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77.窃盗犯と痛み分けとなるが手がかりは楓華の手元に残る

「この音は……!そこだ!」


楓華は事態を把握できてない2人を置いて高速移動し、鋭く飛び掛かる。

まだ犯人の姿は視認できてない。

しかも何も無い床へ彼女が飛び掛かっているように見えたが、それは確実にその場所に存在していて、感心した声で呟いた。


「へぇ」


ローブの男性は自分を捕らえようとしてきた楓華に対し、紙一重で回避する。

そして両者の距離を保った後、そこで改めて男性の正体が視認できるようになった。

それは相手本人も分かっているはずだが、なぜか悠長に喋りかけてくるのだった。


「よく僕に気が付いたな。認識阻害のみならず、気配も完全遮断していたのに。それで正確な位置を割り出したのは称賛に値するよ」


「たしかに無音だったけど、そのせいで流れる空気の音が違和感バリバリだったよ。ってか、アンタは会場前で会った奴か」


「おぉ、まさか僕の事も覚えているなんて。これは凄い。高位存在でも無い一般人だろうに。まぁどうでも良いか。まずは上位魔法・時空間停止(ストップアワー)


男性が素早く魔法を発現した直後、その場の時間が止まる。

もちろん、そうなれば楓華は身動きが取れないし、それ以前に時間停止すら認識できないだろう。

その中で発現者である男性だけは呑気に歩み、楓華にゆっくりと近づきながら喋った。


「余計な消耗は避けたかったけど、これくらいは想定内だ。そして、あとは僕に関する記憶を盗めば……」


「はぁっ!」


突如、楓華は気合いの雄叫びをあげながらストレートパンチを放った。

合わせて男性は後方へ下がって拳を(かわ)すものの、予想外の事態に驚きを隠せない。


「なぜ動ける?時間停止も一種の環境変化に過ぎないとは言われているが……、だからと言って急に順応できるものじゃない。君は記憶制御だけじゃなく、超順応スキルまで生まれつき持っているのか」


「なに意味不明なことをブツブツ言っているんだい。それより大人しく自首してくれないと、ぶん殴って解決するよ」


「残念ながら、それは全て無理だ。僕は大人しくしないし、解決もできない。驚いたせいで情けなく避けたけど、はっきり言って君は僕の足元にも及ばないほど弱い」


「本当にブツブツうるさいね。警告はしたよ」


楓華は思いきりが良すぎるため、言いきった瞬間に追撃へ打って出た。

まだ不明瞭な点が多くとも彼女の判断は正しく、そして容赦ない接近技だ。

だが、相手は彼女の殴打を真正面から防ぎ、山すら砕く威力の技を受け止めた。

これに楓華は驚きよりも感心を示した。


「あらら、見た目以上に体が強いみたいだね」


「申し訳ないが、魔法による身体能力向上は基本だ。そして僕の総合的な実力は高位存在に達している。つまり、君は死ぬ」


敵から放たれる認識不可の攻撃。

どれだけ警戒していても攻撃は正体不明であって、スキル、魔法、格闘、どれなのか分からない。

ただ楓華は相手の技を知覚する前に弾き飛ばされ、遥か遠方の壁へ激突していた。

時間が止まった空間内に響く激しい衝撃音。


しかし、その音が鳴り響き終わる前に男性の脳天には短剣が突き刺さっていた。

いつの間に刺したのか。

同時に楓華は息を切らしつつも、瓦礫の中からゆっくりと立ち上がる。


「ふぅ……。飛ばされている間に投擲(とうてき)させて貰ったよ。そこら辺にあった貴重品みたいだから、あとでアタイが怒られるかもね」


それから楓華は姿を消える速度で移動し、突き刺した男性の所まで戻ろうとした。

だが、元の場所へ戻りきる前に楓華は頭を相手に掴まれ、床へ叩きつけられることになる。

それこそ一瞬より短い時間の出来事だ。


彼女が吹き飛ばされた刹那に反撃したように、接近する僅かな間に相手も反撃してきていた。

しかも敵の頭には短剣が突き刺さったままであり、あえて滑稽な姿を見せつけてくる。


「君は本当にやるな。僕が本気では無いことを抜きにしても、尋常ならぬ力を持っていることは間違いない」


「ちっ、ゾンビ野郎め」


「心外だな。僕は天才魔術師で、不老不死になっているだけだ」


そう言って男性は自分の額に深々と刺さっていた短剣を乱雑に引き抜き、楓華の胸元へ勢いよく突き刺した。

それは位置からして確実に急所である心臓を貫いているため、死を与えるのには充分な攻撃だ。

つまり決定打であり決着だろう。

常人が相手ならば。


「ふん!」


「がっ!?」


楓華は胸に短剣が刺さったまま、相手に頭突きを放つ。

その際に上半身を大きく動かしたから、傷は広がっているはずだ。

同じく相手も頭突きを受けたことにより、再生し終わってない頭の傷が痛んで()()る。


「死ななくとも、痛みはあるみたいだね!」


まだ動けると言っても、彼女が無理していることには変わりない。

それでも無謀で恐いもの知らずの楓華は攻撃の手を緩めず、相手のローブを掴みながら姿勢を大きく変えた。

そして強引に振り抜き、豪快な投げ技で敵を床へ叩きつける。


「とりゃあ!」


「くっ、このバケモノめ!」


信じられない行動に相手が悪態つくのは必然だ。

そんなとき、ふと短剣が楓華の胸元から抜け落ちていることに気が付く。

血は付着している。

だが、肝心の刃が根元から折れていた。


「馬鹿なっ……!」


まだ楓華が全力で動けている以上、これが意味するのは1つだ。

驚異の早業により、彼女は刺される直前に刃を折っていた。

この判断力と技術は、魔法などで到底(おぎな)えるものでは無い。

それを悟った相手は楓華を未知の脅威だと認識し、更に戦闘が長引く事態を嫌悪した。


「やるな、ここまで抵抗するとは!だが、まだ僕の方が上手(うわて)だ!上位魔法・瞬間転移(ワープ)!」


これを聞いた楓華は抵抗の意思を察知して、更なる追撃で気絶させようとした。

けれど、彼女が拳を振り下ろしている途中で景色は変わり、楓華1人で夕焼けの上空を漂う状況へ陥る。


「うわっ、アタイだけ転移で飛ばされた。まったく面倒だなぁ。おーいマイケル~!」


彼女が呼びかければ、すぐに巨竜マイケルが飛翔してくる。

こうして楓華は落下中にマイケルに拾われ、彼に説明しながらドーム会場へ再び戻った。

だが、彼女が戻った頃には保管室にあった貴重品のほとんどは盗まれており、墨絵に関する大事な記憶も失われたままだった。


しかも戦闘の痕跡まで消えてしまっていたため、唯一残された犯人の手がかりは楓華の記憶のみだ。


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