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36.火山の人工ミルクを泳いで境域空間学とポピュラーな錬金術によって天地創造しちゃいました

普段通りならば、楓華の呼びかけならミルは即座に陽気な態度で嬉しそうにしながら返事するところだ。

しかし、マグマを湯船みたく快適に過ごす彼女の姿には目を疑う他なかった。


「ありゃりゃ、どしたのミルちゃん?固まっちゃって」


「もうフウカお姉様ってば、それはこっちのセリフ!心配どころの騒ぎじゃないから!ありえないよ!」


「へっ?なになに?いつになく怖い顔をしているね」


あまりにもミルが迫真に叫ぶので、楓華は困惑した様子で呟いた。

2人揃って動揺しているが、今回はミル側の反応が正常だと言いきれる。

そして楓華はワンテンポ遅れて客観的な見方に気が付き、相手の激情を理解した。


「あぁ、そっか。そりゃあそうだよね。こんなの見たら驚くよね。ごめんごめん」


楓華は謝りながら悠々とマグマを泳ぎ、ミルの足元まで移動した。

それから火口から這い上がるのだが、なぜか彼女は競泳水着を着ているのだった。

本当に海水浴くらいの感覚だったのだろう。


「いやぁ余計な心配をさせちゃったよね。何も知らない人から見たら、あまりにもリアルな溶岩だからさ」


「リアル?もしかして実は偽物で、これって火山っぽいだけなの?」


「偽物というか……、あくまで火山を模した人工物って感じかなぁ。ちなみに見た目は溶岩だけど、これ全部が人工ミルクね。栄養満点で、泳いでも気にならない肌触りと匂いが特徴!むしろ健康になる!」


ミルがマグマだと思っていた物の正体は人工ミルクだと楓華は明かしてくれたが、それでも納得するのは難しかった。

ミルクだと分かった上で注視してもマグマにしか見えない事もあるが、なぜ火口に大量のミルクが溜まっていて、その中を楓華が潜水していたのかも不明すぎるせいだ。

よってミルは言葉を失うばかりで、返す言葉が思いつかない表情になってしまう。


「うん……。よく分からないかな」


「あっはははは!ミルちゃんがそう言うのも当然だ!でも、これには火山より高く、そして海より深いワケがあってね~」


そうして楓華が軽いノリで説明を始めようとした矢先、別方向から桃色髪の少女が携帯端末を操作しながら火口へ近づいて来る。

鬼娘のモモだ。

彼女は熱心に端末のパネル操作しつつ歩き、会話に割って入ってきた。


「フウカさん、勢いだけで説明するつもりなら私に任せて下さい。それに規模が大きい建設なので、しっかりとした事情説明をする義務があります」


「その通りだね。もう手遅れなくらい事後報告だけどさ」


「それについては反省点かもしれませんね。そしてミル師匠。まずは、おはようございます」


モモは上下関係を重んじており、ミルの前では端末操作をやめて礼儀正しくお辞儀した。

この場面だけ見れば真っ当な少女に思えるはずなのだが、火山を短時間で2つも生み出した相手なので実際は常識から大きく外れている。

それをモモ自身は全く自覚しておらず、すぐに日常的な口ぶりで詳細を語り始めた。


「そして事の経緯なのですが、フウカさんが村に温泉地を造りたいとご提案されたので、そこで私モモが…」


「話題性のために火山を造るって言ったんでしょ?ヴィムお姉ちゃんから聞いたよ」


「そうでしたか。それから思案を重ねた結果、よりインパクト重視で2つ造ることにしました。ただ本物の火山だと面白味に欠け、危険だという意見をフウカさんから頂きました。よって、火山みたいな娯楽施設にしようという結論に落ち着きました」


「なんでも有言実行するせいで迷走しているように聞こえるよ。だって、そこから更に人工ミルクの話が出ちゃうんでしょ?」


「ミル師匠のお言葉通り、要素を詰め込み過ぎたのはありますね。今しがた任意で自由に噴火……いえ、噴出という単語が適切ですか。とにかく人工ミルクが噴き出せるように改良しました」


最初モモは事の経緯と言っていたが、どれも結果ばかりの話だ。

そのためミルの理解は追いつかず、少し話を戻す必要が出てしまっていた。


「いや、あのね?ちょっと待って。そもそも根本的な話として、ミルは火山がいきなり出現していることに驚いたんだけど。こんな大きい物、どうやって短時間で造ったの?」


「それは私が前の世界で研究していた境域空間学の賜物(たまもの)です。空間を自作装置で計算式に(もと)づいて操作し、火山誕生が成立する環境を整えました」


「ん?それっぽいことを適当に言っている?」


「あはっ、ミル師匠相手に誤魔化したりしませんよ。確かに空間操作するための装置は製作に並々ならぬ労力がかかり、前々から取り掛かっているにも関わらず未完成でした。そんなとき、フウカさんから素晴らしい情報を頂けましたので」


ここで名前が出たので、ミルは楓華本人に視線を送る。

すると彼女は話が回ってきたことに気が付き、咄嗟に答えた。


「あぁ、秘密基地のことだね。昨日アタイが転移で村に飛ばしちまった兵器だらけのやつ」


「そうです。そこで使える部品を探し、他にも流用できる装置を見つけ出して改造しました。おかげ様で最も重要となる装置は無事に完成し、この火山造りは試運転と実験を兼ねています」


「あとアタイは聞き流したけど、なんかモモちゃんは小難しいことを言っていたよね。他の特殊技術も使っているとかナントカ」


「錬金術のことですね。この異世界ではポピュラーな技術ですが、私の世界では存在していなかったも同然の概念です」


「で、アタイが錬金術に詳しい人の家までモモちゃんを運んであげたと」


「はい。あの頭のネジが緩んだ……こほん。隣村の領主さんに会い、協力して頂きました。彼女は錬金術師でありながら科学知識にも強い方です。おかげ様で『私の発明装置に連動する、火山っぽい物体が創造錬金される賢者の種』が完成しました」


不意に説明口調みたいなネーミングが飛び出してきたせいでミルは困惑しかけたが、ひとまず相応の知識と技術を活かした結果なのは薄っすらと伝わってきた。

そんな相手の説明を聞いた事により、少女はあまり気にしなくて良いのかもと思い直し始める。


「うーん……多分理解できたかな。1%くらい」


「ミル師匠にとっては未知の分野ですから、1%でも理解できれば十分です。フウカさんは1%未満も理解していませんし、勝手に人体実験と称してミルクの中を泳ぐ始末ですから」


「そういうフウカお姉様の大胆不敵なところは、とてもカッコ良くてステキな部分だよ」


「そう……ですか。不思議ですね。ミル師匠ってこれほど甘いことを安易に言いましたっけ?少し会わない間に性格が変わっていませんか?」


「新しい出会いがあれば心境変化くらいあるよ。だってミルってば育ち盛りだからね」


先ほどまで混乱していたのはミルだったが、一転して頭脳明晰のモモが不可解な変わり様と言いたげな表情を見せる。

こればかりは仕方なく、楓華のことが関わった瞬間に1から10まで一度も見かけたことが無い反応だったせいだ。

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