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59.村だけじゃなく天気まで盛り上がって残念な状況になる

事前キャラ補足

・クロス

24話に登場した銀髪の女性で、なんか経歴がヤバそうで強い。今のところ温和で友好的な関係。

ラブホテルに一泊してから数日後のこと。

楓華、次女ヒバナ、長女ヴィムの3人は喫茶店で(くつろ)いでいた。

しかし楓華だけは異様に落ち着きが無く、店内を何度も往復しながら中々の声量で独り言をぼやき始めた。


「えーっと。まずアタイは少し前に村の集会を開き、無事に事情説明を終えました。これまでの経緯とこれからの展望。あと『フウカ村』って新しい名前を全員に報告した」


(はた)から見れば壁に語りかけているようで、ちょっと精神状態が心配になるほど唐突な説明口調。

ただヒバナは冷静に反応を示し、テーブル席で小説を読みながら応えた。


「そうですね。あと転移装置の設置と大地の精霊さん達による治安活動の説明。更に加工食品と工芸品の販売についても話し合いました」


「うん。新しいチャレンジで戸惑う人は居たけど、最終的には全員が理解して賛同までしてくれた。嬉しい限りだ。そして同じくして村人に意見を求めたとき、別の課題も見えてきた」


「観光客増加による騒音とゴミ問題ですね」


「それはちょっと盲点だった。娯楽開発だけに入れ込み過ぎず、生活が快適になる取り組みをして欲しいって話があった。これも当然の要求だね。それをアタイは受け入れ、住みやすい環境作りの約束をした」


「早速、公衆トイレの工事を手配したんですっけ」


「あぁ。それと廃棄物処理と道清掃の話も進めている。まぁとにかく転移装置が設置された今、生中継テレビで宣伝もしたから観光客がドーンと凄く増えて……。増えて無いやんけ!!なんでやねん!!?」


楓華は我を忘れて叫ぶ。

そんなふざけた反応になるのも仕方ないだろう。

なぜなら今は昼頃という最高の時間帯なのに、店内にはお客の姿が1人も見当たらない。

この最悪な事態を前に彼女は嘆き、次第に喚き散らした。


「ふぎぃ~!なぜこんな事にぃ~、ぐすぅっ……ひぃ~」


まだ中途半端な段階とは言え、ついに努力が実って報われ始めると期待していたからショックが大きい。

対してヒバナは残念な結果だとは微塵(みじん)も思ってない。

同じくヴィムも平然とした態度であり、カウンターの調理場に寄りかかりながら諭した。


「もうフウカちゃんったら、泣く方がどうかしているわよ。お客さんが来ないのは当然でしょ。だって、ひぃ!?」


外がピカッと光った途端、大気を激しく震わせる雷鳴が店内を突き抜ける。

よくある落雷に過ぎないのが、それでもヴィムは爆弾を落とされたかのように悲鳴をあげながら縮こまっていた。

そして落雷は絶え間なく発生し、更に喫茶店は強風と豪雨の両方に晒されるという悲惨な状況を迎えている。

この猛威と呼べる自然現象にヴィムは身を震わせ、先ほど遮られた言葉の続きを涙目に話した。


「だって、昨日から悪天候が続いているもの。雷も朝からずっと鳴っている。そのおかげで耳がおかしくなりそうだわ」


ヴィムの言う通り、村は昨日から嵐に見舞われている。

しかも嵐の勢いは衰えるどころか増していき、そろそろ村内で自然災害が多発しても不思議では無い状況だ。

川の氾濫、土砂崩れ、建物の倒壊、機器またはインフラの破損。

それらの被災情報はまだ入ってきてないが、時間の問題のように感じられる。


そして、これだけ強烈な悪天候ならば観光客が足を運んでくれる訳が無い。

実際、常に野外活動している楓華ですら自宅待機する他ないのが現実だ。

そのせいで彼女は暇を持て余し、テーブル席でブロックを積み上げては崩す遊びを繰り返し始める。


「あーあ、タイミングが悪くて気が滅入(めい)るなぁ。んーっと、ところでミルちゃんは?」


楓華はブロック遊びに集中しながらも問いかける。

そんな何気ない雑談の提供に対し、ヒバナは本のページを(めく)りつつ教えてくれた。


「ミルは道場に行きました。多分、ぬいぐるみ遊びでもしているんじゃないでしょうか」


「そっか。でも、なんで道場?」


「あそこは丈夫な造りですからね。確かおじいちゃんが言うには、巨大隕石が直撃しても傷1つ付かない耐久力らしいですよ?」


「えっ、マジ?見た目だけなら、ちょっと古いくらいの建物なのに」


「まぁ某も話を聞いただけで、実際にそこまで頑丈なのか分かりません。それにおじいちゃんも、わざわざ道場の耐久力を試したわけでは無いでしょうし」


「ふぅん。とりあえずアタイはひたすらに暇だし、ミルちゃんの様子でも見に行こうかなぁ。よいしょっと」


楓華はブロックを適当に積み重ねた後、道場へ行こうと席を立つ。

その直後、喫茶店の扉が強風で流されるように激しく開かれた。

同時に出入り口に付けていた鈴は揺れ、外の雨が一気に内玄関へ侵入してしまう。

ついでに積んでいたブロックも風に煽られて崩れていた。


「あらら、まさかのお客さん?ちょっと物好きだね」


驚き気味に言ったのは楓華だが、彼女に限らずヒバナとヴィムも興味深そうな様子で玄関扉に顔を向ける。

すると店内へ来たのは2人の女性で、1人は軍服姿で長い銀髪の女性。

もう1人は鬼娘モモより年下だと断言できるほど、あらゆるパーツが幼く小さい金髪の幼女。

どちらも可憐な容姿だが、どちらも独特な気配が漂っている。

特に銀髪の女性は特徴的な服装をしており、楓華を見るなり小さく頭を下げた。


「お久しぶりですね。フウカ様」


「おぉー?うん。そうだね、久しぶり!」


楓華は元気よく返事してみるものの、心なしか距離感が曖昧な接し方だ。

そのため軍服姿の銀髪女性が何者なのか、楓華が思い出しきれてないのは誰の目から見ても明らかだ。

それを察してなのか不明だが、相手は優しく微笑みながら自己紹介をする。


「くすっ。他のお二人方は初めましてですね。私はクロス・マリア。気楽にクロスとお呼びください。短い時間ながらも前に1度だけ、フウカ様とお会い致しました」


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