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28.観覧車のゴンドラへ乗り込み、彼女は愛を語る

楓華たち4人がプールで騒ぎ尽くした後のこと。

最後は遊園地気分で締めたいと楓華が提案したため、彼女らは観覧車へ乗ることになった。

これは単なる思い出作りで思慮深い意図があったわけでは無いが、変化した村の景観と美しい星空を同時に展望できるのは丁度いい機会だろう。

ただ、さすがに4人が同じゴンドラを乗ったら狭すぎるとミルが言い出したので、じゃんけんによるペア分けが始まった。

その激闘の末、楓華はヒバナと一緒に乗ることになるのだった。


「じゃあ、おっ先~」


楓華は口惜しそうな眼で見つめてくるミルを尻目に、ヒバナの手を引いて颯爽とゴンドラへ乗り込む。

それからゴンドラは安定感を保ちながらゆっくりと上昇する軌道へ入り、次第に窓から見える光景が広がっていった。


「あっははは、ミルちゃんったらアタイと乗りたそうにしてたね~。じゃんけんする時も今日一番ってくらいに気迫があったしさ」


楓華は座席に腰をかけながら愉快気に話しかける。

どうやら酔っぱらい状態から回復したようで、すっかり普段通りの彼女だ。

同じくしてヒバナも気分は正常に戻っており、景観を見下ろしながら小さく笑い返す。


「ふふっ、そうでしたね。ペア分けするって自分から言い出したことなのに」


「思い通りにならなかったら簡単に不貞腐(ふてくさ)れるんだから。ホント、ああいう子どもっぽい所が可愛いよ」


「ミルは普段から可愛いですけど、特に可愛いですよね」


「うんうん、その通り!」


「それでいて真面目な時は頭の回転が早くて、年齢差に関わらず頼っちゃうほど強いです!」


「その通り!」


「あと某よりしっかり者で、某より世間に役立つ優秀な妹です」


唐突にヒバナは声のトーンを静かに落とし、自分とミルを比較する口ぶりで話し出す。

これに楓華は先程と同じノリで肯定しようとしたものの、彼女の言い方が気になって聞き返す声を漏らした。


「ありゃりゃ?いきなりどした?」


楓華が心配そうに声をかけた頃には、既にヒバナの気分は沈み始めていた。

しかも視線を自分の足元へ落としており、更にはぼそぼそと落ち込んだ声調で一人語りが展開される。


「それ以前に、某と比べること自体がミルに失礼ですよね。こんな頼りにならない人がお姉ちゃんなんてミルが可哀そうです。ふふっ……。アッハハハ……」


その乾き切った笑い声と自身を(さげす)む仕草は、もはやお手本のような自嘲だった。

つい数十秒前まで楽しそうに笑っていたはずなのに、今のヒバナはネガティブの化身だ。

一人勝手に悩み事を増やし、一人勝手に重く考えて落ち込んでいる。

ただ楓華は彼女のネガティブオーラの影響を受けず、思っていることをそのまま伝えた。


「ヒバナちゃんも魅力満載だし、それを軽視するのはもったいないよ。そんな卑下しなくても良いくらいプリティな要素が満ち溢れているから」


「そうですか?みんなの良い所だったら沢山思いつきますけど、自分の良い所は1つも出てこないですよ。某の長所と言えば……せいぜい物静かなところです」


「他人を高く評価できるのは大きな長所だとアタイは思うけどね。それにヒバナちゃんと仲良くしている人全員が、差はあれどアンタの存在価値を認めている。じゃないと、わざわざ一緒に遊んだり同じ時間を過ごしたりしないだろ?」


「ん……」


思い当たる節があるらしく、ヒバナは目にちょっとした生気を宿らせた。

ヒバナ自身は1人で遊ぶことが多いと言っていたが、だからと言って遊びに誘われたり友達と過ごす機会が皆無では無いようだ。

その部分について楓華は詳しくないが、それでも伝えられることがあって言葉を続けた。


「あと隣村には友達が居るって話してくれたじゃないか。つまり大半の人はヒバナちゃんのことを知ると、友達関係になりたいと思えるくらい魅力的ってことだ」


「い、言い過ぎじゃないですかね……?」


「言い過ぎだったとしても、どれくらい魅力的なのか正確に言語化する必要性が無いね。大抵のことは曖昧で、そして抽象的で良いんだって。どっちの方が優れているうんぬん(・・・・)より重要な事が他にあるし、お互いに気が合えば充分だ」


