6.社交性あるフウカは村を歩き、末っ子ミルを見つける
楓華は物怖じせず、3姉妹の末っ子ミルという少女へ会いに行った。
もちろん、ヒバナとヴィムの2人に案内されて行くわけだが、寂れた田舎道は意外に賑やかなものだった。
なにせ他の村人とすれ違う度に明るい挨拶が交わされるため、人口が少なくとも開放的な雰囲気の村だと感じられた。
それに余所者である楓華にも友好的で、まるで馴染みの知り合いという態度で接してくれる。
これは姉妹と一緒に歩いているから警戒されずに済んでいるのもあるが、それとは別に楓華の柔軟な物腰が受け入れやすい要素となっていた。
年上には敬った作法で振る舞い、同年代か年下には親しみやすい雰囲気で自分らしさを示す。
そんな彼女の意外にも優れた社交性を目にして、ヒバナは少し引け目を感じていた。
「フウカ氏は凄いですね……。初めて会う地元民と仲良くなれるなんて、立派な才能ですよ」
「そう?まぁ記憶や経歴が無いも同然だからこそ、恥じらう理由が無いしね。それに腰が引ける気質では無いって、なんとなくアタイ自身が理解しているんだよ」
「だとしても、某には羨ましい度胸の持ち主です」
「アタイは慎重さに欠けているだけだよ。……というか、ヒバナちゃんたちも村人と仲良いみたいじゃないか。引き取られた身だから、この村生まれってわけじゃないんだろ?」
「えぇ、その通りです。しかし、おじいちゃんは村で人望が厚かった上、村の人達もこちらの厄介事を同情的に理解してくれる方ばかりでした。おかげさまで一度も疎外感を覚えたことがありません」
「生活しやすい村ってことだ。うん、そういう所もアタイが住みたいと思える動機になるよ。それで、今はどこへ向かっているんだい?」
楓華の質問を聞いて、ヒバナは不思議そうな表情を浮かべる。
対してヴィムは彼女の意図を読み取り、即答した。
「竹林よ。ミルはそこでぬいぐるみ遊びすることが多いの」
「なるほど、お年頃なんだねぇ。しかも可愛い一面があるみたいじゃん」
「そうね、可愛い所があるわ。その反面、気難しい所もあるわよ。私達には妹らしく振る舞ってくれるけれど、人懐っこい性格とは言い難いから」
「おっけーおっけー。ヴィム姉からのアドバイス、しっかりと肝に銘じておくよ」
楓華の喋り口調は軽薄っぽく聞こえるが、返答内容は至って真面目だ。
しかし、その真面目さがミル相手には仇になりそうだとヴィムは密かに予感する。
それから3人はしばらく歩いた後、村の外れにある竹林へ足を踏み入れた。
広大な竹林には緑豊かな臭いが充満しており、村内とは異なる自然を満喫できる光景が広がっていた。
吹き抜ける風も少し冷たく、独特な空気感があると楓華は肌身で感じ取る。
それら環境を彼女が堪能しているとき、ヒバナは気を利かせて注意を促した。
「あっ、足元に気を付けて下さい。基本的に薄暗いですし、こうして見ている以上に視界の利きが悪いので……」
「分かった。ありがとうね」
「はい。えへへ……」
ヒバナは口元をにやけさせながら愛想笑いを漏らした。
どうやら好意的な言葉に弱いらしい。
そんな不慣れそうな一面も可愛いなと楓華が思っている時、竹林の更に奥から妙な掛け声が聴こえてきた。
それは明らかに幼い女の子の声色なのだが、異様に迫真な声量でもあった。
「シュババババ!バチーン!いやー、なんと素晴らしい手羽先なんだー!……もう貴方ったら、手羽先じゃなく手捌きでしょー?」
「うん?ずいぶんと独特な独り言が聞こえ…」
「ビクンビクン!あぁなんてこと!感動のあまり、夫が料理を食べた瞬間に昇天しちゃったわ!さすがミル女王!これほど優れた料理の腕前をお持ちとは、王民として誇らしい気持ちで胸がいっぱいですよー!」
「……あー、おままごとね」
楓華は理解するのに少し時間を要したが、演技かかった口調と会話内容で子どもがお人形遊びしているのだと察した。
実際、もう少し先へ歩いてみると小さな女の子がぬいぐるみを手に遊んでいた。
その子は明るい栗色の長髪をオシャレに束ねており、僅かに差し込む日光が幼子の麗しい白肌を照らしている。
また、動物のぬいぐるみたちが幼子の周りを囲んでいて、如何に少女が遊びに没頭しているのか一目で伝わってきた。
合わせて、この女の子こそが末っ子のミルだと楓華は理解して、すぐに彼女は声をかける。
「やっほー!ミルちゃん、初っめましてぇ~!」
「あっあっ、あのフウカ氏……!」
ヒバナは呼び止めようとするものの、既に手遅れだ。
しかも楓華は前へ突き進む性格なので、すぐさまミルの年齢層に合わせた態度で交流しようとする。
ちょっとしたスキップで接近しながらも、接しやすい振る舞いを欠かさない。
だが、楓華にミルちゃんと呼びかけられた少女が向ける視線は訝しげであり、表情は不機嫌そのものだった。
戸惑いは無く、ひたすら真っ直ぐな敵対心。
これにはマイペースな楓華でも気が付き、数歩分の距離を保って挨拶し直した。
「遊んでいる所を邪魔してごめんね。アタイは時雨 楓華。ちょっと事情があって、ミルちゃんのお姉ちゃんたちを助けることにしたんだ」
「あっそ。そんなことミルは知らないもん」
ミルから返ってきた言葉は子どもらしい拒絶の一言だった。
分かりやすいほど無関心で、興味を持ってくれる気配すら匂わせてくれない。