41.大地の帝王とゴーレムの大群には圧倒的な武力で押し切……れないかも?
謎の地底国を目指して出発した楓華は、ほぼ迷い無い足取りで直行していた。
それに強制同行させられてるモモは背負われているのにも関わらず目を回しており、酷く動揺しながらも理性的な疑問を投げかけた。
「あ、あのぉ!?なんか私の案内無しで移動していませんか!していますよね!?これって突撃!?それとも特攻のお供!?」
「アタイは五感が冴えているからね。それに振動音が大きいおかげで音が拾いやすい」
「うんへぇ!?それなら私が居なくても良かったじゃないですか!?今から帰って良いですか!良いですよね!帰ります!お暇を頂きます!」
「喋り過ぎると舌を噛むよ。あと勘違いされたら困るけど、アタイは並外れた実力者でも万能じゃない。少なくとも懐中時計を持って無い今はね」
「と、時計?アナログ派って事ですか!?って、今はそんな事どうだっ……いだひっ!?」
「あっ、舌噛んだ」
舌を噛かんだせいでモモが携帯端末を手放しかけたので、すかさず楓華はキャッチする。
同時に彼女は一歩毎の踏み込む力を強くし、速度を格段に引き上げて走り抜けた。
その速さは最新戦闘機の最高速度を容易に凌駕しており、大地を駆けるだけで通りかかった敵を薙ぎ払う攻撃と化していた。
当然、そうなればモモは二次被害を受けるところなのだが、楓華の高い技量により快適な居心地と絶対の安全が保障されていた。
ただし、パニック状態のモモが細心の注意で気遣われていることは知らず、ひたすら情けない悲鳴ばかりあげている。
そんな真剣さを感じられない調子が1分間近く続いた後、楓華は走る速度を落とし始めた。
速度を緩めたのは目的地に接近したのもあるが、何より村の外れでゴーレムの大群と遭遇したからだ。
「なんか、アタイが聞いたことがあるようなゴーレムとは違う気がするんだけど。もしかして私が知らないだけで参考文献とやらでは、こういう形状もゴーレムの定義に含まれるわけ?」
楓華が分かりやすく困惑するのは自然な反応であって、ゴーレムの大群は種類が異様に豊富だった。
その姿は露骨に他の種族を模しており、ドラゴンや大蛇、ユニコーンに妖精、または触手の塊であったり混合キメラなど統一性が感じられない。
特に蠢く電子レンジという意味不明なデザインもあるから、手当たり次第に作られたようにしか思えなかった。
「まだ獣人とかなら納得できるけど、明らかに家電製品なのはおかしくない?しっかり稼働して、よく分からない物をチンチンってしているしさ。とりあえず襲ってくるなら追い払って……」
なぜかモモが顔をしかめる一方、楓華は身構えて反撃に専念した。
そうして何気なく様子見をしていた矢先、ゴーレムの大群より奥の方から奇怪な声が響いてくる。
それは聴覚が飛び抜けて優秀な楓華でも聴き取りが困難に感じるほど低く、共通言語として認識するのに手間取ってしまうくらいだ。
「我は大地を司る帝王!未知の惑星であれ、大地を私利私欲で荒す不届き者は許せなイ!懺悔し、そして死で償エ!」
「うーん、中々に気味が悪い声だなー」
楓華は脅されても呑気にしていたが、すぐさま大地が震えあがった。
しかも最初の地震とは比較にならないほど揺れが大きく、村で倒壊する建物が出てきても不思議では無い強さだ。
そのことに楓華は早く気が付き、焦って大声をあげた。
「ちょっと落ち着きな!威厳を示すために演出するのは勝手だけど、この揺れは余計な被害が出る!大地の帝王だと名乗るのに、まさか大地を愛する無害の奴にまで被害を与えるつもりじゃないだろうね!」
まともな理性を備えていれば、一理ある訴えとして相手に届くはず。
しかし相手は帝王だと自称するだけあって、相手の話を聞いた上で強硬する鋼鉄の意思を持っていた。
「我は選別を望まなイ!我だけ存在すれば全てが成り立ツ!我は知っているゾ!不要な地殻変動を起こし、大地を嬲る山々を創造したこト!断じて許さン!」
「ちっ、共存共栄は許さないってことか。少しばかり神様気取りが過ぎるね。それに生物を模したゴーレムたちは、他の生物を排除してから取って代わる狙いだろ」
「左様!よって、これを機に掃討を実行すル!大地に必要なのは、我が必要とするモノのみで充分なのダ!」
この宣戦布告が発せられた直後、遥か前方から巨大な物体が大地を隆起させながら出現する。
動作からして穴から這い上がって来た動作だが、それよりもサイズが完全に規格外で辺り一帯を影で覆い尽くしてしまっていた。
まさしく大地の化身だと言われても納得できるほど巨大な山そのものであり、体の至るところには様々な結晶や鉱物が見受けられる。
これに対して楓華はやる気に満ちた表情で睨む中、彼女の背中に居るモモは更なる悲鳴をあげて暴れ出した。
「ぎゃあああああぁあああぁ!?またこれですか!隣村でも似た事態に見舞われたんですけど!だから離れたのに、ここでも同じ!?最悪サイアクさいあくSAIAKUうぅうぅううう!一刻も早く前の世界に帰りたいぃいぃいいいいいぃいい!!」
「もう最初の面影が無いくらい取り乱しているね」
