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24.新たな出会いを迎えて任務完了!でも、彼女らの本番はこれからだ!

楓華はかすり傷どころか息を切らさず、一見すると無尽蔵だった敵戦力を短時間で壊滅させてしまう。

その中には街を更地にする強力な機動兵器も含まれていたが、彼女からすればどれも同レベルで取るに足らない程度でしか無かった。

そのため彼女が司令部へ辿り着く前に相手はほぼ降参状態であって、既に撃退より退散する手段を模索している途中だ。


「ボス、どうしますか?」


1人の部下が問いかける。

言い方が雑で上下関係を感じさせない。

もう細かい事を気にかけるほどの余裕が無いのだろう。

それはボスと呼ばれた人物も似た気持ちであって、普通ならば重大な決断を軽い口調で下す。


「退散だ退散。ここまで台無しにされたら付き合いきれん。ここにあるモノ全て放棄でいいぞ」


「了解です。退避先はどうしますか?」


「上に問い詰められるのは面倒だからな。ひとまず探知不能な僻地にするか。あと念のため、あの女の情報を組織に伝達しておけ」


「すぐに送信します」


余計な言葉が省かれ、短い事務会話でやり取りは済まされる。

それから部下が情報を送ろうとした直前、司令部が設置されている建物が激しく揺れた。

合わせて建物は停電し、室内は非常灯の明かりに満たされる。

この事態は実は非常に深刻であって、ボスは苦しい顔を見せた。


「冗談だろ?ここは巨大隕石が衝突しても無傷なはずだぞ。それで影響を受けるとは……転移のせいか?」


「あのボス、すみません」


「なんだ?今ので再起動が必要になったか?」


「本部からの暗号通信です。その言いにくいのですが……もう手切れの時だと」


「なに?」


増え続ける面倒事に思考力を奪われてしまったようで、ボスは再び疑問の声をあげる。

その瞬間、彼らは(ほとぼし)る赤い光りに呑まれた。

それによって司令部ごと消失し、遺体どころか瓦礫1つ残らない完全消滅を迎えた。

一連の出来事は数瞬のことで、司令部周辺の跡地には何も残っていない。


風と音は止み、敵の秘密基地に残ったのは戦意を失った戦闘員と使い物にならない兵器だけだ。

唐突にして無慈悲な終わり。

しかし事態が急速に収束したとは思えず、楓華は基地の高台へ移動して一帯を観察していた。


「いったい何事なんだ?赤いものが光ったと思ったら、いきなり攻撃が止んだみたいだけど……」


楓華は辺りに気を配って、状況を知るために情報収集に徹した。

だから油断していたわけでは無いのだが、まったく聞き馴染みが無い女性の声が彼女の後ろから聞こえてくるのだった。


「本部がこの惑星の支部を放棄しました」


「あん?」


楓華は振り返る。

すると、そこには長い銀髪の女性が凛とした姿勢で佇んでいた

軍服姿で手には深紅の長刀。

そして両眼には赤い瞳。

ただ一番特徴的なのは、明らかにただならぬ者の異様な雰囲気だ。

きっと一度でも見かけた事があれば、生涯忘れることができないであろう風格の人物。

何よりも容姿端麗で透き通った声と肌が美しい。

それほど特別感ある女性だったが、楓華は相変わらず軽い調子で言葉を返した。


「誰だい?っと、先に言っておくとアタイは時雨楓華だ。初めまして……だよね?」


「えぇ、初めましてフウカ様。私はクロス・マリア。クロスと呼んで下さい。色々と肩書きがあるので自己紹介が難しいのですが、今は断罰者(だんばつしゃ)として活動させて頂いております」


「ずいぶんとカッコイイ響きの肩書き……というより役職名みたいだね。罰する者ってことかな?」


「そうですね。ただ普段は万屋(よろずや)の傭兵、っと言った所でしょうか。何であれ、お騒がせしました。ここに残ったモノは自由に持ち帰り、お使い下さい。不都合となる物は既に消滅させましたので」


