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39.大浴場は難しいので足湯にしようとしたら先に地底国との戦争が始まります

ヴィムから賛成を得られたのは喜ばしい話だが、まだ訊く前だったから唐突な言葉だ。

そのため楓華は目を丸くする。


「えっ、本当にいいの?お店というか、自宅の隣に温泉だよ?しかも元を言えば、ほとんどアタイのワガママなのに」


「むしろ願ったり叶ったりよ。借金返済するべき私達は今ある生活より、訪れたチャンスを逃さず掴むことが最優先事項だもの。だから、チャンスを作ってくれた2人のことを私は誇らしく思うわ」


もはや誰が聞いても分かるくらいに、これ以上無いほど協力的で前向きな言葉だった。

そして、その意見に便乗するようにヒバナは鼻息を荒くして気合いが入ったポーズを取る。


「そ、某も頑張ります!新しいチャレンジですので少し恐い気もしますけど、1人じゃないので逃げません!でも、その……やっぱり尻込みはします!」


「あはははっ、良いよ別に尻込みして。そうやって正直に言うのは大切なことだ。ってことで、その方針で進めてねモモちゃん。もちろん、アタイも率先して協力するからさ」


まだ末っ子のミルから返答は得られてないが、姉2人が快諾すれば彼女も喜んで賛同することだろう。

だから即決で話が纏まったも同然であり、すぐにモモは手早く端末を操作しながら喋った。


「では、温泉建設の工事を進めます。手始めに私お手製ロボットの『星を掘削するヤツ2号機』が源泉まで掘ります」


「モモちゃんって、意外に投げやりな名前を付けているんだね」


「基本、製品名は他の人にアイデア出して貰いますから。それよりもパイプやタンク、それと循環掛け流しなど仕組みのための工事などが当然必要なわけですが……」


「うんうん」


話を先に進めようと楓華は相槌を打つ。

対してモモの次の発言は、ここに来て現実的な問題を指摘したものだった。


「正直、色々と無理がありますね。村に居る職人さんに頼んでも難しいんじゃないでしょうか。そもそもの問題として、私たちには資金がありませんから」


「えっ?いや、そりゃあ資金は無いけどさ。でも、普通に考えてヴィム火山を造るよりは実現しやすいというか……、よほど簡単そうに思えるけどなぁ」


「温泉はお客が日常的に利用する場所で、要求されるモノが火山とは根本的に大きく異なります。例えば、山中で起きたことは自然現象の一言で済ませられても、温泉は失敗内容によって経営破綻するわけです」


「あー……まぁ言われてみれば、山で起きたトラブルと温泉で起きたトラブルの責任は似て非なるものか」


「それに錬金術は誕生を得意とするだけで、長期間の利用という面では修理や交換が可能な科学技術が(まさ)ります。しかもマニュアルさえ用意すれば、素人でも簡易の点検ができますからね」


「で、その科学技術を活用するためには莫大な費用と時間が必要ってわけだ」


楓華が突発的な思いつきで温泉を造ると提案したから、これまで軽視されていた初歩的な問題だ。

それにモモは研究者なので、今回のような建設工事については別の専門技能が要求される。

つまり計画を次に進める手段が無いから手詰まりになりかけるわけだが、ここでヒバナが1つ提案した。


「あ、あの……某たちは大きな温泉を勝手にイメージしていましたが、もっと小規模の温泉というのはどうでしょうか」


「小規模か。例えば?」


「えっと、入浴できる温泉じゃなくて足湯専門……とか?それなら通常の温泉より手に余ることは無さそうですし、色んな人が利用しやすくて……むしろ良いと思います」


「へぇ、なるほどね。足湯か……。それなら、ついでに利用するって感じになりやすいね。メンテナンス費用も抑えられる。うん、アタイの案より遥かに良いかも」


楓華は何事も大きなスケールで考える傾向があるため、こうしてヒバナが身の丈に合った提案をできるのは非常に大切なことだ。

それでも彼女達が大変な苦労を負うことに変わり無いが、話の方針が変わればモモによる方策内容も同様に変化する。


「それならば増築を見越した足湯にしましょう。最初は利便性を追求した足湯。そして将来的には快適性や機能性を充実させましょう」


「あと、どのくらいの手間までが私達の限界なのか、把握する必要もあるね。こう考え始めたら、ヒバナちゃんの提案は本当に欠かせないものだったよ。いきなり大きく作って管理できず経営失敗なんて、今にして思えば当然の話じゃん」


もし楓華が自分の身勝手で姉妹に迷惑をかけてしまったら、それは自由奔放な彼女でも堪えきれない負い目を感じていた事だろう。

それを事前に回避できた今、楓華からすればヒバナに対して感謝しきれない思いだ。

そうして好意的な気持ちを強める一方、突如モモの端末からブザー音が鳴り出した。

その音は確実に警報であって、モモが曇った表情で確認するから店内に一種の緊迫感が流れ込んだ。


「マズイですね」


「どうしたの?故障?」


「いいえ。もっと事態は悪く、『星を掘削するヤツ2号機』が破壊されました。映像解析にかけた結果、どうやら源泉を利用している地底国があったみたいです」


「へっ?」


楓華が呆けた顔で素っ頓狂な声を漏らした直後、彼女らは喫茶店が下から大きく揺さぶられる感覚に陥った。

それは範囲が広いから揺れだから地震だと言いきれるが、正確には強烈な爆撃による振動に等しい。

それほど瞬間的な揺れであって、同時に聞き慣れない凄まじい爆発音が発生していた。

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