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16.心配性のおじいちゃんと楓華の謎技能

提督の爺さんは溜め息を吐いた後、あまりにも正当な言葉を吐く。


「おめぇらマジかよ。生身1つでハンティングに向かうなんて正気じゃねぇぞ」


「あはっ、アタイと違って仕事内容も知っていたわけだからね。マジウケるー」


「いや、おめぇも笑っている場合じゃねぇぞ。俺様はミルお嬢ちゃんの力を認めているが、それでも素手で(おもむ)かせることは絶対にしねぇ」


「あれ?ミルちゃんって武器を使うの?」


「おめぇは何を言っているんだ?人間なんだから道具を使うのは当たり前だろ。というより、ミルお嬢ちゃんは武器の扱いが超一流だぞ」


「あら、マジか。じゃあアタイと手合わせしたときは100%の実力ってわけじゃなかったのか。そう言われたら心当たりはあるけどさ」


同時に楓華は、手合わせ時にミルが竹を振るっただけで空を裂いていたことを思い出す。

あれは体術を極めているだけでは不可能な芸当だ。

とにかく武器の類が必要なのは避けられず、提督の爺さんは目配せしながら喋る。


「仕方ない、今回は仕事道具を貸してやる。特別サービスとしてフウカお嬢ちゃんにもな」


「やった。ありがとー提督おじいちゃん」


「俺様をおじいちゃん呼びだと?ずいぶんと馴れ馴れしい奴だな」


「まぁ細かいことを気にしたら負け、ってね。それより仕事道具ってどんなのあるわけ?」


「管理用のデータベースがある。数まで合っているか分からんが、ログに表示されているブツはあるはずだ。保管状態はあまり期待できないかもしれんがな」


またもや楓華からすれば理解し難い用語が飛び出る。

だが、その細かい説明を始めるより先に提督の爺さんは目の前で立体ホログラムのメニュー画面を出現させた。

まさしく近未来であり、ゲームで馴染みあるデータ表示の仕様と言える。

それを楓華が慣れない手つきで操作しつつ、道具一覧に目を通した。


「おっけーおっけー。だいたい分かったよ」


「色々と早いな。武器だけじゃなく工作道具を含めたら数百種もあるのに、見始めて1分も経って無いぞ」


「んー、なんかアタイはこういう解析が得意みたい。それと姉妹が使う道具も決めたよ。なるべく軽装が良いし……まずミルちゃんは戦闘用の棒ね」


「おめぇが決めるのかよ」


提督のツッコミは真っ当だ。

それにミルも不思議そうな顔で尋ねる始末だった。


「なんでミルは棒なの~?棒術もできるけど、どうせなら薙刀の方が得意だよ?」


「そりゃあ場所が廃墟って話だし、薙刀だと確実に破壊するでしょ。アタイが選んだのは伸縮自在の棒だからね。空間の広さに合わせて使い勝手を変えられるし、あと殺傷能力を抑えたい時に便利じゃん」