「あらら、過激だねぇ……」


クロスと名乗った銀髪女性の発言内容は、ほとんど理解しきれなくても察するものがあった。

だから楓華は砂が舞うだけの更地を一瞥(いちべつ)し、溜め息を吐く。


「それでアタイ達のことは放置してくれるのかい?」


「そうですね。そこまでの料金は支払われておりませんし、私の雇い主はフウカ様たちを危険視していませんから。当然、そちらから手を出すなら反撃せざるを得ませんが」


警戒する発言とは裏腹に、クロスからは敵意を感じられない。

単純に冗談か、はたまた楓華のことを脅威と見なしてないだけか。

しかし、それらの関係性を気にせず楓華は愉快気に笑った。


「あっはははは!そんな攻撃的なことをアタイがするわけが無いね!それにアンタほど血に飢えてないよ。アタイが求めているのは熱烈なラブラブだけさ」


「なるほど。フウカ様は愛に飢えているわけですね。ふふっ。ただ私も血というより、刺激的な出来事に飢えていると言った方が正しいでしょう」


「だったら、一段落ついた時にはまたこの村に来てくれよ。村の観光スポットを案内してあげるし、喫茶店デートから道場の入門体験と色々もてなしてあげるからさ。イベント山盛りだよ」


「それは名案ですね。たまには観光に興じるのも悪くない話です。観光ブックと旅のしおりを用意しておきます」


「お泊り用の道具も用意しておきな。それじゃあこっちは忙しくなるから、またいつかね。クロス」


「はい。次フウカ様と再会するのは……それほど遠くない未来ですね」


クロスは未来を知っているような口ぶりで自信たっぷりに断言した後、楓華の目の前で姿を消した。

それは高速移動した空気では無く、どう考えてもテレポーテーションの(たぐい)だ。

そんな特殊な力を目撃し、楓華は1人納得する。


「丸ごと消滅させる力。未来を見る力。あと転移だっけか。他にも沢山の力を持っていそうだし、そりゃあアタイの前でも余裕なわけだ。……ひとまず、人手がある内に後片付けをしないとね」


それから楓華と姉妹たち、そして今回の仕事仲間たちは基地から捕虜と奴隷を救出する。

更に破壊兵器などの危険物を無力化させた後、仕事の報酬として金目の物の仕分けと分配が勝手に始まっていた。

しかし、その一方で楓華ら4人は宇宙戦艦の墜落現場へ移動して、提督の爺さんの死を追悼していた。


「提督のおじいちゃん。この仕事で最期を迎えるなんて。アタイとはそれほど親しい仲では無かったかもしれないけど、惜しい人を亡くしたと心底に思うよ。どうか安らかに眠ってくれ」


「おい、勝手に殺すんじゃねぇぞ」


彼女らの隣には提督の爺さんが元気に立っていて、ツッコミを入れる。

だが誰も気にかけず、次にヴィムが言葉を口にした。


「提督さん。どうして無茶を……。いくら自分の戦艦に愛着を持っているかと言って、心中する必要は無かったはずよ」


「言っておくが、戦艦は仕事で奪ったり貰ったものだからな。ってか俺、無視されてねーか?」


「うぅ……某にとっても提督さんは良いおじいちゃんでした。このエネルギー銃、形見として大事に保管させて頂きます」


「なんだこれ?もしかして俺って死んでるのか?これからはお化け屋敷の住人か?」


「ミルのウソ泣きに騙されてお小遣いをくれる提督じいちゃんは良い人。あとタバコと酒臭くて用心深い。その癖、女に甘いから美人局とか詐欺に引っ掛かりそう」


「ミルお嬢ちゃんだけ掛ける言葉がおかしいだろ。この歳になってショックを隠し切れねぇぞ。……いやいや、そうじゃねぇ!いい加減にしろ!」


提督の爺さんは我慢できなくなって大声を張り上げる。

すると、さすがにイタズラしすぎたかと楓華は思い直し、素直に謝るのだった。


「あっはははは、あぁごめんなさい。男なら、こういう散り様ならカッコ良くて誇れるかなと思ってさ。ほら、アタイたちみたいな女の子のために体を張るなんて、大人の男性らしいじゃないか」


「そういう言われたらそんな気もするが……、だとしても言い訳が適当すぎるだろ。まぁ、そういう冗談は良い。それより打ち上げの準備は進んでいるのか?」


「提督おじいちゃんも気にするところが変わっているねぇ。まぁ、それについては安心しな。崩壊した建物には食料がたんまりあったし、お酒もたっぷりだ。きっと最高に楽しめるよ」


「よしよし、それを聞いて安心した。じゃあガキども行くぞ。俺ら英雄の御帰還だ。燃える戦艦から這い出るのは大変だったし、もう喉が渇いて仕方ねぇ」


そう言う提督の爺さんには火傷した様子は欠片も見当たらない。

だから、どこまで本当で冗談なのか分からず、楓華は少しだけ反応に困った。

ただ今は提督の発言より気にかけるべきことが他にあり、この仕事に関わった全員が賑わうことを期待し、打ち上げ会場へ向かうのだった。

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