37.巨乳おっぱい火山あらためヴィム火山、そしてミルクは盛大に噴出する
ただ人の成長は予測つかないものだとモモは実感しているので、そういう変化をミルは遂げてしまったのだと受け入れた。
またモモは言葉を慎重に選び、それとなく褒めることにした。
「まぁ、ポジティブだったり好きなことが多いのは素晴らしい事です。私の気弱な姉も、久しぶりに会ったら自信家で前向きになっていましたし。それよりミルク火山を更に改良を重ねたいのですが……」
モモはより多くの意見を取り入れようと考え、話題を次のステップへ進めようとした。
しかし、そこに楓華が大声で呼び止める。
「ちょっと待った!」
「フウカさん、どうかしましたか?わざわざ大声を出して、なにか問題を発見したのですか?」
「そこじゃなくて、ミルク火山ってネーミングはやめよう!これだけ立派な山を造ったからには、是非とも村の観光名所にしたいからね!つまり名所に相応しい名前が必要ってこと!」
「なるほど、急は要さずとも一理あります。名前を決めるのは大切なことです。ただ捻った名前は要りませんからね。バビブベボ1号とか」
「なにそれ?まぁまぁ安心して。このアタイが安直に思いついた名前があるんだよ。山が2つでミルクが出る。つまり『巨乳おっぱい火山』!」
名案のつもりなのか、楓華は自信満々に宣言した。
この発言に目を輝かせるのは何でも全肯定するミルだけであって、「素晴らしい名前!」と露骨に絶賛してしまう。
ただ、あまりにも子ども過ぎる名づけに対してモモは軽く引き気味に呟いた。
「本当に安直じゃないですか。ネーミングセンスが私の姉と同レベル。しかも乳って言葉が重複していますよ」
「そう?インパクトはあると思うんだけどねぇ」
「インパクトに偏り過ぎです。個人的には、この村の山だと簡単に分かる名前の方が良いと思います。そのまま村の名前をつけるとか」
「へぇ、そりゃあ良いね……。でもアタイ、この村の名前を知らないままだよ」
「私も言ってみたものの、これまで一度も話に聞いたことありませんね。それに私は学問の勉強ばかりで、この世界の社会には疎いですし」
モモと楓華が揃って知らないとなれば、話は自然とミルの方へ移る。
しかし、彼女は意外な答えを口にするのだった。
「ミルが知る限りだと、この村に名前なんて無いよ。村ってより、ほぼ集落で大抵のことは村内で完結しちゃうもん。物品の配送も隣村から送られるだけで、外部との繋がりは希薄かな」
「そうなのかい?でも、昨日は提督爺さんが戦艦で村まで来てくれたじゃないか。それで住所名が不明とはならないでしょ」
「フウカお姉様の考えは当然の流れだけど、あれは住所名で場所特定していたわけじゃなく座標だよ」
「あー、座標か。アタイが適当に操作して、基地の転移先を決めたのもそんな感じだったかな」
「そもそもこの世界は空中や深海、それか地中に都市があって文明も独立していることが多いから、統一した住所名なんて割り振りようが無いもん。都会とか建物が密集している所にはあるだろうけどね」
「必要な場所にだけ名前があるってことだね。じゃあ村の名前も後で決めようか。それで話を戻して山の名称だけど、改めて凄く良いのが思いついたよ」
またもや楓華は名案と言わんばかりの態度で喋り始める。
とは言え、さっきの『巨乳おっぱい火山』を聞いた直後だと期待はできない。
モモは念のためダサイ名前が出ても傷付ける言葉が出ないよう注意し、一方ミルは期待の眼差しで一語一句聞き逃さないよう接近までして耳を傾けた。
そして楓華は満を持して、わざわざ決め顔を浮かべてから発表する。
「ヴィム火山さ」
明らかに姉妹のヴィムを意識した名づけである上、この場に居ない人物の名前を使用することは2人にとって意外だった。
だから名づけによる感動より疑問しか浮かばず、ミルですら不思議そうな顔で問いかける。
「ヴィム火山って、きっとヴィムお姉ちゃんのことだよね?どうしてお姉ちゃんの名前なの?」
「それはこの火山がおっぱいみたいだからね。そしてヴィム姉のおっぱいはスケールがデカい。どんな人でも顔より胸に目を奪われるくらいにね」
清々しい即答で、度を超えているのに堂々とした意見。
もはやヴィム火山の名前で正しいと錯覚してしまいそうなほどだ。
ただし、本人が居ないところで確定させるのは可哀そうだとモモは思い、少し改めるよう促した。
「名前自体は悪いとは思いませんが、せめて理由を変えませんか。誰が聞いても納得できる……いえ、後世に伝わっても恥ずかしくない理由であるべきです」
「それは良い考え方だね。じゃあ火山のように圧倒的な存在感があるからって意味にするよ。長女だし、村にプラスの影響を大きく与えている。で、これから温泉を造るから、そこはヴィム温泉ってすると自然だろ」
「どこを自然だと思えばいいのか疑問は尽きませんが、悪い感じはしませんね。少なくとも『巨乳おっぱい火山』よりは王道です」
「あとついでに遊園地は『ヒバナテーマパーク』にするかな。アタイがプロポーズした記念の場所。つまり恋愛と友情が育まれる場所さ」
「はぁ……?」
モモは怪訝な表情でぼやく。
それは唐突な一人語りの末に私情を挟み過ぎた名づけが始まったり、一々話が脇へ逸れてしまうからだ。
一方ミルは、別の意味で訴えかけるような目つきで楓華を見ていた。
このことに彼女は気が付き、少女の思考を読みきってフォローを入れる。
「あぁ、ミルちゃんの名前はまた別の時に使わせて貰うよ。まだまだ色々と観光名所を作る予定だからね。娯楽施設の他に結婚式会場だって必要だろ?」
「け、結婚式の会場……!?良いな良いなぁ!ミルってば、そういう唯一無二のモノに名前を使われたいな!やっぱりミルはみんなの特別でありたいもん!」
「あっはははは、元気になってくれて嬉しいよ。さて、次は本題の温泉造りだね」
「あっ、フウカお姉様。それもいいけど、その前にヴィムお姉ちゃんが家へ戻って来て欲しいって。喫茶店の仕事があるし、お昼ご飯はしっかり食べないとダメだよ」
「そうか、もうそんな時間になっちゃっていたのか。スムーズに事が運ぶから、つい夢中になっていたよ。それじゃあ報告も兼ねて戻るかな。もちろん、モモちゃんも一緒に行こうか」
楓華が声をかけると、モモは携帯端末で操作を続けながら返事する。
「はい、一緒に昼食にしましょう。あとの細かな調整は端末で行えるよう整備済みですので」
こうして話が綺麗にまとまると、楓華たち3人は一度喫茶店へ戻ることにした。
そして彼女らはランチタイム前に帰宅して、喫茶店で待つ2人に火山と遊園地の新しい名称を伝えた。
やはり最初は驚かれたものの、困惑より誇らしい気持ちが勝ったようで納得してくれる。
ただ自分の名前が付いたとなれば気になってしまうもので、一旦ヴィムは外へ出て火山を見ながら呟いた。
「あれがヴィム火山ってわけね。大きいわ……。まるで私の胸みたい」
本人が自分の胸だと言及した直後、あまりにも単刀直入すぎる発言にモモは唖然とした。
更にモモは携帯端末をうっかり誤操作してしまい、ヴィム火山から人工ミルクを噴出させる。
その噴出現象によって天へ飛散するミルクは力強くありながらも美しく、目撃した者全員に生命の神秘と自然の偉大さを感じさせる光景となっていた。




