57.帰る前に観光しようとして撮影現場へ乱入する楓華
楓華とヒバナの2人は交通問題を解決するため、役場で様々な手続きを済ませた。
そして最後は転移装置の設置に関する規約の同意も済ませ、彼女達は役場から出て赤いオープンカーへ乗り込んだ。
予想より手続きに手間が掛かったものの、半日足らずで済んだことに楓華は安堵した。
「いやぁ、案外すんなり話が通って安心したよ。転移装置の維持費とエネルギー代を負担することになったけど、これで観光客が増えるなら気にする話じゃないね」
「観光客の話に限らず、村人も街へ行きやすくなるので喜ぶと思いますよ。あとは地産の商品開発ですかね」
「今のところ、村で売り物になるのは竹細工と農作物かな。まぁ、さすがにこういうのは長く住んでいる村人たちの意見の方が有意義だからね。村の集会ついでに相談しよう」
「はい。良い考えだと思います。それにしても……ふふっ」
ヒバナは浮かれるように微笑んだ。
それは特別な反応では無いが、ちょっと珍しく思って楓華は訊く。
「どした?また名案が思い付いた?」
「いえ。まだ多くのことが実行前の段階ですけど、なんだか本当に変わるんだなぁと早くも実感が湧いたので。もう胸が期待と嬉しさでいっぱいです」
「そう言ってくれたら努力のやりがいがあるよ。うんうん、ここまで頑張ったからには絶対に成功させような」
「はい!某も頑張ります!」
「それじゃあ成功するための第一歩として、街を見て回ろうか!アイディア収集だ!」
「もうフウカ氏ったらぁ、そんなことを言って遊びたいだけですよね」
指摘した言い方だが、ヒバナの顔は笑顔に満ちていた。
そんな前向きな様子の彼女に合わせて、楓華はより清々しい笑顔と笑い声で返す。
「あっははは!全くもってその通り!できれば歩きたいから、車はパーキングエリアに停めようかな。駐車代あるっけ」
「残念ながら手持ちはありません。それにもう日が暮れますし、のんびり歩く時間も残されてないですよ」
「うぅ、マジかぁ。でも、そういう予定じゃなかったから仕方ないか。じゃあ本当に見るだけになっちゃうな。ヒバナちゃんと一緒なら何でも楽しいけどね」
思いつきによる部分もあるが、金銭不足が原因でドライブデートが満足にできないことに楓華は歯痒い気持ちを覚えた。
その悔しさで借金返済する闘志を燃やし、また最大限に観光しようと彼女は全力で街を観察することにした。
幸い、自動運転だから集中して注視できる。
そして良い刺激となり、楓華は新しい着目を得られた。
「他所と比較しないであれこれ開発を進めてきたけど、こうして見ると足りないモノを感じるよ。例えば街の喫茶店は外観が普通に見えて、なんか惹きつける魅力があるしさ」
「当然ながら競合が多い場所ですからね。どの店舗も可能な限り手を尽くし、切磋琢磨しています」
「改善しても、サービス提供する側が勝手に満足してはいけないってことかもね。重要なのは客が満足すること。うーん、やっぱり水着イベント開催すべきだなぁ」
「フウカ氏はずっと水着に対する情熱が強いですね。でも、某は誰かに見せつけるために水着を着たりしませんよ」
「それならヒバナちゃんはバニー服にする?」
「はぁ……。フウカ氏って、欲望が絡み出した途端に説得が下手になりますよね。いつも……はい」
いくら相手の事が好きでもヒバナは全肯定しきれず、困惑の眼差しで言葉を濁した。
それなのに楓華は彼女の戸惑いに気づかず、ひたすら周囲を見渡す。
そんなとき、楓華はドライブデートの最中であることを忘れてないのにも関わらず、別のことに目移りするのだった。
「おっ、ちょうど良いの見っけ」
「あれ?ふ、フウカ氏!?ちょっと……!?」
ヒバナが大声で驚くが、それは当然のことだった。
なぜなら楓華は手動運転では無いとは言え、いきなり運転座席から飛び出したからだ。
走行中に跳躍するなど、よほどの緊急事態でもやらない行為だ。
しかも危機回避や脱出目的では無い。
偶然にも見かけたものへ突撃するためであって、誰が見ても暴走行為と変わらなかった。
また彼女が突撃した先は、よりによってテレビ撮影している現場だ。
「にゃはっはっはっは~!さぁさぁ今週も、仕事帰りに行きたいスイーツ店紹介をしちゃうよぉ~!リポーターを務めるのは皆さんお馴染み、超絶大人気アイドルのミファ様だぞぉ!」
マイクを片手に、破天荒かつ天真爛漫に自己紹介する少女。
そのミファと名乗る少女は少し四肢が細めで、背丈は160cm近くあり、淡い栗色の髪と黄金の瞳が特徴的だった。
またテレビ撮影であるため、女性らしさを強調した着飾った格好をしているので立ち姿だけ見れば綺麗なものだ。
だが、絶えず大声で喋る彼女の元気すぎる振る舞いにより、子どもっぽい雰囲気がかなり濃い。
そんなアイドル少女ミファに、楓華は大胆にも接近して声をかけた。




