68.楓華の借金が膨らみ過ぎている中、懐中時計を思い出す
しばらくして、ある日のこと。
鬼娘モモは大量の書類が入ったファイルケースを抱え、フウカ村の喫茶店へ訪れた。
ちょうど忙しい時間帯を終えたばかりの後らしく、店内では顔馴染みの4人が掃除と片付けに勤しんでいる。
そんな中、楓華はモモの来店に一早く気が付き、すぐさま快く迎え入れながら挨拶した。
「いらっしゃい。そして、こんにちはモモちゃん。今日はサンドイッチセットと野菜ジュースにする?」
「いいえ、今回は作業しに来たわけではありません。実は少しフウカさんに相談したいことがありまして」
「なになに?この場で言っちゃっていいぞ~」
「では遠慮なく言いますが、私への借金費用が莫大な額になっています。それも豪邸が何軒建つか分からないレベルですよ」
まさに包み隠さない報告であり、楓華のみならずヴィム達3姉妹も噴き出す有り様だ。
更に小さな悲鳴だったり、驚愕の声であったり、溜め息を漏らすなど三者三葉の反応が続く。
実際、ここまで看過できない問題が起きていることはモモ以外の誰も把握していなかったようで、当事者である楓華は気まずい表情を浮かべた。
「あちゃ~マジか」
「事実です。費用内容は道清掃ロボット。巡回パトロールのための戦闘車両を増産。観光サイクリングのための自動自転車の増産。廃棄ゴミ処理する設備。村内宣伝と電子案内掲示板の設置。あと他にも害虫処理と自然保護と災害対策、諸々の設計図案、それらに伴う点検と維持……」
モモの口からは長々と要点が述べられ、姉妹一同はそりゃあ借金が膨れ上がるだろうと思う他なかった。
またこの問題は楓華が独断で進めたのが原因であり、姉妹たちにとって初耳の情報が多く含まれている。
だから今更アドバイスできることは無く、ひとまず片づけ作業に取り掛かりながら2人の動向を静かに見守った。
一方、楓華はさり気なく図々しいことを口にする。
「いやぁ、モモちゃんが特に何も言わずポンポンと引き受けてくれるから、もっと長期的な返済を想定しているのかと思っていたよ。それに金銭による返済じゃなく、実験に付き合う条件だったしさ」
「金銭要求を諦めたのは、あくまで返済能力が無いと判断した結果に過ぎませんよ。それに冷静に考えてみて下さい。お金があれば被験者を大勢雇えます」
「わお、正論が凄く痛い。痛くてアタイ死ぬかも」
「もちろん、ここまで絶大な信頼を寄せられる相手はフウカさん以外には居ません。ですが、それでも想定の度合いを大きく超えてきました。そのため更なる条件追加を提示します」
「あぁ、それが本題ってワケね。ちょっと安心した。ついに見限られるのかと思ったから」
「杞憂ですね。それで私なりにフウカさんでも問題無く受け入れられることを考慮していて、条件は……」
モモが話している途中、喫茶店の出入り口が開いて鈴が鳴る。
いつもの顔ぶりが既に揃っているので、このタイミングで来るのはお客だけだ。
だからモモは言葉を止めたのだが、お客はお客でも飲食が目的では無い人物だった。
「よぉ、お前ら。この前とは打って変わり、かなり繁盛しているみたいだな?」
人間の男性だ。
そして口ぶりからして知り合いらしく、モモは首を傾げながら楓華に訊ねた。
「誰でしょうか?村で見かけたことない顔ですね」
「アイツは借金取り立ておじさんだね」
この説明に男性は「お兄さんだし、変な固有名詞つけるな」とツッコミ入れるが、モモは別のことでドン引きしていた。
「えぇ……?私以外にも借金していたのですか?フウカさんの金銭感覚が狂っていて、もはや恐怖を覚えますよ」
「いや、あながち間違いってワケじゃないけど、正しくはアタイというよりヴィム姉たちの方かな」
「あーなるほど、師匠達でしたか。そういえば借金している話は聞いてました。あと毎回喚き散らすことで返済期間を延長しているらしいですね」
モモがそのことを言った直後、ヴィムはヒバナを睨み、ヒバナは焦り気味に顔を逸らすという一連の流れが起きる。
これに楓華は見覚えあるなぁと思いつつ、借金取りの男性に声をかけた。
「まっ、とりあえず席に座りなよ。サービスでおいしい紅茶を出すからさ」
「ずいぶんと馴染んでいるな、フウカ」
「おっ、おぉ?アタイの名前を覚えていたんだ。前は恰好つけてお前とか連呼していたはずなのに」
「接する態度と名前覚えは職業柄だ。癖になっているせいで、ダチには名前で呼べってよく怒られるが。そんな事よりも売り上げの調子はどうなんだ?」
「それはアタイじゃなく、ヴィム姉が答えることかな」
そう思って楓華はヴィムに視線を向けると、彼女は帳簿を取り出して答えた。
「売り上げは順調に伸び続け、経営は軌道に乗っているわ。その代わり、フウカちゃんが別の所で借金しているみたいだけれども」
「なんだ。フウカ……お前が借金しているのか?もし悪徳な相手に掴まされているなら、俺から釘を刺しておけるぜ」
「フウカちゃんの心配は無用よ。そっちは友達間の借りみたいなものだから。それより返済は現金手渡しじゃなく、送金のはずよ。まさか本当にお客として来たのかしら?」
「それもあるが、お前達の借金事情は引き延ばしたせいで特殊になっちまっているからな。安定しているかどうか視察に来ただけだ」
この言葉に偽りはなく、明らかに男性はリラックスしていた。
出された紅茶にも口を付け、緩い声色で「本当にうめぇな」と感想をこぼす。
よって寛ぐ客人でしか無かったわけだが、楓華はとあることを思い出して尋ねた。
「そういえばさ、借金取り立ておじさん」
「一々長い。あと今はプライベート同然なんだから、店員らしくお客さんって呼べ」
「それじゃあ、借金取り立ておじさんのお客さん。前にアタイが渡した懐中時計って買い戻すことって可能?まだまだ先になるけど、完全に目途が無いって程でも無いんだよね」
「あぁ、借金の肩代わりにしたやつか。悪いが知らねぇ。もう換金済みだからな。ってか、しつこく呼ぶほど俺っておじさんじゃなくね?」
「おっけー、お客おじさん。それなら自分で調査するしかないワケだ。教えてくれてありがとうね」
男性は楓華の口ぶりから悪気が無いことを察し、軽い溜め息をこぼす。
そして指摘するだけ無駄だと諦め、会話を続けた。
「しかし、そうだな。俺が換金所として利用したのは素晴らしい評判しかないマジックアイテム屋なんだが、その店のアイテムが運搬されている途中で盗まれたと愚痴……みたい話をどこかで聞いたぜ」




