「よぉし。これでオッケぇー!」
「えっ、マジで何がどしたの?」
「後出し説明で申し訳無いけど、ちょっとだけフウカちゃんの記憶を共有させて貰ったよ。つまり、このミファ様も犯人の姿が把握できたってわけ!」
「なるほど。今のは手っ取り早く確実な情報伝達ってことか」
「その通り!で、犯人の名前はコピー・ドラッグだね。記憶の魔術師と言われていて、元は魔術教団や犯罪組織に所属したり元は闇医者だったり……あれこれ転々としている魔人さん」
あまりにもミファが唐突に語るため、楓華は思わず目を点にする。
どの捜査記録や自分の調査よりも詳細で、はっきりしているのは予想外だ。
そのせいで情報の真偽より、どうして彼女が事前に知っているのか楓華は気になった。
「すっご、めっちゃ詳しいね。なんで知ってるの?」
「にゃっはっはっは~、なんせ調べたからね。だって相手の魔法があれば色々と便利で……にゃっはん!!そいつに色々と用があるから!ちなみに泥棒コピーの隠れ家についてもリサーチ済みだよ!」
「おぉマジ?そこまで来ると、信じられないレベルで助かるよ」
「情報収集については自称凄腕ジャーナリストのおかげ。あとミファ様自身が、既にコピーと直接会ったことがあるからね~」
「会った事もあるのか。それは相手の隠れ家とやらへ出向いたってこと?」
「その通り!だけど記憶を奪われるから、本人を目の前にしても見逃す始末だったよ。そのせいで同じ情報を3回も買ったし、遠回りしてフウカちゃんみたいに耐性ある人を見つけないといけないし……」
よほどコピーという泥棒に四苦八苦させられたのか、初めてミファは低いテンションで独り言をぼやき始めた。
それは長々と続き、溜まりに溜まった鬱憤が吐き出される。
「しかも他所にリークしたらミファ様の秘密を晒すってジャーナリストに脅されるし、ゲーム仲間を巻き込むわけにはいかないし、記憶保存しておかなったら自我喪失してたらしいし」
どれだけ苦労と恨みが多い一件なのか、まだまだ愚痴の終わりが見えなさそうだ。
そのことにモモは呆れて、楓華の代わりにミファを強く呼び掛けた。
「ミファさん。時間が無いので、さっさと案内してあげて下さい。あと、そういう愚痴も本人に言ってやって下さい」
「にゃは!?おっとと、ごめんね~。いざ悲願達成できるとなると、ここまで長い道のりがだったなぁと思っちゃった!」
「いやいや、絶対にそんな感慨深い言い方じゃなかったですよ。積年の恨みを果たせるぞって雰囲気でした」
「まっさか~!このミファ様ともあろう者が、そんな復讐者みたいな恐ろしい志を持ったりする訳がないでしょ~?」
「はいはい、言い分は十二分に理解しましたから早く向かって下さい。相手に用事があるのはフウカさんも同じですから。そういうことでフウカさん、解決できなくても良いから無事に戻って来て下さいね」
そう言い出したモモの目つきは、どことなく心配した心遣いが滲み出ていた。
これに楓華は過敏に反応し、つい余計な事を口走ってしまう。
「おっ、もしかしてデレてる?」
「いくら私でも友人の身を心配しますよ。それにデレという言葉は、できれば甘えている場合にだけ使って下さい」
「はっきり否定はしないんだ」
「それは……まぁ個々の解釈によるので。あぁもう、早くフウカさんも行って下さいよ!今回の事件で困っているのは大勢いますから!ほらほらほら!お尻を叩きますよ!」
モモは恥ずかしそうに捲し立てた挙句、楓華とミファの2人の尻を平手打ちした。
特に楓華はバニースーツ姿だったせいで地肌に直撃を受けたわけだが、モモちゃんらしいコミュニケーションだと彼女は思って褒めてしまう。
「さすがモモちゃん。叩くのが上手で心地良いよ」
「まだ無駄口を叩くなら、こっちはもう一度お尻を叩きますよ」
「そういうプレイに興じるのも悪く無いね。だけど、それより先にモモちゃんから借りたい物があったわ」
「端末機ですか?」
「いや、そっちじゃない方の携帯道具」
「なんで回りくどい言い方を……。分かりました、これですね」
モモはすぐに楓華が求めている物を察し、その小さな携帯道具を手渡した。
それを彼女はしっかり受け取り、胸元の奥へこっそり隠す。
それから楓華とミファの2人は魔術師コピーを早急に捕らえるため、巨竜マイケルへ騎乗して隠れ家に向かうのだった。




