58.結果オーライだけどお詫びとしてラブホテルで一夜を過ごします
「やっぱCMで見た可愛い女の子だ!たしか名前は……ソラちゃんだっけ?」
撮影現場、しかも現地中継の最中で楓華はミファというアイドル少女に話しかける。
この緊急事態に周りの撮影スタッフは慌てふためき、急いで対処に出ようとした。
しかしミファはさりげない手振りでスタッフの行動を制止し、笑顔のまま楓華を受け入れてみせた。
「にゃっは~。残念ながらソラ様とは別人だよ。よく似ていると言われるけどね~」
「あらら、マジ?でも、ヒバナちゃんがCMを見てソラだと言っていたから」
「あぁヒバっち……ううんにゃ!まぁまぁまぁ、とにかく私はミファ様な?ずっと他人の名前で呼び続けるのは失礼に当たるんだぞ?」
「あぁ、ごめん。そうだね。うん、アタイがしつこかった。それより突撃したのには別に理由があって、是非ともアタイの村……フウカ村で繁盛している喫茶店を紹介して欲しいんだ!」
楓華がヒバナを車に置いてまで突撃したのは、このためだった。
スタッフの1人が『グルメリポート』という旗を持っていて、それを見かけた瞬間に彼女は実行へ移したのだ。
頭を下げてお願いに出ているが、よく考えずとも迷惑行為そのもの。
しかし、ミファは楓華の行動を一切問題視せず、丁寧に説明した。
「知り合いの喫茶店を紹介か~。それは良いね!でも、今回はゲストのオススメ紹介だし、お店のアポを取っているんだ。つまりそっち優先で、更に半年分くらいリポート予定が埋まっているんだよ」
「大丈夫。とてつもなく無理を言っているのは承知の上だから」
「だ~け~どぉ!ミファ様がプライベートで個人的に行く分には問題無し!ということで、近い内にミファ様がプライベートでフウカ村の喫茶店へ行くぞ~!」
「おぉマジ?」
「マジの超マジだよ~!こんなユニークな子が居る村なんて楽しそうだしね!テレビを見ている皆も要チェックな~!気分が良ければ、ライブを開催しちゃうかも~!」
そう言ってミファがウインクした直後、気が付いたときには楓華は走行を続けるオープンカーの運転席へ戻されていた。
隣の助手席には焦るヒバナが居て、楓華が戻って来たことに色んな感情が混ざった声をあげる。
「あぁフウカ氏!もうさすがにバカです!どこへ行っていたんですか!?心配しました!戻って来て安心しました!」
「わりぃ、余計な心配をさせちゃったね。でも、テレビ撮影していたから、つい宣伝したくなってね」
「へっ?ま、まさか乱入なんてしてませんよね?だってフウカ氏は自称とは言え、良識と常識を大切にした善意に従う理知的な一般人……ですもんね?」
「ごめん。中継中だったところを突撃してリポーターのミファちゃんって子と話してきちゃった。あはっ!」
「ひええぇええぇェェェェ!!?」
笑って誤魔化す楓華に対し、ヒバナは体を仰け反らせながら全力の悲鳴をあげた。
驚愕の表情を通り越して変顔になっており、如何に危険だったか早口で語る。
「問題に頭を突っ込むどころか、問題を引き起こしてどうするのですか!?誰もが寛容な訳じゃないんですから、冗談抜きで存在を抹消させられても文句言えませんからね!?」
「そこまでするかな?」
「見た目だけで実力を計れるわけでも無いのですから、全力で対処されます!楽観視が極まっていますよ!某に限らず、もう村のほとんどがフウカ氏を頼りにしているので気を付けて下さい!」
「おぉー……。そう言われたら軽率だった気がしてくるね。うん、余計な心配をかけさせてごめん。まぁ、その代わり喫茶店にアイドルが来る約束も取り付けられたから。その成果に免じて許し欲しいかな」
「えぇ?もう……本当に運には恵まれているんですから。もしアイドルが来たら、その人に撮影の邪魔をしたことを謝って下さいね」
「そだね。そこはキッチリするよ。あとヒバナちゃんの気分を台無しにさせちゃった代わりとして、帰る前に少し贅沢しようか」
楓華は反省の意を示すため、真剣な声色と表情で言う。
しかし、彼女が続けて話す言葉は予想できないものだった。
「ラブホテルへ行こう」
「あの、いきなりボケられても驚く気力すらありませんよ。どういうやり取りを期待して言っているのですか」
「いいや、マジだから。アタイは気にしないけど、家に帰ったらミルちゃんやヴィム姉が居て、ヒバナちゃんは思う存分に甘えられないでしょ。だからラブホテルで一夜を過ごすって算段だよ」
「はぁ……。もう止められる気がしないので、好きにしてください」
「よーし!これで同意を得られたわけだし、いっぱい気持ち良く、そして楽しい思い出を作ってあげるからね!ヒバナちゃんも本能の赴くままに好き勝手して良いから!」
「あれ?真面目にそういう感じですか?えっ、えっ……だとしたら、凄く緊張してきたのですけど。えっ、あっ、あのぉ?ふわぁ~……」
ヒバナは身を縮こまらせ、顔を真っ赤にさせる。
楓華は事あるごとに本気で有言実行してくる。
だが今回に限り、どこまで実行するつもりなのか、ヒバナには推しはかる事ができなかった。
そう戸惑っているのも束の間。
2人は実際に街のラブホテルへ行き、当然ながら同室で一夜を過ごすことになる。
そして翌日の昼を迎えてから帰路へ着いたとき、ヒバナは助手席で口元を両手で覆いながら小さく呟いた。
「まさか朝まで続くなんて……。フウカ氏は某の10倍はえっちです」