「うーん……。言いたいことが何となく分かるだけに、某との器量の違いを感じます。合理性より感覚的な部分を大事にするあたり、フウカ氏の器の大きさを実感しますよ」


「じゃあ、そんな器が大きいアタイがヒバナちゃんにはいっぱい良い所があって、ずっと仲良くしておきたいほど良い奴だって認めるよ。これでどうだ?少しは納得してくれた?」


ここぞとばかりに楓華はヒバナを真っすぐ見つめ、愛情たっぷりの愛想笑いを向ける。

その姿は星空より美しく、絶大な安心感を与えてくれる。

そんな人物にここまで前向きな言葉をかけられたら、少なからず舞い上がる気持ちが湧いてしまうものだ。

実際、ヒバナも釣られるように愛想笑いを浮かべていた。


「はい分かりました……と言うのは、まだ某には難しいです。でも、少しは自信がつきました」


「そっか。まぁ自分の評価や存在価値を気にすること自体は悪い話じゃないし、ひとまず気に病まなければ良いかな~ってね」


「ありがとうございます。ただ……あの、ちなみに某の良い所って具体的にはどんなのですか?あっ、その……もちろん無理に言う必要は無いですからね?ふと気になっただけで、やっぱり無ければ無いと答えても貰っても構いませんから!あとフウカ氏になら何を言われても大丈夫です!」


いきなりヒバナは慌ただしい振る舞いで喋り倒した。

喜んだり心配したり、気遣うために虚勢を張って早口で誤魔化すなど、あからさまにおかしくて掴み所が無い反応だ。

これを素でやるのだから、やっぱり愉快で面白い子だと思って楓華は笑う。


「あっははは、相変わらず面白いね!とにかく良い所を()げると、まずヒバナちゃんには悪意が無い。相手を認めて気遣いができる。見知らぬアタイに親切だったし、お人好しで付き合いが良い。あと個人的に一番気に入っているのは……」


「はい……」


楓華がわざと勿体ぶって話の間を空けるので、ついヒバナは意を決するように神妙な顔つきを作ってしまう。

ただし彼女の答えはシンプルであり、非常に楓華らしい主張だった。


「一緒に居て幸せな気分になれるってことだね」


「えっと、あのそれはつまり……どういうことですか?」


「言葉通りだよ。アタイはヒバナちゃんのことが好きだから、一緒に居ると幸せを感じられる。多分、ヒバナちゃんも似た感覚を知っているはずだよ。例えば姉妹と一緒に居る時とかね」


「そう言われたら……ちょっと心当たりがあります。新しい家族ができたのは嬉しかったですし、1人寂しく過ごしているだけでは得られない幸せがあります」


「ヴィム姉とミルちゃんも、ヒバナちゃんと一緒に居るからこその幸せを感じてくれているはずだよ。つまり言葉で気持ちを伝えてないだけで、大半の人はアタイみたくアンタの魅力に惹かれているってわけ」


楓華はまるで周知の事実みたく断言する。

しかし、そこまで言いきるのは一種の無鉄砲さと純真無垢な要素を感じられて、ついヒバナは笑った。


「ふふっ、やっぱりフウカ氏の言う事は大げさですよ」


「そっかなー?でも、まぁこれだけの情熱を伝えているのに、全部言葉だけで済ませるのは忍びないというか味気ないね。よし、このアタイからPresent(ぷれぜんと) for(ふぉ) you(ゆぅ)して(しん)ぜよう」


「えっ、某にプレゼントですか?」


突拍子も無く予想外のタイミングだが、ちょっとしたサプライズ感があったのでヒバナの声は僅かに浮かれていた。

また彼女の表情からも期待を寄せていることが伝わってきて、プレゼントの正体を披露する前から喜びの感情が表れていた。

そして楓華が自分のポケットから無造作に取り出し見せてきたのは、金色の指輪だ。

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