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21.秘密の犯罪組織の地下シェルター基地を勘で崩壊させる女

楓華がミル救出へ向かう同時刻。

遊園地廃墟の地下には、実は巨大な秘密基地が存在していた。

そこは都市1つ分に匹敵しているほど広大な上、仮に艦砲射撃を受けても全くビクともしない強固な地下シェルターでもある。

更には大量の破壊兵器と凶悪な生物兵器を数多く保有しているので、その戦力規模はまさに国家レベルだ。

そして末っ子ミルは、その地下空間のとある倉庫へ運ばれた所だった。


「遊園地エリアから送られて来たとは言え、ずいぶんと幼い子だな」


作業服を着た男性が同僚に向けて語る。

見れば倉庫内には檻へ入れられた様々な種族がいて、誰もが拘束具を付けられている。

おそらく扱い的には捕虜か、奴隷か。

またミルはスライムに手足を拘束されていて、うなだている様子だった。


「うぅ……。気持ち悪すぎて……調子が出ない……」


この言葉を聞いた作業員は少し驚いた後、感心した表情で同僚と雑談を始めた。


「まだ意識があるのか。麻酔やら封印が効いているはずなんだが……。かわいい見た目に反して、普通のガキってわけじゃないみたいだ。意外に優秀な素質持ちかもな」


「大事なのは能力より容姿だ。ただ、さすがに子ども過ぎるか。俺ら『レジェンド』の資金になってくれるほどの価値は感じられない」


「まぁ、それでも良い値段で売れる方だと思うぞ。これなら調教した後、すぐに別の惑星へ売り飛ばせる」


日常的な感覚で非人道の会話が続くとき、周囲一帯に騒がしいサイレンが鳴り響く。

それは緊急事態を報せるサイレンであって、尋常ではない事態が差し迫っていることを作業員は即座に理解した。


「おい、これは襲撃のサイレンじゃないか?ここに侵入者が来るなんて冗談だろ。よっぽどのバカか恐いもの知らずだ」


「どこぞの惑星から軍が派遣されたのかもな。ちっ、とりあえず商品を転移させて俺らも……ぐはっ!?」


「お、おい!?ぎゃあ!?」


2人の作業員が短い悲鳴あげると同時に、他に居合わせていた作業員も次から次へと一斉に倒れていく。

その現象は理解し難いもので、全員が混乱する状況だ。

ただ捕まっているミルは目の前の事態に驚くほどの気力は失われており、(いま)だ苦しそうに呻いているだけだ。


「うぇ……」


「ミルちゃん助けに来たよ」


聞き覚えがある女性の声が聞こえた途端、ミルの自由を奪っていた檻と(まと)わりついていたスライムが弾け飛ぶ。

それによってミルは僅かだけ正常な意識を取り戻し、力が抜けきった声で呟いた。


「ふ、フウカお姉様……」


「うん、アタイだよ。それにしてもこれは酷いね。アタイは昨日の歓迎会みたく、みんなと楽しく過ごしたいだけなのに邪魔する奴が居てさ。さすがに困るよ」


このときミルは、楓華の新しい一面を目撃した。

ひたむきに笑って安心させてくれるだけではなく、小さな怒りが(つの)り始めている目つき。

声色からは普段通りの優しさを感じられるのに、いつも以上に力強い本気が(にじ)み出ている。

それを察知したミルは軽く咳き込んだ後、楓華に話しかけた。


「フウカお姉様……。ミルは1人で脱出できるから、あとは……」


「ううん、まずはアタイと一緒に地上へ出ようか。何があっても安全が最優先だ。ほらほら、こういう時は子どもらしく年上を頼りなって」


楓華はちょっと茶化した口調で言いつつ、最初のようにミルをお姫様だっこする。

守られている感覚が強く、昨日とは比べ物にならないほど安心する。

そのおかげでミルは年齢相応に甘えられて、頼りたい一心で彼女の服を掴んだ。


「じゃあ今回はお願い……フウカお姉様」


「うんうん、素直でよろしい」


「あっ、でもちょっと待って。ここに捕まっている他の人達も助けないと。あの転移装置が使えるはずだから、それでまとめて移動できるかも」


ミルが視線を向けた先には、パソコンに似た小型の端末が設置されていた。

それが転移装置で脱出と救助が同時にできるなら、是非とも利用するべきだ。

ただ楓華はこんな時に限って妙な拘り見せて、露骨に渋る。


「えぇ……。せっかく英雄みたいにミルちゃんを助けて抱えたんだよ。この姿のまま恰好つけて外へ出て、みんなにアタイの勇姿を見せつけたいのに」


「フウカお姉様は何を言っているの?ほらほら、敵が来るから早く操作して」


「そう言われても、いくらアタイでも見たこと無い機械の操作は無理な気がするけどね……」


楓華はどうしてもミルを離したくないらしく、抱えたまま端末へ近づいて操作を始める。

かなり無理ある姿勢で、操作する手つきも(つたな)い。

このワガママな行動にミルが戸惑う中、楓華は操作しながら唐突な話題を口にした。


「そういえばアタイ、自分について思い出したことがあるんだけど直感で行動しがちなんだよね」


「いきなりなに?なんでも思い立ったら先に体が動いちゃうってこと?」


「そうなるね。そして今も直感で操作している」


「えっ?ごめん、なんだかミル嫌な予感がするんだけど。これってアレだよね。多分、とんでもない操作をする前振りで……うわ、うわうわうわ!?フウカお姉様!?」


「あっははは!これは早速やっちゃったかも!」


「フウカお姉様ってば、なんで笑っていられるの!?」


思い通りにならないと分かっていたはずなのに、なぜか楓華は豪快に笑って転移を実行させていた。

その結果、地下の秘密基地と遊園地は全て彼女らが住む村にまで転移されてしまう大事故が引き起こされるのだった。

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