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19.全員が餌食に……しかし楓華はクレープを食べる

ミルがスライムに襲われている一方。

時を同じくして、ヴィムも家具一式が揃った個室へ放り込まれていた。

そして彼女も今、ミルと同じように最大の危機と直面している。


「あぁ私、ここで死んでしまうのね……」


ヴィムは生きることを諦めた絶望の表情を浮かべる。

見れば、彼女の前には青虫が一匹いるだけだ。

しかも虫の体は手の平より小さいので、標準的なサイズの青虫で脅威とは言い難い。

敵意も無ければヴィムを意識している気配すらない。

それなのに彼女は気絶しそうなほど強い目眩(めまい)に襲われて、吐き気を覚えていた。


「もうこの状況が無理すぎるわ。何よりも嫌いなものと一緒に密室に居るなんて……あまりにも拷問よ」


そう言った直後、青虫は空中浮遊してヴィムの顔へ目掛けて接近を始めた。


「きゃああああああああぁああああ!!?ムリムリムリムリムリいぃいい!もしかしてお化けの仕業!!?恨むわよ!私はおばけを恨むわ!って、もう本当にやめて!虫を近づけないでぇぇええぇえ!!」


涙を流して全力で張り上げる絶叫。

この凄まじい悲鳴はお化け屋敷の外まで貫通し、外で待機していたヒバナの両肩をビクッと驚き上げるには充分な効果があった。


「えっえっ?今のはヴィムお姉ちゃんの悲鳴?もしかして危険な状況!?ど、ど、どどどどどうしよう!?助けに……あぁでも某が行っても……でもでも放っておけない!あぅ、でもでもでもぉ~……!」


ヒバナはパニックになって慌てふためく。

その異常な様子が注目を集めたらしく、同じくハンティングに来ていた(いか)つい見た目の人達が集団で駆けつけてくれた。

彼らは重装備であり、一目で分かるほど歴戦の兵士を風格を感じさせる。


「どうしたお嬢ちゃん!大丈夫か!?」


「あぅ、あのえっと……えっと……」


相手に心配されるも、やはりヒバナはまともな返事ができない。

だからヒバナは通信機を使い、言葉の代わりにメッセージで話を伝えた。


「なになに?この屋敷に姉妹が入って危険な状況だと?よし、分かった。ここで待ってな。すぐに助けに行ってやる。ほら、野郎ども!行くぞぉお!」


「おおぉおぉおおおおお!!」


駆けつけて来たグループは一団となって掛け声をあげ、一斉にお化け屋敷へ突入する。

ヒバナからすれば自分が助けに行くより頼りになる話だ。

だが、1分足らずでお化け屋敷の至るところから野太い声の悲鳴が聞こえてくるのだった。


「か、母ちゃん!?なんでこんなところに!?うわぁ勘弁してくれ!稼いだら出て行くから!ひぇええええぇえ!」


「マチコ!?マチコじゃないか!俺が悪かった!あのとき、浮気したのは気の迷いだって……おい!包丁を投げるな!結婚記念日にアカネちゃんのライブに行ったことも謝るから!うぉおおおぉ!!?」


「くそっ、これはあの時の戦場だ……!俺のトラウマが、うぐぅ……」


「俺は海の怪物が死ぬほど嫌いなんだ!来るな来るな!やめろぉおおぉぉおおお!」


「うぎゃああああああぁああぁあ!!落ちる落ちるぅううううぅううう!うひぃいいいいいいいい!?」


他にも沢山の悲鳴が絶えず聞こえてくるので、まさに地獄の怨嗟(えんさ)と化していた。

この状況にヒバナは別の恐怖感を抱き、もはや怯えるどころの騒ぎでは無くなっていた。


「あぁ……。皆さんがどんどんと餌食(えじき)に……そんな……。こんなはずじゃあ……うぅ……。こ、こうなったら某が行くしか……!」


「ヒバナちゃん、落ち着きな」


「フ、フウカ氏……!」


ヒバナは楓華に話しかけられたことに気が付き、ほんの少しだけ平常心を取り戻して振り返った。

すると楓華は手に4つのクレープを持っていて、1つは食べている最中だった。


「あれフウカ氏、あの~?」


「はむはむ……うん、どうやらここは本人にとって一番恐いものが出るらしいね。中々に趣味が悪い技術だ。……あっ、1個たべる?」


「その口ぶりから察するに、4つとも全部自分で食べる用だったんですね……」


「ご名答。もちろん最初はシェアしようかなと思ったけど、自分の欲望を抑えきれなくなってね。さて、じゃあアタイもお邪魔するかな」


楓華はヒバナにクレープを1つだけ手渡した後、軽い足取りで大扉へ近づく。

あまり危機感を覚えてないような余裕っぷり。

その無用心な行動にヒバナは慌てて声をかけた。


「ま、待って下さい!もしフウカ氏までやられてしまったら、某1人ではどうしようもないですよ!」


「んー、まぁ大丈夫だよ。それにアタイが一番恐いものが何か、できれば知りたい所だしね。ということで、ちょっと行って来るわ」


「あっあっ、フウカ氏~」


不安になっているヒバナの引き止めも虚しく、楓華は自然体のまま大扉を開けて玄関ホールへ入る。

同時に大扉が閉まって、最初は彼女も同じように体が捕まる感覚に襲われるのだった。

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