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7.もはや好感度アップの達人フウカお姉様は選択肢を誤らない

まさにミルは手強い子どもという態度だったが、楓華はすぐに口調を変えて(ひざまず)いた。


「ミル女王陛下。お忙しいところを失礼いたします。アタイは時雨 楓華という名の旅人。この度は、栄光たる女王陛下のご家族に助力したいと申し出たことを報告しに参りました。また挨拶に遅れてしまい、深くお詫び申し上げます」


「……ふぅん?」


ミルは見た目相応の精神年齢で、早くも態度を変え始めた。

まだ見知らぬ相手という範疇(はんちゅう)ではあるが、少なくとも無下にする反応では無くなっている。

これは単純に気が変わったというより、おそらくミルが女王陛下の役を演じている最中だからだ。

それを楓華は瞬時に見抜いて付け込んだのだ。

そしてミルが耳を傾けてくれている間に小難しい本題を語った。


「その助力の件に関してですが、具体的にはアタイが武道大会へ出場し、賞金を獲得して借金返済に充てるというものです」


「ミル……ううん、我は理解したぞ。それにて、フウカ殿が望む褒美はなんぞよ?」


「ミル女王陛下の正式な家来。その誇れる役職を所望しております」


「素晴らしいぞ。その慧眼(けいがん)、そして敬意を胸中に秘めた将来有望な若者とは、このまま放っておくにはもったいない逸材ぞよ。よろしい。そちの願いを聞き入れようぞ」


「ありがたき幸せ」


楓華がより深く頭を下げるような仕草を示すと、ミルの方から歩み寄って彼女の頭を撫でた。

この一連の流れにヒバナとヴィムは絶句する。

ヒバナ達の仲介を要せず仲良くなる様は、驚嘆の一言に尽きる。

村人と臆せず話せるから人当たりが良いとは思っていたが、ここまで手馴れていると親密度を高めるプロフェッショナルだ。

ただ、姉2人が本当に意味で驚くのはこの先の会話だった。


「さて、ミル女王陛下」


「それはもう良いよ。好きに呼んで」


「じゃあミルちゃんって呼んでも良い?そっちもアタイのことを好きに呼んで良いからさ」


「子ども扱いされるのは嫌いだけど、それなら特別に許す。ちなみにミルはフウカお姉様って呼ぶからね」


「おっけーおっけー。ちょっと違和感あるけど、お互いすぐに慣れるっしょ」


一気に砕けた会話内容となるだけに限らず、誰が聞いても(した)しみを感じられる態度へ様変わりした。

ますますヒバナたちが戸惑いを覚える一方、ミルは姉2人の存在に気が付いて駆け寄った。


「お姉ちゃ~ん。ねぇ見て見て聞いてよ!ミルに新しいお姉ちゃんができちゃった。フウカお姉様だよ!」


純粋な吉報として話てくれるが、ヴィムはミルのことを人懐っこくないと紹介した自分が愚かだったと後悔していた。

自分が気が付いていなかっただけで、本当は心身ともに成長していたのだと解釈して恥じる。

そのせいで視線が泳がせながら鈍い返事をした。


「そ……そう。良かったわね。心なしか複雑な心境だけれど、嬉しいのも事実よ。でも、どうしてフウカちゃんのことをお姉様呼びにしたのかしら?私への呼び方と分けているわよね?」


「大人っぽさかな」


「理解したわ。長女である私には気品が欠けているって事ね。精進するわ」


「うん、嫁に出しても恥ずかしくない姉になれるよう精進してね。ヴィムお姉ちゃんの場合、色気だけは一人前だから」


きっとミルは善意のみで応えているのだが、分かる人からすれば手厳しい発言だ。

また少女の幼い子特有の残酷な指摘は、ヒバナにまで飛び火した。


「ヒバナお姉ちゃんも、フウカお姉様みたいに頼れる堂々さを身に付けてね。ミルは期待しているよ」


「は、はいぃ……。期待に応えられるようフウカ氏を見習いますね」


ミルは向上心と理想が高く、やや毒舌気味となってしまっていた。

間違って無ければ強く言うべき、という行動に子どもらしい安直さが垣間見える。

そんなワガママ女王様の彼女を(なだ)めるよう、楓華は話に割って入った。


「まぁまぁミルちゃん。ヒバナちゃんとヴィム姉も、アタイには備わってない良さを持っているよ」


「ふぅん。例えば?」


「まずヴィム姉は料理が上手だね。喫茶店で食べたやつは全部おいしかった。そしてヒバナは思慮深くて慎重な行動ができる。つまり状況や相手を見極める力に()けているってことさ」


「う~ん、そっか。言われてみれば、そうかも。ミルもヴィムお姉ちゃんの料理は好き。ヒバナお姉ちゃんはお(しと)やか……かな?」


ヒバナだけお世辞じみた言葉選びとなっていて、それを聞いた本人は悲しい目で苦笑いをする。

そうして落胆を隠しきれてないヒバナを横目に、楓華は今回の目的についてより詳しく伝えた。


「とりあえずだ。アタイは武道大会に出場するけど、先に大会の実力レベルを知りたい。そのためにもミルちゃんの胸を借りたいってわけさ」


「借りたいって?ミルの胸を触るってこと?」


「あぁごめん。手合わせしたいって意味ね。触りたい気持ちはあるけど、それは今じゃないかな」


「あれー……?もしかしてフウカお姉様って、そこそこ癖が強めなのかなぁ」


「どうかな。それより手合わせを許してもらえるかい?いきなりの頼み事だから断ってくれても構わないよ」


「ううん、良いよ。ミルは器が大きいから手合わせしてあげるよ。でも大丈夫かな。ミルってば、そこそこ強いよ?」


そう言いながらミルは持っていたぬいぐるみをヴィムに手渡す。

合わせて楓華も浅い足踏みと跳躍を繰り返し、戦闘態勢を整えながら答えた。


「そこまで自信があるとはね。楽しみだ。あとアタイ自身も、自分がどれくらい強いのか知っておきたいところだよ」


「えっ?相手どころか、自分の実力も知らないで挑むとか無謀でしょ~。……とにかく、そっちがケガしても怒らないでね」


「あははっ、それは安心しな。ずっと年下の子どもにケガを負わさせられるほど、自分が弱いとは思って無いよ」


その言葉を発した瞬間、ミルの目つきが変わっていた。

同時にヒバナとヴィムは戦慄する。

2人が戦慄した理由はミルの纏う気配が変わったからでは無く、楓華が幼子扱いした事についてだ。


今しがた楓華が口にした言葉は、元より背伸びをしたい年頃に禁句も同然。

それを社交的な彼女が知らないはずないから、おそらく本気を出させるための挑発だ。

そして彼女の望み通り、ミルは初手から強烈な一撃を繰り出した。

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