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34.朝食を待っていたら火山を作ることになりました

(した)しそうに話す2人の傍らで、ヴィムはテーブルに料理を並べていった。

ポトフ風スープと彩りサラダ、それとスクランブルエッグにタケノコがメインの煮物。

また甘辛煮のイカと大根、更に別の甘辛煮でジャガイモとレンコンの一品も並べてからヴィムは喋り出した。


「手当たり次第に作っていたら途中からツマミみたいになったわ。それにしても、ずいぶんと仲が良いわね?」


ヴィムは視線を向ける。

すると楓華はモモと仲良くなれたことが相当嬉しいらしく、わざわざ自慢気な表情を作って微笑んだ。


「えっへへへ、羨ましいでしょ~」


「そうね。モモと私が初めて会った時なんて、だいぶ警戒されていたもの」


「えっ?それはそれで意外だなぁ。モモちゃん、そうなの?」


楓華の軽い問いかけに、モモは最後の仕上げとして彼女の髪をサッと整えながら答えた。


「初めて会った直後に、道場へ入門しないかと強引な勧誘をされましたからね。あの時は廃業している事すら知らなかったですし、ほぼ押し売りでした」


「あぁそういうことか。アタイ自身も似たようなことをしているけど、そりゃあ熱心に迫られたら警戒するよね」


「でも、今は門下生になれて良かったと思っていますよ。さっき言った援助の他に、たまに運動するのは気晴らしになりますし、他の師匠も良い人達です。そして何よりも提供されるご飯がおいしい」


そう言ってモモは櫛を片づけ、そそくさとテーブル席へ戻って座り直した。

それから食前の挨拶をしっかりと声に発してから、上手な箸使いで朝食を食べ始めた。

食べ方1つとっても手本のように綺麗であって、生活の所作する度に育ちの良さが表れていた。

しかも、どれも自然体で(こな)している。

楓華はそんな少女の対面席へ座り、まったく臆せずヴィムに注文をつけた。


「ヴィム姉。アタイは豚の丸焼きね」


「そんな大掛かりな調理できる設備は無いし、食材も無いわよ」


「じゃあ焼肉定食で!あとフルーツの盛り合わせ!できればラーメンと魚のお刺身も!」


「もし本気ならフウカちゃんって偏った食生活しているわね。食べ合わせまで自由奔放なのは感心するわ」


さすがのヴィムも呆れ気味に応えつつ、厨房の方へ戻って行った。

そして、そのまま調理に取り掛かる。

一方で楓華は料理が出来上がるまでの時間を大人しく待っていられないので、黙々と食べるモモに話しかけた。


「でさ、モモちゃんって具体的に何をして日々を過ごしているの?」


「専門分野を分かりやすく教えるのは面倒なので省きますが、ざっくり言うと科学研究のために様々な分野を勉強中です」


「ふぅん、研究って?」


「人の話を聞いてました?今この場で解説するつもりはありませんよ」


「いやぁ、例えば科学研究って一概に言っても無限大ってくらい多岐に渡るでしょ?化学、生物学、地質、遺伝……とにかく存在するモノ色々と。しかも1人だと、環境に左右されて研究対象が限定されるでしょ」


言い方に淀みがないので、どことなく知った風な口ぶりだとモモは感じた。

それにより少し見方を変えて真面目に言葉を返す。


「んー……もしかしてフウカさんって見聞を深めている方なんですか?または研究経験があるなど?」


「どうだろ。そういえば言い忘れていたけど、アタイは異世界転移したばかりで記憶喪失もしているから。とりあえずアタイが何でも知っている前提で話してみて良いよ。自己紹介の延長線上としてね」


「住んでいた世界が別なので1つも理解できるとは思えませんが……。まず前の世界では、境域空間(きょういきくうかん)学に関する研究をしていました」


「はいはい、なんとか空間学ね」


「そして私が育った世界は4つの領域空間が層として連なることで構築された階層世界でして、境域となる原理を明瞭に解明すれば災害の予見と未知の問題発見、または社会利用など…」


「うん、ごめん。期待させて申し訳無いけど、びっくりするくらい何も分からないや。もう理解できる気配すら無かった。それにアタイが小難しい話が苦手な事も忘れてた」


おそらく楓華に限らず、理解できるわけが無い説明だと誰もが最初の時点で察することだろう。

そもそもモモが居た世界が、どんな姿をしているのか想像すらできない。

ただ残念な反応が返ってくることは、幼い鬼娘にとっては説明を始める前から分かり切っていたことだ。


「当然です。とにかく私は世界を知る研究をしていました。転移した今も変わりません。異世界についての研究を進めており、私の世界には存在しなかった技術と知識を猛勉強しています」


「うん、その説明は少しくらい理解できたかも。要するに、モモちゃんは科学者として頑張ってるってことだ!」


「科学者は、研究者とは少し違……」


「そういえば!さっきオートメーション化しているって話をしていたよね。開発設計だけじゃなく、1人で製造まで出来るの?」


「えぇ、はい。完璧には程遠いですが、自分の設計を実現できる程度には」


「それなら頼みたいことがあるんだよね。この村を賑わせるために温泉を造りたいの!どうかな?」


他と比べて特別に発展しているわけでもない村に、いきなり温泉をゼロから作る。

そんな無理難題な頼み事を楓華は笑顔で言ってしまう。

当然ながら、事前調査すらしていない彼女の考えは無鉄砲そのもので、あらゆる要素や過程を無視している夢物語だ。

借金返済より非現実的であるし、ただの1村人が提案して実行するような内容では無い。

しかしモモは特に驚いたりせず、より突拍子無い発案を加え返した。


「いいですよ。それでは話題性と見栄え重視で火山を先に作りましょう」


「おぉマジで?」


「はい、大真面目です」


モモは呆気なく返答し、やるからには拘りたいという目つきを見せた。

これにより楓華とモモは温泉のための火山作りを始めるのだった。

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