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2.記憶喪失となった少女はドラゴン一家と通りすがり次女ヒバナと出会う

金髪女子の楓華(ふうか)は、ふと目を覚ました。


「なんだ……?あぁ、ちくしょう。頭がちょっとクラクラするなぁ」


まるで悪夢にでも(さいな)まれていたような感覚だ。

気分は優れず、思考はぼんやりとしていて体調も万全とは言い難い。

それでも自分が草原の地面で倒れていたことは理解できた。

澄んだ空気が流れ、温かい太陽の光りが一帯を照らしてくれている。


自然の活力が満ち足りた草原の大地。

それを踏みしめながら彼女は自力で立ち上がった。

そして苦々しい表情で頭を抱える。


「やっべー、何も覚えてない。いや、覚えているけど、ちょっと覚えてないな。アタイは時雨 楓華。可愛いものが好きで、料理はできない。人には親切にしろって、親に教えられていて……あー?」


彼女は言い淀む。

更に唸るほど考え込むものの、次に口から出てきた言葉は自分の深刻さを表していた。


「親って誰だ?名前どころか、顔も思い出せない……。アタイ自身のことは色々と覚えているのに、それ以外はさっぱりだ。気になるなぁ。他にも色々と気になるけど、まぁ大丈夫っしょ」


楓華は自分が記憶喪失に陥っていると自覚していたが、激しく焦燥するほどの危機感は抱いていなかった。

それは彼女に備わっている(たくま)しい精神力と楽観的な性格の賜物であって、どのような事態に見舞われても次に繋がる手段はあると信じているからだ。

つまり、彼女は人生に対してポジティブだった。


それから楓華は五感が正常な状態まで回復した後、すぐさま見知らぬ土地を()ても無く歩き出した。

しかも辺り一帯を見渡したりはせず、落ち着きのあまり呑気に鼻歌まで歌い出す。


「ふんふんふーん、りちゃららら~。……ってか、アタイって曲のメロディーは覚えているのか。歌詞までは出てこないけど、マジで何を覚えていて何を忘れているのやら」


楓華は道なき草原を歩きながら思い出そうとしてみるが、やはり断片的な情報が脳内に()ぎるだけだ。

現時点では、記憶が戻る気配が欠片も無い。

本来ならこれらの現状に悩むところなのだが、現在彼女が一番に注目していることは遠くから飛んでくる怪獣だった。


「おっ、あれってドラゴンじゃん。かっけーな、しかも群れだ」


全身がウロコに覆われており、大きな翼が生えた巨躯(きょく)に鋭い牙が生えた口。

加えて、獰猛そうに思える目つきと鋭利な爪が目立つ手足は、まさにドラゴンそのものだ。

また知能が高いらしく、一目で分かるほど統率の取れた団体行動をしている。

それらドラゴンは眼下の楓華には目もくれず、烈風を巻き起こしながら彼女の遥か頭上を通り過ぎる。

ただ、通り過ぎた後もドラゴンたちの賑やかな会話が聞こえてきた。


「よっしゃ~!バーベキューだぜぇえ!ふぅ~!バーベキュー奉行(ぶぎょう)としての腕と腹が鳴る~!」


「家族でお出かけなんて久しぶりね。化粧も、いつもとは少し変えてみたの。どうかしらアナタ?」


「ほう、どおりで今日の母さんは一段と綺麗なわけだ。そういえば、あの村では美容に効く作物が栽培されているらしいぞ」


「それについてはリサーチ済みよ。それとお土産以外にも化粧品まで売っているスーパーマーケットがあるらしいから、そこで買い物しましょうね」


「そのお店の(うわさ)は聞いている。あの龍神プラチナ・マイケルも絶賛していたからな。私も楽しみだ、がっはっはっはっは~!」


笑い声が響き渡って来るほど愉快な雰囲気。

そのままドラゴンたちは楓華の後方へ飛んで行ってしまい、彼女はそれとなく目で追って振り返った。


「あらら、反対方向に村があったのか。だからと言って、わざわざ戻るのは気が滅入(めい)るしな。多分ドラゴンの村だろうし、アタイはこのまま進もーっと」


結局楓華は元の方向へ向き直して、再び鼻歌を歌いながら進み続けた。

そして、お気楽気分のまま歩いて数十分後のことだ。

ようやく人間の住居であろう建物がチラホラと見え始めて、彼女の足取りは軽くなる。


「よし、人が居そうだね。もう途中で何度お昼寝しようと思ったことやら……。あと喉が渇いたわぁ」


楓華は閑散とした村の区域へ足を運びながら、まずは村人を探した。

すると遠目ではあるものの、眼鏡をかけた少女が早足で歩いている所を彼女は目撃する。


「いいね、第一村人を発見。おーい!そこの女の子、ちょっと良いか~!?」


すぐさま楓華は大声で呼びかけながら駆け寄った。

その呼びかけによって眼鏡少女は過剰に驚いて体を硬直させた後、なぜか助けを求めるように何度も周りを見渡す。

そして怯えた表情で固まり、楓華が近づいた頃には腰が大きく引けていた。


「わりぃ。驚かせちゃったみたいだね。まぁアタイなんて見知らぬ人だから、そんな反応にもなるか」


「っはぃ……」


楓華は愛想笑いを作り、気さくに話しかけたつもりだった。

だが、相手が発した声は最初から消えかけている上、そもそも返事なのか判別できない反応だ。

もはや喉を鳴らしただけも同然。

しかも眼鏡少女は恐怖と警戒心が入り混じった眼差しを向けるだけで、それ以上は喋ろうとしなかった。

それどころか静かに後退りして距離を空けてくる。


「ちょっと待ってくれ。アタイは時雨楓華って言うんだ。気軽に楓華って呼んで。それで記憶喪失のせいで何も分からなくて、さっきから途方に暮れているところ」


「あぅ、フウカ氏ですか……。でも、記憶喪失……?」


「そこは信じてくれなくても構わないよ。何もかも忘れているってわけじゃないしね。とにかく、アンタの名前は何て言うの?」


「す、すみません。(それがし)の名は……あの、その……ヒバナと言います」


ヒバナと名乗った眼鏡少女は、楓華とは身長差があるため上目遣いで見つめながら頭を下げた。

一挙一動がたどたどしく、初々しく、おどおどとしている。

特に自信が無さ()(はかな)い様子は、姉御肌である楓華の心を惹きつける魅力があった。


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