60.また幼女が増え、危ないおねロリの気配がするリールちゃん
クロスと名乗った銀髪の女性が語ると、すぐさま楓華は彼女のことを明瞭に思い出す。
楓華が彼女に会ったのは、村に犯罪組織の基地が転移されて大規模な戦闘へ突入した後のことだ。
あのとき、敵の司令塔は赤い光りに呑まれて跡形も無く消滅した。
その消滅させた張本人がクロスであり、自分が全て終わらせたと伝えるために接触してきた人物でもある。
これに合わせて楓華は別の事も思い出し、やや焦って応えた。
「あーあー!クロスかぁ!そういえば初めて会ったとき、村を観光案内してあげるって約束したなぁ!そっかそっか。それで来てくれたのか!よし、フウカ村へようこそ!」
「思い出してくれたようで何よりです。しっかりとお泊りセットを用意しておきましたよ。それと……この小さな子は、そうですね。どう紹介すべきでしょうか。ひとまず私の家族です」
クロスは連れてきた金髪幼女の手を引き、それとなく前へ出す。
ワンピースの洋服が似合っており、花の髪飾りが可愛らしい子だ。
そして、その子はおぼつかない動作ながらも丁寧に頭を下げて自己紹介した。
「私、リール。リールってお名前なの。リールはクロスのね、ママでお嫁さんで、あと妹で姉で娘で養子でペットで、抱き枕で親友で恋人でライバルで、あと共犯者で仲間で……他にもいっぱい色々なの!」
どう考えても意味不明であり、幼児特有の常識に囚われてない滅茶苦茶な言葉の羅列だ。
リールという名前と、順序正しい説明を求めても無意味なことは分かる。
それをクロスは十分に承知しているらしく、再び同じ言葉を使う。
「つまり、リールは私の家族です。偶然出会い、この子と殺し合いをしてからは一緒に居ます。それからというのも私が築き上げたモノが全て失われ、逃亡生活を楽しむ羽目に追いやられています」
結局クロスの説明は肝心なところが省略され過ぎており、何も想像できない立場に楓華は顔をしかめる。
「ごめん。99%くらい事情を理解できてないけど、過激なことを言っているのは分かるよ。どういう境遇で、どんな出会い方をしたらそうなるわけ?」
「フフッ、人生など千差万別ですよ。それよりも食事を頂いてもよろしいですか。もちろん、お代はお支払いします」
「うーん。なんか大変そうだし、ここでしっかりと英気を養っておきな」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて……シェフお勧めのフルコースをお願いします」
喫茶店に似つかわしくないクロスの注文に対し、ヴィムは少し悩んだ後に答える。
「ご期待に沿えられるか分からないけれど、いつもより材料が余っているから全力を尽くすわ」
それに引き続き、金髪幼女のリールは笑顔満点で呪文のような注文を言い出した。
「それじゃあリールはね、うーんと……リストレットベンティツーパーセントアドソイエクストラチョコレートホワイトモカバニラキャラメルアーモンドトフィークラシックチャイチョコレートソースキャラメルソースパウダーチョコレートチップエクストラローストアイスホイップトッピングダークモカチップクリーム白玉フラペチーノで!」
「そう。面倒だからチョコレート盛りのパフェにするわね」
「パフェ!?やったー!リールね、初めてパフェ食べる!あとで日記につけておこーっと」
こうしてクロスとリールの2人は食事を楽しむ。
その食事中の間、楓華たちは彼女ら2人と談笑した。
先ほどと同様にお互いの境遇が異なるせいで理解しがたい言葉が飛び交うものの、意外にも会話は弾んだ。
どちらも開放的な性格であり、人見知りしないタイプのおかげだろう。
それから親交を深めながら食事しているとき、クロスは外の方へ視線を向けて喋り出した。
「遥々別の銀河から逃げおおせたのに残念です。やはり天候のせいで観光は難しいですか」
事情のみならず価値観の違いによるものなのか、一言一言が引っかかる。
しかし楓華は既に慣れていて、リールと一緒にブロック遊びをしながら答えた。
「ごめんな~。でも、せっかくだし……アレだ。道場の体験レッスンはできるよ」
「体験レッスンですか。なるほど、そうですね。たまには実戦から離れてみるというのも、良い経験になるかもしれません」
「安心して。単なる遊びでは終わらせず、ちゃんと役立つ技を伝授してあげるから。こう見えてもアタイには武術の心得があるしさ」
「助かります。それに私ではリールに教えられないことが多いですから、素晴らしい勉強の機会になると思います。ということでリール。貴女も私と一緒にレッスンを受けてみましょう」
クロスが語りかけると、リールは積んだブロックを弾き飛ばすほど身を乗り出して大いに喜んだ。
「やったー!リールね、勉強が大好き!いっぱい勉強して早く立派になって、いつかクロスに世界一の宝物って認められたいんだ~!んぇへへ~」
会話が繰り広げられる度に、2人の不思議な関係性や約束事が垣間見える。
とても不思議で独特な感性の2人だが、非常に良好な仲なのは間違いない。
そうして体験レッスンの話がまとまったとき、楓華は
1つ思い出して席を立った。
「あぁ。そういえばミルちゃんが道場で遊んでいるんだった。お邪魔することを話しておかないとね。2人は食事が終わって、のんびりと休んでから隣の道場へ来てな」
そう言いながら楓華は1人で嵐に包まれた外へ出て、急ぎ足で道場へ駆け込むのだった。




