54.ヒバナお得意の説明からの自動運転で都市へワープ突入
オープンカーで楓華とドライブデートすることになった次女ヒバナ。
だが、車に多彩な機能が備わっているあたり、騒動の種になる前兆な気がしてならなかった。
そのせいでヒバナは警戒しつつも助手席へ乗車する。
それから車はゆっくりと軽やかに発進するのだが、なぜか楓華は一切ペダルやハンドルに触れて無かった。
「あれ、フウカ氏?」
「今は自動運転をテストしているところ。アタイ、この世界の交通ルールと街に続く道のりを知らないし」
「あぁ、それなら良かった……。興味本位で手動運転にしないのは冷静な判断ですね。色々と安心しました」
「自動だと知った途端に落ち着いたね?それよりもさ、今の内に資料用の写真を選んで欲しいんだよ。アタイが決めると極端に偏ったものばかりになるみたいだから」
「某は居合わせていなかったですけど、いざ喫茶店に写真を飾ろうとしたとき、ヴィム姉に注意されたらしいですね?」
「それはセンスの問題じゃなくて、ヴィム姉が虫嫌いだった事を忘れていたことが原因。かなりの早口で捲し立てられたよ。喫茶店で毛虫のズームアップ写真はやめて!ってさ」
「ふふっ、それはどうでしょう。多分、虫嫌いじゃなくても毛虫の拡大写真は抵抗感あると思いますよ」
2人はそんな他愛ない会話をしながらも、ちょっと変わったドライブデートを楽しんだ。
オープンカーなので雑音が遮られず会話に支障が出そうだが、実際はモモの技術力により徹底とした音響管理が成されている。
それでいて爽快感ある風が吹き抜けるのだから、改造が施された車は需要ある品質になっていた。
そうして長い道を進むにつれて景色が移り変わり行く中、車は途中で巨大なサービスエリアへ進入した。
「ん?なんで?」
自動運転のままだから、楓華の想像では寄り道せずに真っ直ぐ街へ行くはずだ。
また彼女が知るサービスエリアとは異なり、その場所は建物以外にも大量の大型装置が目につく。
一方で距離バスを利用しているヒバナは事情を知っており、彼女にアドバイスを送った。
「車で移動する場合、どこへ行くにしても乗車専用のワープゲートを利用するんです。道中の地形や環境が特殊であったり、道の変動が起きやすい世界ですからね」
「そう言われたら、めっちゃ心当たりあるなぁ。遊園地が生えたり、いきなり火山できたり更地になったり」
「そ、そうですね……。あとは12番ゲートを通れば、目的の街へ到着です。でも、行く前に1つ注意しておかなければなりませんでした」
「なになに?」
「もし街で揉め事を見かけても、絶対に関わってはいけません。それについては様々な理由がありますが、一番は身の安全を保障できないことです」
「大人しく専門職の方々に任せればいいワケだね。まぁアタイは対処能力と腕っぷしに自信あるけど!」
これまで楓華は多くの脅威を真っ向勝負で退けて来たため、得意気な表情で言いきる。
しかも未知の戦力を初見で圧倒しているから、これは過信では無い。
だが、その高い実力を理解した上でヒバナは念押しをする。
「それでもダメですからね。どんな事態に見舞われても禁止です。万が一の場合、高位存在が関わっている可能性もあるんですから」
「高位存在?神とかのことかな。ずいぶんと高尚な呼び名だね」
「簡単に言えば、不死身が当前で不死身殺しも当然。そして1つの技で銀河を丸ごと消滅させるのも当然の存在です。これが高位存在でも最低ランクの力量ですし、それが街には大勢います」
「What?アタイの想像より規模でっか。どうやって治安を維持しているのさ」
「某達みたいな人間とは価値観が大きく違い、事あるごとに武力を誇示したり自身の現状に拘ったりしませんからね。逮捕されて服役する事も素直に受け入れますし、アルバイト生活で慎ましく過ごすとも聞きます」
「なにそれ?力が有り余り過ぎて、自己顕示欲が失せているのかな。だとしても、平凡な日常生活を満喫し過ぎでしょ」
楓華のツッコミは概ね正しい。
当然ヒバナも高位存在の全てを熟知しているわけではないが、こうして今も世界が平穏に成り立っているので治安の心配は不要なのだろう。
つまり高位存在は世界にとって危険でありながら無害という、まさに人間の理解を越えた矛盾した存在でもある。
そしてヒバナは説明の最後に自分の考えを付け加えた。
「更にランクが1つ高いと、宇宙破壊と宇宙創造が基本になるらしいですからね。そういう方々すら珍しく無いわけですから、全てが自分の思い通りになるとは誰も本気で思ってないのでしょう」
「基本は人間社会と同じってことか。まぁ一定の知性と豊かさがあれば、わざわざ余計な事はしないよね。その世界の文明を色んな立場から楽しもうって感覚は、なんとなく共感できるしさ。むしろ強者の特権って感じ」
「もし高位存在が悪事に加担していたら、高位委員会が治安維持のために動き出すという話もあります。説明が長くなりましたが、とにかく街では一般市民らしく過ごして下さいね」
「あっははは~、それについては面白いジョークだ。アタイはいつだって良識と常識を大切にし、善意に従う理知的な一般人だよ!」
「はい、フウカ氏は己の欲望に突き進む一般人です。とりあえず交通管理局がある場所まで真っ直ぐ行きましょう。止まらなければ、面倒事に巻き込まれずに済みます」
それから2人は車を再発進させ、ワープゲートと呼ばれている巨大な機械仕掛けの門を通った。
すると違和感を抱く間も無く、彼女達が置かれている状況と環境が一瞬で変貌した。