「おぉー。フウカお姉様ってば場数を踏んでいる感じじゃないのに、見極めの才能を持っているね」


「なんでだろうね、アタイ自身も不思議だよ。で、ヒバナちゃんは長銃かな。一番体力が無いみたいだからサポートに徹した方が良さそう」


銃という話が出てヒバナは慌てる。

それもそのはずで、なぜなら銃に一度も触れたことすら無いからだ。


「えっ!?そ、某が銃ですか!?某は銃の事なんて知識ほぼゼロですよ!超が付くほど素人です!」


「ヒバナちゃんは目と反射神経が良いからね。ミルと手合わせした時、アタイの動きが見えていたでしょ?」


「あっ……うーん?どっ、どうでしょう?あの時は土埃で眼鏡が汚れて、ほとんど何も分からないままでしたけど……」


思わぬ展開にヒバナが困惑する一方、末っ子ミルが思ったことをそのまま呟く。


「フウカお姉様ってば、ミル相手に余所見(よそみ)する余裕があったんだ。これでも実力に自信はあったから、ちょっとショックかも」


「好きな子をケガさせたくないから如何(いか)なる時でも気を遣わないとね。あと銃の詳細を見たところ、専門的な知識や経験がほとんど要らないみたいだしさ」


そう言いながら楓華はデータベースに再度アクセスし、銃に関する情報を表示する。

それを先に提督の方へ見せると、相手は感心して唸った。


「確かにこれはヒバナお嬢ちゃんでも使えるな。どの種族でも扱いやすく、特に人間からすれば全自動同然だ。しかし、よく細部まで見て理解しているな」


「なぜか解析に得意みたいだからね」


「ハッ、それは魔法の言葉か?ったく、記憶喪失前は何をしてた奴なんだか」


「案外、アタイは秘密結社の超優秀な精鋭エージェントなのかも。にへへへっ」


「笑えるな、そいつは傑作だ。だとしても、最も重要なのは今のおめぇの気持ちだがな」


「それについては同感。アタイ自身が何者であっても、もう姉妹に生涯を捧げることを誓ったつもりさ」


楓華は格好つけて堂々と言いきる。

既に大きな信頼関係を築けているから、とても頼もしい言葉かもしれない。

しかし、楓華の想定とは異なる反応がそれぞれが返ってくるのだった。


「おめぇ……いくらなんでも重過ぎるだろ。ヤベェ野郎だ」


「フウカちゃん、そこまで熱烈な愛情を受け止めきれる自信が無いわ」


「フウカ氏の覚悟が暴走する厄介ファンみたいで怖いです」


「ド変態お姉様だ。今すぐハンティングしなきゃ」


ここまで一丸となってドン引きされた上で否定されてしまうと、楓華ですら駄目な発言だったと自覚する。

ただ、割かし頑固な方なので彼女は安易に信念を曲げなかった。


「ちょっとショックを受けたけど、これで(へこ)むアタイじゃないよ。ははっ、ふふふ……ふぅ」


「酷く渇き切った笑い声ね」


「一応言っておくけど、アタイでも悲しいという感情はあるからね?それよりヴィム姉が使う仕事道具のことだけど……」


それから楓華はヴィムの道具まで決めた後、現場へ到着する前に仕事道具の確認を行った。

また細かな調整も楓華が主導で進めるので、経験と知識が豊富な提督からすれば不思議な技能の持ち主のように映る。

少なくとも実戦全般に関する能力が高いことは確実であって、どう考えても一般人から掛け離れていた。

その姿を思い当たる例で言うならば、歴戦の兵士。

そのせいで疑う気持ちが晴れず、提督は倉庫でミルにこっそり話しかける。


「ミルお嬢ちゃん。こいつは貴重品だから安易に渡せるものじゃないが、持っておけ」


そう言って渡してきたのはペンのような物だった。


「んーこれは何?ボールペン?」


「ペンの形状なのは偽装だ。ボタンを押せば、高位存在を滅ぼせる薙刀に変化する。元は神殺しの組織『レジェンド』が保有していた兵器で、知り合いの店長から貰った逸品(いっぴん)だ」


「つまり緊急時用の武器ってこと?」


「まぁな。例えばの話だが、おめぇら姉妹の仕事道具を選んだのはフウカお嬢ちゃんだ。そこから内部情報が流れたとき、予想外の手を持っておいた方が利口だろ」


「ふぅん……。うん、分かったよ。ミルたちを心配しているなら、その好意を素直に受け取った方がいいよね」


「ちっ、まぁいい。そういうことだ」


提督が舌打ちをしたのは、ミルに本当の意図を見抜かれたからだ。

子どもに警戒している心を知られているなんて、彼にとっては恥ずかしい話だ。

だから彼は逃げるように背を向けて離れて行ってしまう。

対してミルは提督のことを心配性だと思い、口元を緩めた。


「提督ってば、完全に職業病だなぁ。色々と面倒事に巻き込まれた経験のせいで、つい気になっちゃうのはミルでもちょっと分かるけどね」


こうしてミルは提督から秘密兵器を受け取った後、更に仕事するメンバー全員に連絡用の端末が配られた。

それから宇宙戦艦は目的地の遊園地廃墟へ辿り着く。

しかし、全員が見た場所は廃墟とは到底言えない状態だ。

輝かしい灯りが遊園地全体に広がっていて、明るい音楽とアトラクションの稼働音が聞こえてくるのだった。

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