53.キャンプ場を決めて、交通管理局へ突撃するために赤いオープンカーでドライブデート
しばらくして、楓華はヒバナの手荷物を家に置いてから2人っきりで視察目的の散策へ出かけた。
賑やかに談笑しながら歩いているだけなのでデート同然だが、結婚を口約束で終わらないためにも本来の目的を忘れてはならない。
そのため彼女たちは時折甘い声で会話するものの、しっかりと次を見据えた行動を起こしていた。
「さて、キャンプ場については竹林の散策と山登りを楽しめるって名目があれば充分だね。通常の宿泊は空き家の素泊まりになるけど、そこはアタイ達の喫茶店でフォローかな」
「既に何人かの村人が管理を任せてくれと、協力の申し出までしてくれましたね。キャンプ場の経営が夢だったと熱心に語る人まで居ました。とは言え、あとで集会を開いて村民全員に説明した方が良いと思います」
「そだねぇ。最低でも合意は必要だし、村全体で計画を推し進めないと。それで一番重要にして大きな問題の交通手段だけどさ……。一体どうすれば良いのやら」
「そうです。それについて1つ思い出したことがありました」
「ん、なになに?またヒバナちゃんの名案が炸裂する~?」
「あははっ、特別な話では無いですよ。実は交通管理局という組織が認可してくれれば、この村を転移先の1つに設定して貰えるんです。つまり某がよく行っている主要都市から村まで直通になります」
何やらヒバナは実りある意見を出してくれたみたいだが、唐突のことで楓華には理解が難しかった。
少なくとも複雑な社会の仕組みを感じて、それっぽい質問を投げかける他なかった。
「ふぅん、交通管理局ね。それは具体的にどうすれば認可されるの?」
「某も詳しいわけでは無いです。ただ段階を踏む必要があるらしくて、まずは申請して、それで無害かつ有益な場所だと認識されれば本格的な現地調査が入ります」
「なるほどね。そこで高い評価を受けて基準に達していれば、見事に転移先として認められるってワケか」
「厳密には都心の駅に転移装置があって、そこから村へ飛べるようになります。とりあえず今の状況なら、きっとすぐに村の素晴らしさを認めてくれますよ。何よりも治安が良いですからね!」
あの自尊心が弱いヒバナが自信満々の笑顔で言いきるあたり、本気で村のことを自慢に思っているらしい。
誇りを持つのは立派な心掛けだが、少しばかり慢心に寄っている。
対して楓華は現実的な観点による思考を巡らせた末、不安気味に応えた。
「今は治安が良くても、維持できるかどうか別問題じゃないかなぁ。まっ、そこを管理局に指摘された厳しいけど、とにかく今から行こうか」
「あへぇ!?いっ、今から!?あの、申請だけなら資料を送れば大丈夫なはずです」
「なんで慌てるの?直談判の方が熱意が伝わるでしょ。もしダメだったら、どこを改善すれば良いのかアドバイスを貰えやすいワケだしさ」
「えっ、え~っ?これは某も行った方がいいですよね?真剣に審査されると思うと、すごく緊張しちゃいます」
「さっきの自信たっぷりな調子を保てば良いよ。それにヒバナちゃんは街に色々と詳しいからね。アタイ1人だと迷子になる自信がある!」
「逆にフウカ氏はマイナス面にまで自信を持たないで下さいよ。あぁでも……フウカ氏は色々な所に目移りしやすいですから、このまま放っておくのはダメですよね」
結局ヒバナは尻込みをしつつも、楓華の付き添いとして再び街へ行くことを決意しなければならなかった。
しかし現状、街へ行く通常手段は長距離バスのみだ。
もちろん、楓華が彼女を背負って走れば何倍も早く移動できるだろう。
だが、そんな原始的な移動方法を実行する前に楓華はあることを思い出し、ヒバナに声をかけた。
「そうだ。今から街へ直行するけどさ、ヒバナちゃんはここで少し待ってて。遅くとも数分で戻るから」
「資料の用意ですか?それなら時間が掛かりますし、やっぱり明日にしません?」
「アタイは思い立った事を先延ばしにしないよ。あと資料については、ヴィム姉と撮影した写真で説明しきれるからね。とりま待ってて」
楓華はその場にヒバナを待機させ、急ぎ足で移動した。
その様子をヒバナは目で追って見届けた後、小さな溜め息をこぼした。
「ふぅ……。フウカ氏の活発な体力と精神力は凄いですね。某の100万倍以上はありますよ」
どれだけ楽しくて幸せでも、体力に限界があるから疲れるときは疲れる。
ましてヒバナは一般的な女性と変わりないので、ゆっくり過ごす時間が必要だ。
そのため今の内に休憩しておこうと考え、数少ない電柱へ寄りかかった。
それから楓華の言葉通り10分足らずのこと。
村では1度も見かけたことが無いオープンカーが田舎道を走行して来るのだった。
「えっ、なんですか。あの派手な車は……?」
ついヒバナは身構える。
安全速度で走る真っ赤な車体。
それが駆動音を立てながら近づいて来るから、最初は警戒した。
だが、しっかりと注視したとき、そのオープンカーの運転席に乗って操縦している人物は楓華だと知る。
そして運転していた彼女はヒバナの前に車を止め、ちょっと気取った態度で言った。
「おまたせ、待った?これアタイの愛車ね」
「えっ……えぇ?いつ車なんて買ったんですか?そもそも家に停車されているところを見かけた記憶が無いですよ」
「冗談はさておき、これはモモちゃんから渡された実験車なんだよね。軍事基地にあった車両をそのまま流用しているせいで、ほぼ戦闘兵器になっているらしいけどさ」
「見た目は普通……あれ、オープンカーだから普通とは違う?何がともあれ、兵器では無いですよね」
「それっぽい機能は備わっているよ。ステルス、バリア、レーザー、通信、電子レンジ、水上走行と潜水。他にもブーストとか色々とね。まぁ普通に走行する分には気にしなくて良いから、アタイの隣に乗っちゃいな」
「乗りますけど……念のため言っておきますが、張り切らなくて良いですからね?」
「あっははは、安心しなよ。優雅なドライブデートっぽくなるよう心掛けるからさ」
楓華は笑顔で楽しそうに言う。
確かにドライブデートという言葉自体には心躍る魅力がある。
ただし、これまでの出来事を顧みたとき、彼女に機械などの装置関係が絡むと期待より不安が勝った。