「絶体絶命の前で取り繕う余裕があるわけじゃないですか!馬鹿ですか!?いいえ、ここで慌てないのは逆に馬鹿ですよ!馬鹿騒ぎする方が聡明です!」
「あらら。そんな無理して正当性を見出そうとしなくても、もっと素直に言……」
このような状況下でも楓華は緊張感を覚えず、日常的な素振りのまま気を逸らしてしまう。
その反応を相手は挑発と受け取ったらしく、より怒気帯びた声が響いてきた。
「我の厚意に対し、なんと傲慢な態度ダ!もはや対話すら下らン!蹴散らしてくれるワ!行け我が民ヨ!」
よほど怒り心頭なのか、わざわざ敵意ある号令を発してからゴーレムの大群を一斉に攻勢へ出した。
だが、相手が動き出した瞬間に合わせて楓華も反撃に移る。
「本気で手を出すなら、こっちも遠慮しないよ」
楓華が言いきった直後、風が吹き抜けると共に土砂と岩石の破片が舞う。
大軍は瞬く間に崩壊し、岩が崩れ落ちる重々しい音ばかり鳴る始末。
まだ彼女はモモを背負ったままなのに相変わらずの実力を発揮しており、大地の帝王から見ても怪物だと認めざるを得ない無双だ。
それでも彼は動揺せず、むしろ余裕ある口ぶりで話し始めた。
「愚か者メ。それらゴーレムは我が上位スキルで創り出した物ダ。いくらでも生み出せル。そして、いくらでも再生し復活すル。つまり倒すことはできン」
「はぁ?」
楓華は一度攻撃を止めて後退りした。
すると流砂に変り果てた物は再び集合して岩石となり、それから元のゴーレムの姿となって復活した。
しかも全てのゴーレムが同様だ。
「おぉーなるほど。これは確かに厄介だね。真正面から戦っていたら、こっちの分が悪い消耗戦だ」
楓華はまだ冷静だ。
対してモモは泣き顔になっていて、声も弱々しくなっていた。
「ぐすっ……。どうするおつもりですかぁ?」
「そりゃあ、手下を倒してもダメなら親玉を直接叩くよ。しっかりと掴まってな」
「えぇ~もう降ろしてくれた方が良いですってぇ~」
「ここまでの事態は想定していなかったら家に置いてきた方が良かったけど、さすがに今降ろした方が危険だ。ということで、その提案は断るよ」
楓華はモモの安直な発言を一蹴しつつ、視線をゴーレムの大群から帝王の方へ移す。
そして彼女は息を長く細く吐いた後、次は短く深い息を吸った。
「ふっ!」
発せられたのは息の音のみ。
しかし楓華の姿は忽然と消えており、移動を察知させないまま既に帝王の巨体へ接近しきっていた。
近づけば近づくほど相手とのサイズ差が浮き彫りとなっていて、もはや山以上の大きさを誇るゴーレムへ突撃しているようなものだ。
ただ相手の巨大な図体を利用することで、一気に上へ駆け登ることが可能だった。
それは人間の体をアリが登ろうとしている光景と同一。
そうとなれば地上生物を低く見ている帝王が不快感を抱くのは当然であって、意外にも素早い動作で楓華を払い落とそうとした。
「汚らわしイ!この汚物ガ!」
手なのか、それとも岩の絶壁なのか分からない物が猛烈な勢いで楓華に迫る。
当たれば即死。
だが、彼女は避けるどころか一発の蹴りで破壊するという力技で強行突破するのだった。
「な、なんダ!?」
派手に瓦解する音。
そんな音を聞いたのは帝王にとって初めての経験で、焦燥感を覚えて狼狽する。
その僅かな隙の間に楓華は敵の頭部へ到着し、拳を塗り抜く直前の姿勢で声をかけた。
「最終警告だ。もう降参しな。損害が少ない内に負けを認めるのも賢い判断だよ。誰も馬鹿にしない。それにアタイは何も奪うつもりは無い」
「降参などしなイ」
「それはプライドによる返事?」
「いいや、まだ負けてないからダ」
「あっそ。信念を貫くのは結構だけど、過剰な頑固は馬鹿を見るよ」
話し合いの余地が無いと理解した楓華は、もはや手加減しない。
むしろ帝王に相応しい強力な一撃で終わらした方が親切な気遣いになる。
そう思って楓華は全身全霊で拳を振り抜いた。
確実に直撃しており、破壊的な威力による完全粉砕。
これで無事に生存していたら、大陸ごと消滅させる攻撃でも無いと絶命しないだろう。
だから帝王の死に相応しい攻撃で、敵の巨体を間違いなく崩落させた。
しかし、それでも帝王は死ななかった。
「見通しが甘いナ」
「ん?あっ、まさか」
楓華が声をあげたとき、彼女の体は既に宙を舞っていた。
弾き飛ばされたせいで足元の感覚が奪われている。
一体何が起きたのか。
もしかして容易に振り払われてしまったのか。
それを具体的に把握する前に巨大な岩壁が彼女へ迫り、そのまま自由まで奪って大地に叩きつけられた。
岩壁だと思った物は帝王の手だ。
しかも楓華はモモ共々、無慈悲にも叩き潰されたことになる。
そして帝王の体は完全修復されており、さっきまで勝ち誇っていた彼女の余裕を嘲笑う。
「民が復活するのダ。当然、我も復活するに決まっているだろウ。そして一気に勝負をつけてやるゾ。何者も抵抗する気が起きないようにナ。上位スキル・大地の恵み生誕」
帝王がスキルを発現すると、ゴーレムの大群全てが一カ所へ集結して合体を始めた。
これにより帝王と同等の巨大な怪物が短時間で誕生し、村どころか世界の終焉を描いた光景となってしまうのだった。




