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18.お化け屋敷へ突入すれば待っているのはやっぱり恐怖体験

ハンティングの仕事で遊園地廃墟へ行き、お化け屋敷を探索することにした3姉妹。

長女ヴィム、次女ヒバナ、末っ子ミルは最大限に注意を払いながらお化け屋敷の大扉前まで接近した。


「お姉ちゃん、扉はミルが開けるから。たとえ敵が待ち構えていてもパニックにならないでね?こういう時は慌てたりするのが一番危険なんだよ。だから大事なのは状況確認で、常に撤退の余地を残すこと」


ミルは幼くても充分な訓練と実戦経験を積んでいるため、簡潔な指示を率先して出す。

彼女は姉2人の能力と性格を把握しているので、その判断は誰よりも適切で信頼できるものだろう。

それは姉側も理解している。

だが、やはり根が素人なので、突入するとなれば過剰な不安を抱いて弱気になってしまう。


「私たちだけで大丈夫かしら。やっぱりフウカちゃんを待つか、他の人と連携するべきな気がしてくるわ」


この吐露にミルは即座に答える。


「こっちが大人数だと相手が相応の歓迎してきちゃうから、もっと危険になるだけだよ。それにあれこれ(・・・・)考えるより、目の前のことに集中して。雑念の排除は武道でも基本でしょ?」


「……そうね。下手な考え休むに似たりだわ。私はもう大丈夫よ」


「うん。ちなみにヒバナお姉ちゃんは大丈夫?」


ミルが声をかけるものの、ヒバナは唇を震わすだけで返事ができなかった。

どうやら極限まで緊張してしまい、まともに思考が働いてないらしい。

つまり既にパニック同然で、とても同行できる精神状態では無かった。

これにはミルも作戦を改める必要があり、彼女の返事を待たずに言葉を続けた。


「ごめん、やっぱりヒバナお姉ちゃんは待機ね」


「あぅ……」


「いいよ、気にしなくて。いわゆる適材適所ってやつだから。その代わり、すぐにこっちの連絡や応援に出られるよう準備しておいて。ね?」


「はぃ……」


「それじゃあ行くね。……こほん。いやぁミルってば、お化け屋敷たのしみだなー!」


ミルはいきなり遊園地を純粋に楽しむ子どもになりきって、はしゃぐ手振り身振りを始めた。

敵に監視されているということだから、少しでも油断させる狙いがあるのだろう。

その安っぽい演技にヴィムは合わせて、事務的な笑顔を作る。


「そうね、ヒバナはフウカちゃんをお願いね。私とミルは2人で先に行くから。それじゃあ、いっぱい楽しんで来るわ」


そうヴィムが喋る隣で、ミルが待ちきれないという振る舞いで大扉を開ける。

開けた先に見えるのは、意外にも明るい雰囲気の玄関ホールだ。

それを視認した後、ミルとヴィムは共に屋敷内へ脚を踏み入れる。

しかし、彼女ら2人が入った直後に大扉は勝手に勢いよく閉められるのだった。


「あっ」


3人揃って呟いた頃には手遅れで、バタンという無機質な音と共に閉扉(へいひ)されて内部と外部が遮断される。

早くも断たれてしまう退路。

お化け屋敷らしい演出と言えるが、戦場ならば罠以外の何物でもない。

それをミルは知っているから警戒心を高めて身構える。

だが彼女の警戒は何も意味を成さず、一方的に体が取り押さえられる感覚に襲われた。


「まずいかも。これ幽霊っぽい。ミルの体が動かないんだけど」


「実は私、おばけって苦手よ」


「ヴィムお姉ちゃんは基本的に恐いもの全部が苦手でしょ。よく落ち着けるね」


「落ち着いて見えるだけよ。実際は震えられないくらい体が動か無いだけだもの」


ずいぶんと呑気に会話しているが、正体不明の何かが一方的に拘束してきているのは危機的状況だ。

2人とも指先1つ動かせない状態へ追い込まれており、抵抗しようがないほど身動きが取れない。

それでもヴィムは突入前の言いつけ通り慌てず、ミルの指示を促した。


「ミル、なんとかできそう?」


「んー……ミルの力でも体が動かないから金縛りかも。さすがに神経系妨害の対策はしてないなぁ」


「成す(すべ)無しってわけね」


「かもね。でも侵入者を撃退じゃなく拘束ってことは、まだこっちにチャンスが……あれ?」


話している途中、突如ミルの視界が一変してしまう。

広い玄関ホールで捕まっていたはずなのに、気が付いたら客室と思わしき部屋へ移動させられていた。

この不思議な現象には心当たりがあり、まだミルは余裕を保っている。


「強制ワープされちゃった。しかもヴィムお姉ちゃんとは別の所へ。うーん、全員がバラバラなのは本格的にまずいかな」


ひとまずミルは体の異常が無い事を確かめつつ、武器である棒を構え直した。


「体は動くようになっているね。あの玄関扉を通った人に作動する罠だったのかな。なんであれ、まずはヴィムお姉ちゃんとの合流を最優先しようっと」


ミルは喋りながら室内を見渡し、罠が無い事を確認する。

更に部屋の扉が他の仕掛けと連動してないか調べた後、ゆっくりとドアノブを捻った。

1人の時は誰の支援も受けられない。

それを知っているからこそミルは万全に備え、慎重に行動したつもりだ。

だが、扉を開けた先の通路で待ち構えているものは、彼女にとって最大の脅威だった。


「きゃあ!?」


ミルは幼い少女らしい悲鳴をあげて後ろへ飛び跳ねる。

彼女が不意に対面したものは、粘度が非常に高い液体生物……要するにスライムだった。

しかも扉より大きいサイズだ。

ミルは血相を変えて扉に突撃して、力強く閉める。

同時に扉の向こう側から強い圧力を感じるので、スライムが開けようとしてきていることが五感で伝ってくるのだった。


「なんで屋敷にスライムがいるの!ミルはスライムが一番苦手なの!もう嫌い嫌い大っ嫌い!ヌメヌメぬちゅぬちょの生き物なんて気持ち悪いよ!うわぁあああぁ~!」


本気で叫んでいるから、より厳しい文句だ。

ただミルは嫌悪感より恐怖の方を強く感じているらしく、手が震えて涙目になっていた。

自分が一番恐いと思う存在に追い詰められている状況ほど、本人にとって最悪な出来事は他に無いだろう。

この状況に陥ってしまえば、なるべく相手を近づけないよう抵抗することしかできないものだ。



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